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コロナ禍?子どものストレス、熊本地震直後より危険な状態? 緊急アンケートからの警鐘(特に女子が課題)

竹内和雄兵庫県立大学環境人間学部教授
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

熊本地震より強いストレス

6月初旬、関西の小4~中3、約600人を対象にストレスアンケートを実施しました。まだ分析途上ですが、非常に重い結果ですので、緊急報告します。

1.なかなか眠れないことがある

2.むしゃくしゃしたり、いらいらしたり、かっとしたりする

3.こわくて、おちつかない

4.自分が悪い(悪かった)と責めてしまうことがある

5.頭やおなかがいたかったり、身体の調子が悪かったりする

上の質問は、兵庫県立大学の冨永良喜教授のグループが作成したものです。熊本地震直後に実施したところ、中学生の11.9%が高いストレスを抱えていることがわかっています。今回の調査では、これと同じものを使いましたが、高いストレスを抱える子どもが予想以上に多くて驚きました。

女子は倍以上のストレス

高いストレスを抱えている割合は、中学男子は、熊本の11.9%を数ポイント下回りました。しかし、小学男子はこの数値を大きく超え、女子に至っては小学生、中学生ともに11.9%を10ポイント以上、上回っています。つまり、子どもたちの多くは、心の中にストレスを抱えていることがわかりました。しかも、震災直後の子どもたちよりも危険な状態かもしれません。

冨永先生たちのグループももちろん、同様の調査を行っておられますが、私たちの結果と同じ傾向があるそうです。冨永先生とは先日、シンポジウムをご一緒し、日々、ご教授いただいていますが、「眠れない子が多い」ことを深刻にとらえ、心の健康の教育の必要性を説いておられます。毎日新聞の一面(5月29日朝刊)に大きく掲載されていたので、ご存じの方も多いと思います。

しかし、先生方の感想は違うようです。私は立場上、全国各地の先生方とつながっています。その先生たちの多くは「子どもたちはまじめに授業に取り組んでいる」「予想以上に落ち着いている」と異口同音に答えます。

どちらが正しい子ども像なのでしょうか。いったい子どもたちに何が起きているのでしょうか。

おりこうな子どもたち

先日、大阪府茨木市の先生たち6人(小中学校教諭、養護教諭、指導主事)とZoom(市教委主催の研修会の位置づけ)で、アフターコロナの学校の役割等について話し合いました。ちょうど、一斉登校再開直前の忙しい時期でしたが、日々子どもたちのために熱心に取り組んでおられることがよくわかり、心が動きました。

そういう先生方から見ても、子どもたちは「まじめに取り組んでいる」「落ち着いて行動できている」と見えているようでした。どういうことでしょうか。阪神淡路大震災や東日本大震災でも、震災直後は子どもたちはまじめに、落ち着いて学校生活を送っていました。私も目撃していますが、元気にあいさつし、以前は「ヤンキー」と呼ばれていた子たちも這いつくばって廊下掃除をしていました。不登校だった子どもまで登校を再開し、先生たちは予想外の子どもたちを「うれしい誤算」と表現しておられました。その子たちは2~3年後に不登校が急激に増え、暴力行為やいじめ等が多発しました。

大学教員になったばかりのころ、被災地に何度も行かせていただきました。被災地の子どもたち自身が自分たちで復興を考えるお手伝いをするプロジェクトのファシリテーター役を頼まれて赴いたのですが、私にとって衝撃的な日々でした。地震で学校ごと流された中学生たちが隣の中学校を間借りしていました。その生徒諸君と1週間程度、一緒に生活したのですが、大きな声であいさつするし、廊下に這いつくばって掃除をする…。想像していた子どもたちとあまりに違っていたので、現地の先生に聞いてみました。その時の先生の言葉が忘れられません。「もしかしたら、社会全体のたいへんな状況を彼らなりに理解して、せめて自分たちがよい行動をして、迷惑をかけないようにしているのかもしれません」。今考えると、彼らは心の中に大きな何かを抱えていたのかもしれません。

今、同じ状況かもしれません。意識しているか、無意識かはわかりませんが、彼らの心の中で何かが起き始めているのかもしれません。

複雑な心境

茨木市の先生たちは、非常に慎重で「彼らの中には、悩みや不安があるはずなのにきいてあげられないのが切ない」「本当だったら頭をなでたり抱きしめてあげたいのに感染防止のためにできない」という声もあがっていました。また、「不登校の子どもたちが登校を再開している」という声も聴き、私は不安でいっぱいになりました。歴史を繰り返してはいけないと思いますが、かといって頑張って登校してきている子どもを追い返すわけにももちろんいきません。「彼らの心の声をしっかりと聴く努力、意識を私たち教員は持ち続けたい」と話す先生から、私はZoomの画面越しに後光がさしているように感じました。

睡眠不足、ネット長時間利用

睡眠不足やネットへの耽溺が多く、高ストレス群では、一割以上が10時間以上ネット利用していました。さらに驚いたことに、その10時間以上の子どもたちは自分のことを「長時間利用」とはもちろんとらえていますが、「ネット依存」と捉えていません。ここが実は大きな問題です。自分が気づかないうちに心の中の深いところで、子どもたちに何かが始まってしまっているのかもしれません。

先生や保護者と話したい

とても気になる回答結果があります。「先生や保護者に話を聞いてほしい」という質問に、「少しは聞いてほしい意向を示した」のは、男子約3割、女子約1割いました。男子が多いのには驚きです。思春期、反抗期のはずの彼らが、です。コロナが怖いのか、友達としっくりいかないのが心配なのか、自粛中に話し方を忘れたのか、ネット依存でそれどころじゃないのか? もしかしたら、クラス替え直後で、単に気持ちがしっくり来ていないだけかもしれません。

理由はわかりません。ただ、今、思春期の男の子の3割程度が、「保護者や先生に話を聞いてほしい」と明確に意思表明しています。私は20年、公立中学校で生徒指導等を担当しましたが、彼らにとって大人に話を聞いてもらうのは「男の沽券にかかわる」、最も恥ずかしい行為の一つです。先の言葉は、時代がかっていますが、10数年前のツッパリ生徒が実際に発した言葉です。そんな彼らが、です。彼らの中に何かが起こり始めているのかもしれません。

7時間授業? 夏休み短縮? 運動会中止?

そんな子どもたちに7時間授業をしている学校があります。夏休みを短縮する自治体があります。運動会の中止を決定した学校があります。

彼らのためを思い、授業時間を確保するために考えられたのだと思います。しかし、本当にそれでよいのか、立ち止まって考える必要もあります。

彼らの「命を守る」時期は、大人が先導して、彼らを守る必要がありました。これからは、彼らの「心を守る」時期です。大人の先導だけでは限界があります。彼らは、生身の生きた存在で、心があるからです。彼らの声を聴く必要があります。私の社会的責任として、ひとまず緊急報告をしました。それぞれのお立場で、ぜひ考えてください。

必要でしたら協働しましょう。試されているのは私たち大人、です。

兵庫県立大学環境人間学部教授

生徒指導提要(改訂版)執筆。教育学博士。公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より大学教員。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。2013年ウィーン大学客員研究員。

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