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ビットコイン・バブルは続くのか? ICO間近の米国大手ネット通販オーバーストックが描く未来予想図

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 ビットコイン・バブルが続いている。今年初めは1000ドル以下だったビットコイン価格が、11月末には11000ドルを超え、12月7日には16000ドルを超えた。このままバブルが続くのか、それとも弾けるのか。

 アメリカで、いち早くビットコイン決済を導入したのが大手ネット通販企業オーバーストックだ。今年起きたビットコイン・バブルで、同社の株価は7月末から11月末にかけて310%も上昇して注目された。2014年にビットコイン決済を導入してから4年、同社の株価は着実に上昇線を辿っている。8月には、受け入れる仮想通貨を40以上追加し、現在、50以上の仮想通貨による決済を導入している。12月18日には、同社子会社のブロックチェーン証券取引所「tZero」を通じて、ブロックチェーン上でデジタルトークンを売り出す。同社は、このICO(イニシャル・コイン・オファリング)により、ICOではこれまでで最大となる500ミリオンドルを調達する計画をしている。

 ICOとは、株券を発行して資金調達するIPO(新規株式公開)に対して、企業が自社のデジタルトークンを発行して資金調達するもので、ある企業が発行したデジタルトークンを購入した投資家は、それをそのまま保持したり、ビットコインやイーサリアムなど人気のある仮想通貨とトレードしたりすることができる。

 オーバーストックでブロックチェーンに関わるプロジェクトを牽引しているのが、同社の社長、会長を経て、現在は、ブロックチェーン技術に投資している同社子会社“メディチ・ベンチャーズ”で社長を務めるジョナサン・ジョンソン氏だ。ジョンソン氏は、仮想通貨やブロックチェーンの未来についてどんな見解を持っているのか。

ビットコイン・バブルは弾けない

 ビットコインがバブルだと囁かれる中、ジョンソン氏はその未来には大きな自信を持っている。

「今はビットコインへの興味が高まっているので、若干バブルだと思いますが、弾けるとは思いません。価格は一時的には落ちても、時とともに、上がっていくと思います。では、ビットコインの価格はどれだけ上がるのか? その答えは、今後、連邦政府がどれだけの紙幣を印刷するかにもよるでしょう。ビットコインは2100万枚という発行上限がありますが、米ドルや日本円には上限がありません。政府はただ紙幣を印刷し続けている状態で、それはインフレを生み出します。そしてインフレになると、ドルも円も貨幣価値の保存が上手くできなくなります。しかし、ビットコインは上限があるので価値の保存ができます。今後、ビットコインは価格の上下を繰り返しながらも、時とともに、着実に成長していくと予測しています」

アマゾンやアップルがビットコイン決済を受け入れていない理由

 しかし、実際のところ、小売の世界ではビットコイン決済があまり普及しておらず、アマゾンやアップルなどの大手企業もまだビットコイン決済を受け入れていない。その理由について、ジョンソン氏はこう説明する。

「ビットコインの価格は変動するため、会計が非常に複雑なのです。アメリカの税法では、ビットコインは通貨ではなく、金や株のようなプロパティーとして取り扱われているからです。そのため、ビットコインを売却することで資産売却益が生じると、課税されてしまいます。現在の米国の税法では、ビットコインを通貨として容易に使える環境が整っていないのです」

 例えば、500ドルの物をビットコインで購入したとすると、米国の税法では、ビットコインというプロパティーを売却したと見なされる。ビットコインをいくらの時点で購入し、いくらの時点で売却したかにもよるが、売却により得た利益に課税されてしまうのだ。また、ビットコインを短期売買したか、長期売買したかによっても課税の%が変わってくるという。この複雑さが、仮想通貨決済が米国では普及しにくい足枷になっているとジョンソン氏は考える。

 

新法案の承認に期待

 そんな中、ジョンソン氏が注目しているのは、アメリカで出されている新法案が承認されるかどうかだ。二人の議員がブロックチェーン技術を促進しようと”ブロックチェーン委員会”を立ち上げて出した法案で、600ドル以下の購入に対して使われた仮想通貨は、プロパティー扱いではなく通貨扱いにすることを提案したものだ。この法案が承認されると、例えば、300ドルの椅子やスタバのコーヒーを購入するために使われたビットコインは通貨扱いされるようになるという。

「アメリカでは税制改革が行われようとしていますが、その中にこの法案が組み込まれたら、承認される可能性があるとみています」

とジョナサン氏は新法案の承認に大きな期待をかけている。

ブロックチェーンにより描かれる未来予想図

 ICOで調達した資金で”ブロックチェーン革命”を起こそうと考えているオーバーストックだが、ジョンソン氏はどんな未来予想図を描いているのか。

「ビットコインが普及する未来では、ミドルマンが少なくなります。現在、第三者同士がビジネスをする場合、銀行が仲介します。家を購入する場合はブローカーや保険会社が仲介します。彼らのようなミドルマンたちが、第三者同士が信頼し合える手助けをしているのです。

 しかし、ブロックチェーンを使ったピア・トゥ・ピアの取引では、ミドルマンを介すことなく、直接、低コストで、迅速に、効率的に取引きできるようになります。例えば、今は株を買う場合、株のブローカーに電話をしなければなりません。株のブローカーはその上にいるプライムブローカーにコンタクトします。取引が完了したら、また別のプライムブローカーにコンタクトします。そのため、最終的な取引完了まで3日もかかるのです。ところが、ブロックチェーン上で行えば、株の取引も迅速に完了します。当社が投資しているtZEROのブロックチェーンアプリを使えば、すぐに完了するのです。ブロックチェーンで株取引が行われるようになると、将来、株式市場は消滅するかもしれません。

 選挙の投票の際にもブロックチェーンは利用できると思います。今は、投票する場合、郵便局が投票用紙をきちんと配達するのか、投票を数える機械がちゃんと機能しているのかなど“ミドルマン”の信頼性に頼らなければなりません。投票した人に確実に投票されているのか信頼できない状況も起きています。しかし、ブロックチェーンなら、指紋認証さえできたら、確実に投票できるのです。

 ミドルマンが入ると時間やコストがかかり、詐欺や不正なども起きたりしますが、そういったことがなくなるので、生活はより良くなると思います。

 確かに、銀行や保険ブローカーなどの“ミドルマン”は職をなくすかもしれませんが、技術はまた新たにより多くの職を生み出すものなので、失業の心配はないと思います。

 今は、企業や規則を通して、第三者同士の信頼関係が保たれている状況ですが、ブロックチェーンは技術を通して信頼関係を保つものです。技術を通じて保たれる信頼は強固なものであり、それにより人々が結びつく社会は素晴らしいものになると思います」

 

仮想通貨が世界通貨になるのか?

 もっとも、仮想通貨については、投資家の間では懐疑的な声も少なくない。ウォーレン・バフェット氏は「ビットコインを評価することはできない。ビットコインは価値を生み出す資産ではないからだ」と発言している。

 また、筆者のインタビューで、ジム・ロジャーズ氏は以下のように回答した。

「私はビットコインは売買したことはありません。今の高値を見ると、私は機会を逸してしまったかもしれません。ただ、ここ数ヶ月は、価格がストレートに上がっている状況なので、今は買おうとは思いません。通貨は将来仮想通貨へと変わっていく可能性はありますが、ビットコインという仮想通貨へと変わっていくかについては懐疑的です。ビットコインは最初に登場した仮想通貨だからです。コンピューターはIBMではなく名もない企業に最初に発明され、その後、IBMの登場で普及しました。仮想通貨も同様で、最初に登場したビットコインが仮想通貨の主流になるかは今の段階では不透明だと思います」

 仮想通貨はまだまだ初期段階にあるということだろう。しかし、ジョンソン氏は、ブロックチェーン技術は加速度的に進歩すると予測する。

「将来、仮想通貨は普通の通貨と変わらない存在になるでしょう。給料も仮想通貨で支払われるようになると思います。今はドルが世界通貨となっていますが、将来はビットコインか、あるいは他の仮想通貨が世界通貨となり、1バレルあたりの石油価格も仮想通貨で表示されるようになると思います。ブロックチェーン技術の成長速度はインターネット技術の成長速度よりも速くなると思うので、10年以内にそんな未来がやってくるかもしれません」

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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