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本日最終回「ドクターX」に出演中の注目俳優、上川周作。初主演映画で流浪の武士に挑んで

水上賢治映画ライター
「CHAIN/チェイン」で主演を務めた上川周作  筆者撮影

 2009年から現在まで、同プロジェクトは8作品を制作・劇場公開している。

 福岡芳穂監督による映画「CHAIN/チェイン」は、同プロジェクトで初となる時代劇。

 従来の幕府を中心とした「保守派」、幕府を倒し新たな政府を作ることを目指す「倒幕派」、天皇を中心とした国を目指す「尊王攘夷派」と3つに勢力が分裂した幕末の京都を舞台に、名もなき武士たちのそれぞれの戦いが描かれる。

 その中で、主演を務めるのは、京都造形芸術大学(現京都芸術大学)出身の上川周作。

 大学卒業後、本格的に俳優活動をスタートし、映画「止められるか、俺たちを」や連続テレビ小説「まんぷく」などに出演。

 現在は高視聴率ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」への出演でさらなる飛躍を遂げようとしている彼に話を訊く。(全三回)

どうにもできない苦悩や心の微妙な変化は

確実に自分の中に落とし込んで演じたいと思いました

 ここまで(第一回第二回)で、出演の経緯から脚本の印象までを訊いたが、第三回は演じた山川桜七郎についての話を。

 山川はかつて仲間を誤って殺めたことで会津藩を脱藩した無名の浪士。自分が生きていていいのかさえわからない彼は京都へ流れ着く。

 そこで、近藤勇が率いる新選組と伊東甲子太郎率いる御陵衛士の対立に否応なく巻き込まれていくことになる。武士としては不遇の道をたどる人物といっていい。

「桜七郎は、ひとつの誤りから藩を追われ、故郷も家族も失ってしまう。

 死ぬこともできず、生き長らえ、流浪の末に京都へたどり着く。

 もはや誰に仕えるでもなく、自分の居場所がどこにあるのかも、何を信じて生きていけばいいのかもわからないような境地の中にいる。

 でも、そういう中でも、自分自身のルーツである会津の教えや故郷への愛は失っていない。彼の中に大切な矜持として残っている。

 また、生き延びたことで志半ばで亡くなった人間たちや家族の想いや声を背負ってもいる。

 この先、自分はどうやって生きていけばいいのか、いや、そもそも自分は生きていていいのか、みたいな葛藤にずっと苛まれている。

 ただ、京都で新選組や御陵衛士らと関わることで、少し生きる気力みたいなものが徐々に芽生えていく。

 この、桜七郎自身ではどうにもできない苦悩や心の微妙な変化は確実に自分の中に落とし込んで演じたいと思いました。

 彼の置かれた立場というのはやはり常に喜びよりも苦しみが大きい。だから、演じている間は、ずっと心が苦しかったです」

もう、ありのままのいまの自分を出すしかない

 ただ、こうして役の気持ちに寄り添い、理解を深めながらも、現場ではもう小細工なしに丸裸になって演じるしかなかったという。

「(監督の)福岡(芳穂)さんには、僕が少しでも成長した姿を見せようといった変な色気を出した瞬間に、おそらく見抜かれてしまう。

 そういう芝居を見た瞬間に、たぶん『もっと普通でいい。お前はお前でいいんだ』とおっしゃってくれるような監督なんです、福岡さんは。

 だから、嘘がつけない。もう、ありのままのいまの自分を出すしかないんです。ほんとうに」

「CHAIN/チェイン」より
「CHAIN/チェイン」より

自分がこの時代にいたらと思うと、正直怖いです

 演じた山川桜七郎という人物の生き様を、こう感じたという。

「この幕末は、武士としてなにかをまっとうして清く死んだほうが良しとされた時代かもしれない。

 でも、桜七郎は自分が生き長らえることに矛盾を感じながらも、生きることを諦めなかった。

 これを人によっては武士として潔くないとするのかもしれないですけど、僕は逆に人間くさくてしぶといなと思いました。

 死よりも生きてなにかを遂げようとするのは、それはそれでこの時代、覚悟のいることではないかと。

 あと、自分がこの時代にいたらと思うと、正直怖いです。

 いつ、斬るか斬られるかの状況で、死と隣り合わせなんて、たぶん僕だったら逃げ出してたと思います。

 それでもその場にとどまったというのは、各々の武士たちの中に自分が信じる正義があったから。

 少しでもこの国がよい方向に進めばという思いがあったから、この場に踏みとどまり戦いに身を投じた。

 この精神はまねできないし、尊敬に値すると感じました」

「CHAIN/チェイン」で主演を務めた上川周作  筆者撮影
「CHAIN/チェイン」で主演を務めた上川周作  筆者撮影

まだしばらくは『CHAIN/チェイン』であり、

山川桜七郎という役と向き合う時間が続きそう

 今回、映画初主演を終えたわけだが、この事実をどう受け止めているのだろうか?

「うーん、なんともいえないといいますか。

 映画を見た感想に近いんですけど、これで良かったのかなと。

 作品はものすごい熱量の入った時代劇と自信をもっていえる。

 ただ、自分の演技に関しては、まだ冷静にみて判断することができないです。

 さきほど話したように、自分はもう己として立つしかなくて。正解の演技を出すというよりは、役の葛藤する心情に寄り添いながら演技もこれでいいのかと葛藤していたところがある。

 だから、いまもあの芝居で良かったのか、この僕の演技が『CHAIN/チェイン』という映画の脚本の意図することとちゃんとリンクして表現できているのか、自分ではわからない。

 これから何度も見る中で、変わっていくのかもしれないですけど、現段階では、『これで良かったのか』という気持ちがまずあって。

 もちろん福岡さんへの多大な感謝の気持ちはあるし、喜びがないわけではない。

 でも、僕としてはやり終えたというより、『CHAIN/チェイン』という映画の旅が続いていて『なにかやり残したことがあるのではないか』と考える自分がいます。

 まだしばらくは『CHAIN/チェイン』であり、山川桜七郎という役と向き合う時間が続きそうです」

「CHAIN/チェイン」より
「CHAIN/チェイン」より

「CHAIN/チェイン」

監督:福岡芳穂

出演:上川周作 塩顕治 池内祥人 村井崇記 佐々木詩音 延岡圭悟 松本薫

和田光沙 辻凪子 土居志央梨 渡辺謙作 鈴木卓爾 高尾悠希 駒野侃

宮本伊織 東山龍平 山本真莉 鈴川法子 水上竜士 福本清三 大西信満

山本浩司 渋川清彦 高岡蒼佑

テアトル新宿ほか全国順次公開中

公式サイト:https://www.chain-movie.com/

場面写真及びポスタービジュアルは(C) 北白川派

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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