シリア:米露の綱引きが続くなか、国連安保理は越境人道支援を辛うじて半年間延長
国連安保理は、シリア北西部のイドリブ県のバーブ・ハワー国境通行所(トルコ側はレイハンル国境通行所)を通じた周辺諸国からの越境(クロスボーダー)人道支援を2022年1月10日まで認めるとする安保理決議第2585号を全会一致で採択、国連安保理決議2165号(2014年7月14日)の有効期間を半年間延長した。
国連安保理決議第2585号
決議全文(英語)は以下の通り:
越境人道支援を認めた国連安保理決議2165号の有効期間が延長する決議が採択されたのは、第2191号(2014年12月17日採択――2016年1月10日まで延長)、第2332号(2016年12月21日採択――2018年1月10日まで延長)、第2393号(2017年12月19日採択――2019年1月10日まで延長)、第2449号(2018年12月14日採択――2020年1月10日まで延長)、第2504号(2020年1月11日採択――2020年6月10日まで延長)、そして2533号(2020年7月11日採択――2021年7月10日まで延長)に続いて7回目。
国連安保理決議2165号は、トルコに面するイドリブ県のバーブ・ハワー国境通行所、アレッポ県のバーブ・サラーマ国境通行所(トルコ側はオンジュプナル国境通行所)、イラクに面するハサカ県のヤアルビーヤ国境通行所(イラク側はラビーア国境通行所)、そしてヨルダンに面するダルアー県のダルアー国境通行所(ヨルダン側はラムサー国境通行所)を通じた越境人道支援を認めていた。
だが、国連安保理決議第2504号では、2018年半ばにシリア政府の支配下に復帰したダルアー国境通行所とヤアルビーヤ国境通行所が除外された。また、決議2533号では、バーブ・サラーマ国境通行所も除外され、越境人道支援が可能なのはバーブ・ハワー国境通行所のみとなっていた。
国連シリア大使の発言
バッサーム・サッバーグ国連シリア代表は決議採択後、「ロシア、中国をはじめとする諸外国の代表は、人道状況を改善し、シリア国内で支援を必要としている人々に支援を届けるのに奉仕するために重要な諸側面に光を当てようと努力してくれた」、「新型コロナウイルス感染症が生活面に与えるさまざまな影響に立ち向かい、一方的な経済制裁を解除しようとするシリアの努力を支援するものだ」と謝意を示した。
また「人道支援活動とは、単に被災者への緊急支援のニーズに対応することではなく、水利、保健衛生、教育、避難生活、リハビリにかかるプロジェクトを通じて基本サービスを支援し、それによって国内避難民(IDPs)や難民の帰還に相応しい環境を作るべきだ」と強調した。
一方、西側諸国に関しては、「自らのアジェンダに資するこの仕組みの延長にだけ努力を集中させてきた」、「一部の国は、人道支援搬入の仕組みを「命を救う動脈」などと表現して誇張し、世論を操作しようとした」、「これらの国は一方的な措置の結果として、数百万というシリア人が多くの県で苦しんでいることを無視している」と非難した。
そのうえで、「シリアは引き続き、国民の人道的なニーズに応じ、支援を必要としている人々を支援し、テロ戦争がもたらした負の遺産を軽減することをめざす」と表明した。
妥協を迫られた西側諸国
国連安保理決議2165号の失効が迫るなか、ロシアとシリア政府は、越境人道支援の廃止を主唱していた。これに対して、米国は、バーブ・ハワー国境通行所に加えて、バーブ・サラーマ国境通行所とヤアルビーヤ国境通行所を通じた越境人道支援を求めていた。
両者が鋭く対立するなか、ノルウェーとアイルランドは6月26日、バーブ・ハワー国境通行所に加えて、ヤアルビーヤ国境通行所を通じた越境人道支援を1年延長するとした決議案を安保理に提出し、妥協点を探った。
だが、ロシアは、この決議案が採決にかけられた場合、拒否権(Veto)を発することも辞さないとの姿勢を示していた。
最終的には、ノルウェーとアイルランドが示した決議案と、ロシアとシリア政府の主張の双方を踏まえたうえで、現状維持、すなわちバーブ・ハワー国境通行所を通じた越境人道支援の継続という妥協点に達した。
これに関して、パン・アラブ日刊紙の『シャルク・アウサト』(シャルクルアウサト)は、米国がロシアに新たな譲歩を行ったと伝えた。
同紙によると、譲歩の内容は、ヤアルビーヤ国境通行所の再開を断念するとともに、越境人道支援をシリア人のレジリエンス強化とリハビリテーションに限定することを誓約するというもの。その見返りとして、米国はロシアにバーブ・ハワー国境通行所を通じた支援継続を求めたという。