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海外渡航の「朝鮮」籍者に「誓約書」強要する入管当局――再入国許可の取り消し警告も

韓東賢日本映画大学教員(社会学)
海外渡航する「朝鮮」籍者に対し、空港の入管ゲートで示されていた「誓約書」のコピー

2月の日本政府による対北朝鮮「独自制裁」発動後、「朝鮮」籍の在日コリアンや朝鮮学校に対して「迫害」とも呼べるような扱いが広がっている。

■永住資格あるのにもし北朝鮮に行ったら戻れない……?

日本の外国人在留管理上の「朝鮮」籍者が海外に渡航する際、入管当局が脅しとも言えるような人権侵害、違法性の高い権限濫用を行っていることが明らかになった。3月31日付の朝鮮新報は、次のように報じた。

朝鮮の水爆実験、人工衛星打ち上げを口実とした日本政府による「わが国独自の対北朝鮮制裁」(以下、「独自制裁」)が発表された2月10日以降、日本各地の入国管理事務所や空港の入管ゲートで、「朝鮮」表示者(特別永住者証明証または在留カード上の「国籍・地域」欄が「朝鮮」となっている者)に対し、「私は北朝鮮には渡航しません。仮に北朝鮮に渡航したことが確認された場合には再度上陸が認められないことを承知した上で出国します」とする内容の「誓約書」に署名を求めることが相次いでいることがわかった。

出典:朝鮮新報3月31日付

「誓約書」の対象となっているのは、「朝鮮」籍者で、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)「以外」の国へ渡航予定の人だという。その後、差し替えられて無題となり、処分についても、入管法に違反する「再度上陸が認められない」から「再入国許可の取り消し」へと若干緩和されているが、「誓約書」およびそれに代わる無題の文書は、法務省からの通知などの指示によって作成されたという。

後者について法務省が各地の入管に示したのは参考書式のため若干のバリエーションがあるようだが、現在、関空や成田空港などで「朝鮮」籍者に提示され署名を求められている文書はまず、次のように警告する。

「2月10日から、政府の方針により、日本に在留する外国人の核・ミサイル技術者の北朝鮮を渡航先とした再入国は認められないことになりました。そのため、再入国許可申請時又は出国時に北朝鮮に渡航しないと申告していたにもかかわらず、日本に在留する外国人の核・ミサイル技術者が北朝鮮に渡航したことが判明した場合には、再入国許可の取り消しなどの処分を行う場合があります」

そして、次のような一文があり、その下に署名欄がある。

「北朝鮮へは渡航しません。日本に在留する外国人の核・ミサイル技術者が北朝鮮に渡航したことが確認された場合には、再入国許可取り消しなどの処分が行われる場合があることを理解しています」

「日本に在留する外国人の核・ミサイル技術者」の、対象なのかどうか定かではない「朝鮮」籍者に対しておしなべてこのような文書への署名を求めるのは、端的に不当であり、「朝鮮」籍コリアンの海外渡航の権利を侵害して不安をあおるのものだ。日本政府が定めた「独自制裁」の範囲をも逸脱している。

■「みなし北朝鮮国籍」「みなし敵性国民」として排除か

2015年末現在の在留外国人統計に関する法務省公表資料から。2012年分から分離
2015年末現在の在留外国人統計に関する法務省公表資料から。2012年分から分離

法務省は3月11日に発表した2015年末現在の在留外国人統計から、これまで一括集計していた「韓国・朝鮮」籍の在留外国人数を「韓国」と「朝鮮」に分離した。2012年分のデータからさかのぼって公表され、同年の制度変更により法務省が一括管理することになったためと説明された。だが自民党議員らが「日本に住む『北朝鮮国籍者』が実数以上に大きく見える」と主張して分離公表を求めていたと報じられており、法務省もこうした要求があったことについては認めている。

しかし、そもそも「朝鮮」籍は在留外国人管理上の「記号」にすぎず、「国籍」を意味しない。法務省が今回発表した統計表にも、「朝鮮半島出身者及びその子孫等で、韓国籍を始めいずれかの国籍があることが確認されていない者は、在留カード等の『国籍・地域』欄に『朝鮮』の表記がなされており、『朝鮮』は国籍を表示するものとして用いているものではない」という注が付けられている。

「韓国・朝鮮」の分離公表の方針を決めたという報道を受けて筆者は、「朝鮮」籍を「みなし北朝鮮国籍」として排除の記号化していくことへの憂慮を表明したが(「朝鮮」籍の歴史的経緯についてはそちらを参照してほしい)、今回の法務省による「誓約書」強要は、自民党議員の要求にあるような(意図的なものであるかもしれない)「誤解」を都合よく利用し、「朝鮮」籍と北朝鮮を排除の記号として結びつける確信犯的な所業であると疑わざるをえない。

新制度による法務省の一括管理が、分離集計の口実として使われているという全体の流れも、このような疑念を補強する。

■2012年の新在留管理制度、1965年の日韓条約での分断

日本に在留する外国人が出国し再び日本に入国する場合には、出国に先立ち法務大臣の再入国許可を受けることが必要となる。2012年から始まった新たな在留管理制度において、「有効な旅券(パスポート)」と「特別永住者証明書」の所持をその条件として、2年以内の出国につき許可申請をしなくとも許可を与えたものと「みなす」という「みなし再入国許可」が始まった。

しかし、「再入国許可証」を旅券代わりに、もしくは北朝鮮の法令にもとづき朝鮮総連が発給している旅券で海外渡航をする「朝鮮」籍の在日コリアンには適用されない。当然ながら「再入国許可証」は旅券ではないし、後者の北朝鮮旅券についても日本政府が有効な旅券と認めていないためだ(北朝鮮同様、日本と国交のない台湾やパレスチナ当局が発行する旅券は、政令により「有効な旅券」として取り扱われている)。

要するに、日本政府が有効だと認める韓国旅券を持つことのできない、つまり「朝鮮」籍の在日コリアンだけがこのメリットを享受できない仕組みとなっている。

そもそも、永住資格を持つ者を再入国許可制度の対象とすること自体が「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)違反だとして、国連・自由権規約委員会やEUから批判を受けている。そのうえ今回の「誓約書」強要のように、特定の国に渡航したら再上陸や再入国を認めないと脅すなど、重大な人権侵害にほかならない。

旅券の扱いに見られるように権利としての「国籍」は認めず無国籍同然の状態で放置してきた一方で、「朝鮮」籍を、制裁の対象であるいわば「敵性国家」との関係を示す排除の記号化していくスタンスは、「朝鮮」籍者へのアパルトヘイトとも言えるもので、当事者としては、まるで見えない鉄条網に囲まれ閉じ込められているような気分だ。

前回の記事では言及できなかったが、日本政府は1965年の日韓条約締結後、1947年の外国人登録令施行の時点では全員「朝鮮」籍だった旧植民地出身の在日コリアンのなかで、1950年から変更可能になった「韓国」籍者にのみ協定永住資格を付与した。その後、1991年に特別永住資格に一本化されたが、1965年のように再び分断され、排除されるのではないかという不安をぬぐえない。

分離集計によって2015年末現在で33,939人という数を目の当たりにすると、当事者としてマイノリティ感というか、極端に言えば収容でもなんでもたやすく実行できそうに感じられてしまう。減少傾向にある「朝鮮」籍者の数をあえて公表することには、疎外感と無力感、恐怖心を与える心理的な効果もあるのだ。

こうしたなか、ヘイトデモを繰り広げてきた排外主義者らが3月13日、大阪市の「ヘイトスピーチ抑止条例」に反対するとして開いた集会では、在日全体ではなく朝鮮籍者を攻撃して在日に分断を持ち込むことを今後の目標に云々、という発言があったという。正直、怖い。

■朝鮮学校への地方自治体の補助金に圧力かける文科省

一方、文科省は3月29日、「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について」と題し、朝鮮学校を認可している28都道府県知事あてに次のように通知した。

朝鮮学校に係る補助金交付については、国においては実施しておりませんが、各地方公共団体においては、法令に基づき、各地方公共団体の判断と責任において、実施されているところです。

朝鮮学校に関しては、我が国政府としては、北朝鮮と密接な関係を有する団体である朝鮮総聯が、その教育を重要視し、教育内容、人事及び財政に影響を及ぼしているものと認識しております。

ついては、各地方公共団体におかれては、朝鮮学校の運営に係る上記のような特性も考慮の上、朝鮮学校に通う子供に与える影響にも十分に配慮しつつ、朝鮮学校に係る補助金の公益性、教育振興上の効果等に関する十分な御検討とともに、補助金の趣旨・目的に沿った適正かつ透明性のある執行の確保及び補助金の趣旨・目的に関する住民への情報提供の適切な実施をお願いします。

また、本通知に関しては、域内の市区町村関係部局に対しても、御周知されるよう併せてお願いします。

なお、本通知の内容については、総務省とも協議済みであることを申し添えます。

出典:文部科学省

発端は、自民党が2月7日に発表した緊急声明で政府に対し、朝鮮学校への補助金停止を含む対北朝鮮制裁強化策を強く求めたことだ。こうした動きに対して、大阪弁護士会は3月14日に「特定の外国人学校に対する補助金停止に反対する会長声明」を、愛知県弁護士会は3月28日に「朝鮮学校に対する補助金停止に反対する会長声明」を、それぞれ発表している。

各種学校である朝鮮学校に、国庫からの私学助成は一切ない。また韓国学校をはじめとする他の多くの外国人学校やインターナショナルスクール同様、本来はその対象であった「高校無償化」制度からも、2010年の制度発足以来、法規的には条件になりえないはずの「北朝鮮との関係」を理由に適用を不当に遅延され続けた末、2013年の省令改定により「正式」に除外された。

さらにこの間、1970年代から地方自治体が独自に支給し始めた各種名目の補助金(とはいえ私学助成に比べれば微々たるものだ)についても、東京都、大阪府、宮城県、千葉県、埼玉県が相次いで停止してきた。

そうしたなか今回、政治に押されて文科省が公式に「脅し」に出たわけだ。なお現在まで、北海道群馬県が継続を明らかにし、兵庫県知事は政府の態度に不信感を表明している

「朝鮮」籍が「みなし北朝鮮国籍」としての排除の記号化しているのと同様、「朝鮮学校」も排除の記号となっている。相手は子ども、ネタは教育、しかもそこに通っている子どもたちのルーツに責任があるはずの旧植民地宗主国の、それも政府が率先して排除をあおっている。

要するに、「北朝鮮とのつながり(の可能性)」というマジックワードさえあれば、「国民感情」への配慮を口実に、他と分断し、排除し、迫害することが可能になっているのだ。

日本映画大学教員(社会学)

ハン・トンヒョン 1968年東京生まれ。専門はネイションとエスニシティ、マイノリティ・マジョリティの関係やアイデンティティ、差別の問題など。主なフィールドは在日コリアンのことを中心に日本の多文化状況。韓国エンタメにも関心。著書に『チマ・チョゴリ制服の民族誌(エスノグラフィ)』(双風舎,2006.電子版はPitch Communications,2015)、共著に『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』(2022,有斐閣)、『韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録 2014~2020』(2021,駒草出版)、『平成史【完全版】』(河出書房新社,2019)など。

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