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モットーは「人より練習する」。2部の朝鮮大出身ながらクボタで輝くルーキーFB金秀隆

斉藤健仁スポーツライター
7試合連続先発となるクボタの新人FB金(左)。右はSO岸岡(撮影:斉藤健仁)

4月10日(土)、11日(日)、いよいよリーグ戦の最終節を迎えるトップリーグ2021。その中でまさしく「エマージングスター」と呼ぶのにふわさしい活躍を見せているのがレッドカンファレンスで2位争いを演じているクボタスピアーズの新人FB金秀隆(きむ・すりょん/朝鮮大出身)だ。

身長186cm、体重90kgのすらりとした長身FBは、第6節のサントリーサンゴリアスとの全勝対決では試合には負けたが、見事なステップでトライをアシストして見せ場を作った。

「自分はランニングが好きで得意としている。昔から(ニュージーランド代表)ダミアン・マッケンジーのプレーを見て、練習から間合いとか真似たりしていたのでできた」と破顔した。

◇朝鮮大出身の4人目のトップリーガーとなった

クボタには2020年春、一気に10人の新人が加入した。

大学選手権で優勝に貢献した早稲田大出身のSO岸岡智樹、明治大出身のWTB山﨑洋之といったビッグネーム、さらにはU20日本代表で活躍した天理大出身のFL岡山仙治、同志社大出身のLO堀部直壮、専修大出身のPR石田楽人の3人らと大学やユース代表で活躍した選手がずらりと並ぶ。

そんな中、関東リーグ戦2部でしかも近年、毎年入れ替え戦を戦っている朝鮮大から加入したのがFB金だった。大学4年間で、大学選手権はもちろん、主要1部リーグを経験したことのない選手はひとりだった。

FB金は強豪大からの誘いがある中で大阪朝高から朝鮮大に進学した理由を「大阪朝鮮、東京朝鮮、愛知朝鮮(高級学校)とあるが、その高校生たちが一つになれば、関東1部リーグで戦えると自分は思っていたので、そういう文化を作っていきたいと思って志望しました」と話した。

そして大学3年時の関東リーグ戦のセブンズでプレーしていた姿をクボタの石川充GMが見て、チームのトライアウトを経てクボタへの入団が決まったという。

朝鮮大からのトップリーガーはFB金で4人目となった。「自分が朝鮮大に入学したときからトップリーガーになってやろうと思っていたし、応援してくれる人の気持ちが重なってトップリーガーになれました。朝鮮大に来て良かった」と振り返った。

オンライン取材に応じるクボタFB金(撮影:斉藤健仁)
オンライン取材に応じるクボタFB金(撮影:斉藤健仁)

◇「2部リーグ出身選手でも十分に戦える」

FB金はもちろん、同期入団や先輩選手たちと比べて、当然、フィジカル、スキル、経験が劣っていることを自覚していた。

それでも「同期は本当に化け物ばっかりでしたが、『人より練習する』ことをモットーに、立ち位置などFBとして必要なことをクボタのいろんな先輩に学びました」と、この1年間、努力を重ねてきた。

プレシーズンマッチでは最初は途中からのスタートが多かったが、開幕直前のパナソニック ワイルドナイツとの試合で15番をつけると、そのまま開幕戦以降、先発を続けて6試合で2トライを記録している。

FB金は「2部リーグにもいい選手はたくさんいるし、2部リーグ出身の選手でも(トップリーグで)十分に戦えることが証明できている」と胸を張った。

また世界的名将の一人であるクボタのフラン・ルディケHC(ヘッドコーチ)はFB金について「試合に出るにつれて安定してきているし自信をつけている。前節でもスペースをうまく見つけていたしスピードもあった。コンタクトも強い。試合に出れば出るほど良くなっている」と目を細めた。

◇「トップリーグで通用する部分も感じている」

将来は「日本代表になりたい」というFB金は、昨年度の「花園」こと全国高校ラグビー大会でベスト4に入った母校・大阪朝高に対しては「だんだん部員が減っていっていることは非常に残念に思っていますが、それでもスポーツの力は大きい。花園ベスト4のように結果を残したら、また部員とか増えてくると思うので期待しています」とエールを送った。

もちろん、FB金は、4月11日(日)の最終節のトヨタ自動車ヴェルブリッツ戦でもスターターに名を連ね、開幕戦から7試合連続の先発出場となった。

今後の試合に向けて「トップリーグのレベルの高さを痛感している部分と、自分でも通用する部分もあると感じている。自分ができていない部分ができていけたらいいな」と意気込んだ。

大学時代、無名だったFB金は、自らの努力とチームのサポートもあり大きな成長を遂げた。

4月中旬からは20チームによる、プレーオフトーナメントも始まる。最後のトップリーグで初優勝を目指すスピアーズで、ルーキーが得意のランで試合を決める決定的な仕事ができるか。

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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