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【戦時の献立】結婚式も甘い物もジリ貧に…戦時下にふさわしいデザートとは?(昭和15年9月15日)

Sake Drinker Diary映像をつくる人

もし戦時中に料理ブログがあったら?題して『戦時の献立』

戦時中の料理をレシピに忠実に作り、その味や調理方法をブログ風に伝える「戦時の献立」。
今日は昭和15年9月号の主婦之友から「甘藷ゼリー」である。念の為に書いておくが、これで「さつまいもゼリー」と呼ぶ。
前回の「ポテトキャンディ」に引き続き、「じゃがいもとさつまいものお八つ」という特集記事から選んだ献立だ。
しかし「ポテトキャンディ」とはちょっと事情が違う。
あちらは砂糖をたっぷり使うおやつだったが、今回は甘さ控えめ。砂糖は少々だ。
むしろこれがこの頃のスタンダードと考えて良いだろう。
前回の「ポテトキャンディ」の献立にはこんなことが書かれていた。

たまにはお砂糖を奮発したお八つで、お子様方を喜ばせませう。(「主婦之友」昭和15年9月号より)

つまり、頻繁に食べられるおやつではないことが明記されていた。
無理もない。
当時はすでに砂糖が配給制になっていたから、1ヶ月に使える分量が家族の人数によって制限されていた。
そして何より、この年の8月からは「ぜいたくは敵だ!」というスローガンが登場した。
戦時下にふさわしい質素倹約があらゆる場面で求められ、それを政府やメディアは「新体制」と呼んだ。

それまで当たり前だったものを我慢し、生活が不自由になるにもかかわらず、「新」と付けて聞こえの良い言葉にすり替えている。ちょっとした詐欺にも感じる。

前回の記事では、この新体制のうち「服装の新体制」についてお伝えした。今回は「結婚式の新体制」である。

政府の広報誌が伝えた「結婚式の新体制」とは?

当時、政府が広報誌として出版していた「写真週報」では、都会の中流家庭をモデルにして、戦時下にふさわしい結婚式について解説している。

「写真週報」昭和15年9月11日号
「写真週報」昭和15年9月11日号

記事の右上を拡大してみると…

記事の右上を拡大してみると…タイトルは「結婚新体制」
記事の右上を拡大してみると…タイトルは「結婚新体制」

見す見す無駄とは知りながら、世間さまの風習に引きずられ、むなしい見栄におびただしい費用をかけてゐた結婚式。これも新体制下の今日では、キレイサッパリ宿弊一掃、真に簡素で厳粛な結婚の様式を確立しよう。
(「写真週報」昭和15年9月11日号より)

記事はこんな文章から始まる。
宿弊(しゅくへい)とは、以前からあった弊害のこと。
それをキレイサッパリなくしてしまうという。

まず結婚式の式服に関して。花婿はモーニングをやめ、国民服に国民儀礼章をつければ立派なものだという。
花嫁は振袖を絶対にやめ、留袖にするよう書かれている。そうすれば振袖を用意しなくても良いし、一着であればお色直しする必要もなくなるという。

ちなみに国民服とは軍服と同じカーキ色で、男子が着ることが推奨され、法制化もされた服装。簡素な生地でありながら丈夫。普段着でありながら、儀礼章という飾りをつければ礼装とすることができた。
ネクタイやスーツなんて買わずに、この丈夫な国民服を一着買って、様々な場面で着ろということである。

夫婦盃
夫婦盃

他にも、披露宴はできるだけ最少人数にとどめて、そのほかの人にはハガキで報告しましょうとか、記念写真は大きくして人を驚かすばかりでは能がないから、キャビネ版か八つ切り以内で充分だとか書かれている。(キャビネ版は13cm×18cm。八つ切りは約17cm×22cm)

披露宴と記念写真
披露宴と記念写真

当時は現在よりも様式的なことを重視していただろうから、結婚式の簡素化には抵抗があっただろう。それを政府が広報誌で大々的に示せば、国民も受け入れやすかっただろう。

こうして経費を節約していき、結納は両家で14円程度で済ます。さらに新婚旅行には行かないことで、従来の中流家庭の結婚式よりも1200円ほど安上がりになると試算している。

ちなみに、その浮いた1200円は国債(国が戦費調達のために販売していたもの)を買うように書かれている。そういう所は実にちゃっかりしている。

このように政府は国民に、戦争のために我慢し、節約することを明確に要求するようになった。
そんな中での、手作りおやつ「甘藷ゼリー」である。
戦時とはいえ、目に入れても痛くない子供のために作るゼリーとは、いったいどんな味、どんな作り方なのだろうか?

ここから先は、昭和15年9月15日だと思ってご覧いただきたい。

昭和15年9月15日、日曜日。1日晴れたが、浮かない気分なり。
さつまいものゼリーに、大いに落胆した。
甘くない。
家内の婦人雑誌には芋を茹でてから裏漉しすると書いてあったが、蒸した方が良かったのではないか。
茹でたせいで甘みが抜けたようである。

いや、作り方の問題ではないのだろう。
最近作ったおやつが甘すぎたのだ。
スノープディングも、ポテトキャンディも、ぜいたくに砂糖を使いすぎていたのである。
今はこれくらいが、せいぜい私たちに許される甘さなのである。
そう考えざるを得ないのが、やるせないナァ。

これでは子供も喜ばんだろう。
さわ子とはな子はどうしているだろうか?
ヨシコはちゃんとうまいものを食べさせているだろうか?
おやつで気分が滅入るとは本末転倒なり。

【さわ子、はな子、ヨシコについて】
ヨシコは私の妹。さわ子、はな子はヨシコの娘である。
私にとって姪にあたる。遠方に住んでいるが、名前がたびたび登場する。(昭和14年11月の『お子様ランチ』など)

では、こしらえていこう。

【材料】
・甘藷(さつまいも)
・砂糖 少々
・卵 1個
・板ゼラチンと水 (裏漉ししたさつまいもコップ2杯に対して、板ゼラチン5枚を水180ccで煮溶かして使う)
・生姜のしぼり汁 少々

まず、さつまいもを茹でるのだが、のっけから分量が書かれていない。ちょっと大きめのさつまいもだったので、半分ほど使うことにした。

火が通りやすいように切ったら、これを茹でる。

茹でたら、これを裏ごしして…

砂糖を少々加えて甘味を補う。

砂糖少々…二つまみくらい入れておくか?
砂糖少々…二つまみくらい入れておくか?

さらに卵の黄身を落として、よく混ぜ合わせる。

白身は後で使うから取っておくべし
白身は後で使うから取っておくべし

次に、この混ぜ合わせたものコップ二杯分に対して、ゼラチン五枚を一合の水で煮溶かしたものを加える…難しいこと言うナァ。

目視で判断するか、実際にコップにつめて計るか…
なんとなく「コップ四杯分くらいあるかナァ?」と目視で判断し、ゼラチン十枚と水二合でやってみた。

さらにここへ、生姜のしぼり汁をちょっと加える。こうするとずっと味が引き立つのだという。

これだとおろし生姜を入れているように見えるが、ちゃんと汁だけ入れた。安心してほしい。
これだとおろし生姜を入れているように見えるが、ちゃんと汁だけ入れた。安心してほしい。

最後に固く泡立てた卵白を入れて、軽く混ぜ合わせ…

白身を入れた後は、軽く混ぜ合わせるべし
白身を入れた後は、軽く混ぜ合わせるべし

型に入れて冷やし固めたら出来上がりである。

「甘藷ゼリー」完成なり

では、いただきます。

切ない…
切ない…

甘くない上に、生姜が滅法界主張している…さつまいもを押しのけるほどの存在感だ。ちょっとしか入れていないつもりだが、多すぎたか?

それに食感も良くない。ゼリーとはもっと形のはっきりしたものであろう。しかしこれは、なんだかモワモワとした、得体の知れぬものを食っている気分である。

手間ひまかけて作ったものがコレか…

家内はというと…言葉なく、無理やり口に押し込んでいる。
大人でさえ無言になってしまうものを、子供が喜んで食べるとは思えん。私の作り方がよくなかったのか、それともそもそもこういう味なのか。
食べれば食べるほど欲求不満がつのるおやつである。

無駄にはできんからちゃんと全部食べきった。
無駄にはできんからちゃんと全部食べきった。

ごちそうさま。今度はうまいものを作ろうと思う。

動画も楽しんでいただけると有り難し!

作り方を動画で見たい方はこちらをどうぞ。

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映像をつくる人

左利きの映像製作者。気分転換は料理です。「左利き」とGoogle翻訳に入力してみたところ「Sake Drinker」と出てきたため、それに日々の記録という意味での「Diary」を足しました。お酒は好きですが、浴びるほどは飲みません。

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