銀行員が「転職エリート」の時代は終わった――漂流する「銀行マン」たち
銀行員の転職熱が高まっている
世の中は、空前の人手不足です。有効求人倍率は1.59倍(2018年1月)。有効求人数「約275万人」に対し、有効求職者数が「約164万人」しかない状況です。知人の経営者は「入社してくれるなら、基本的に誰でもいい」と愚痴をこぼすほど、とくに中小企業において深刻な状況がつづいています。
このような現状があるいっぽう、大規模なリストラを発表している業界があります。それがメガバンクをはじめとした金融業界です。AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の普及により、大規模な店舗の統廃合などが進み、3万人を超える銀行員が転職市場に出てきます。
フィンテック等の台頭により業界全体が構造不況に陥っていくことぐらい、多くの銀行員は知っています。したがってリストラ対象にならない銀行員の中にも、転職を希望する人は増えています。
インターネットの普及により、銀行、証券会社、保険会社らが、顧客のためにならない商品も売っていることは多くの人に知れ渡りつつあります。心を痛める銀行員も多いのです。以前から銀行員の転職理由は、大きく分けて3つ。「閉鎖的で出世競争が激しい風土に嫌気がさした」「営業ノルマがキツイ」そして「お客様のためにならない商品を売るのがツラい」です。お客様にとって利便性が高いフィンテックが普及すれば、情報リテラシーが低いお年寄り以外で市場を開拓することは難しく、リアル店舗の存在意義も薄まりつつあります。銀行員の転職熱が高まって当然と言えるでしょう。
いまだ銀行員「転職エリート」か?
かつて銀行員は「転職エリート」と呼ばれていました。ビジネスパーソンとしての基礎力が相対的に高いからです。数字に強くて論理的。コミュニケーションスキルが高く、経営に関する知識も豊富で、将来の幹部候補として迎える企業も多いことでしょう。
しかし、実態はどうか?
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。クライアント企業の社長からは「目標の絶対達成」を求められているため、現場で成果を出せるかどうかで人を見ます。その人の学歴、職歴、保有している資格といったバックボーンには興味がありません。組織メンバーとして求められることは、「客観的データに基づいた仮説を立てられるか?」「仮説に基づいた行動計画を実行できるか?」「成果が出るまで高速に計画を修正しつづけられるか?」の3つです。
「柔軟性」が低い人、謙虚で素直で「行動力」がない人は、どんなにビジネスの「基礎力」が高くても成果を出すことはできません。銀行で働いていたときは優秀であったとしても、他の企業に移っても優秀とは限らないのです。
銀行出身で活躍できるのは、50歳を過ぎ、いろいろな業界の酸いも甘いも知ったベテランが経営幹部のひとりとして転職したケースではないでしょうか。取引先などに出向していた銀行員は、いろいろな企業の現場を知っています。調整能力が高いうえ、過去にしがみつき、なあなあにさせない厳しさも持ち合わせています。豊富な人脈があれば、さらに魅力的。
いっぽう、取引先や関連会社に出たこともなく、銀行員一筋でバリバリにやってきた30~40代の中堅銀行員はどうか。銀行に入るまでは基礎力が高かったでしょうが、銀行独特の風土に浸りきっているので、新しい会社に染まるには相応の「柔軟性」が必要です。年収が大幅にダウンすることも間違いなく、にもかかわらず、外部環境の変化によって新しい事業を立ち上げ、成功させていく力量も求められます。何があっても倒産しない銀行とは異なるリスク(不確実性)に対応するマインドこそ、大事なのです。
昔と違って、学歴や、出身銀行の名前など、現場では何も役立ちません。上司としてならともかく、部下として「元銀行員」を迎えるのを嫌がる人も多い。「銀行マン=エリート」という構図が、多くの人の頭に根付いているからです。
基礎力が低い「名ばかり銀行員」は、なおさらです。プライドが高ければ、転職先で人間関係に苦しむことでしょう。周囲から「エリート」というレッテルを張られて見られますから、
「メガバンク出身の割にはたいしたことないな」
……などと言われても、謙虚に受け止められる対応力が不可欠です。銀行員の転職熱が高まっています。しかし、かつて「転職エリート」と呼ばれた銀行員たちが「満足いく転職」ができるかどうかは疑問です。一般企業から転職組と同じように「ゼロからのスタート」と割り切る潔さが必要と思います。