「百人一首の覚え方」の特許化は可能なのか?
「百人一首の覚え方で特許 漢字並べお経のように 磐田の医師小栗さん」という記事を読みました。ある程度特許に詳しい方であれば、「記憶術のようなアイデアは自然法則を利用していないので特許の対象ではないんじゃないの?」と思うかもしれません。特許法では、特許の対象となる発明を「自然法則を利用した技術的創作の思想のうち高度のもの」と定義していますので、ゲームのルールや個人の技能のようなアイデアは、発明に該当せず特許の対象になり得ません。
少し検討してみましょう。問題の特許は、6957007号です。登録日は、2021年10月8日、発明の名称は「百人一首のかるた及び百人一首の暗記学習を補助する方法」、権利者・発明者は上記の記事にもあるとおり、小栗孟氏です。弁理士を代理人とした出願です。
請求項1の内容は以下のとおりです。
つまり、上記記事のタイトルとは裏腹に、この特許の主眼は記憶方法ではなく、かるたという物理的な物です。物理的な物の構造の発明であれば「自然法則を利用した」という条件には合致し得ます(表記されている情報のみに特徴がある場合の扱いが気になりますが突っ込まないでおきます)。なお、上記記事でも本文を読むと「百人一首の上手な覚え方を..考案し、それを形にしたかるたで特許を取った。」と特許の対象がかるたであることが明記されています。
なお、請求項4は、以下のようになっており、「暗記学習を補助する方法」に関する特許になっていますが、請求項1のかるたを使用することが前提になっているので、「自然法則利用性」についてはクリアーされています。
実際、この出願の審査過程を見ても、進歩性や明確性についての拒絶理由は通知されておりしかるべき対応がされていますが、発明該当性(自然法則利用性)については特に何も指摘されていません。
パターン的に言うと、ちょっと前に話題になった「いきなり!ステーキ」のステーキ量り売り特許(5946491号)と類似しています。この特許も、「肉の量とテーブル番号をシールとして出力する計量器」という物理的要素を入れたことにより、発明該当性(自然法則利用性)をクリアーし、異議申立対して権利維持できています。
一般に、「人為的取り決め」であって自然法則を利用していないアイデアのように一見思えても、そのアイデアの実現に不可欠(あるいは、ほぼ不可欠)な物理的要素(機器等)を加えることによって、強力な特許を取得できる可能性は十分にあります(もちろん、新規性・進歩性といった他の条件を満足していることが前提です)。