バレンタインデー 21社のPOPを解析 持続可能な開発目標(SDGs)を目指しているチョコレートは?
チョコレート市場シェアNo.1の明治は「10代が最大の盛り上げ役」
2月14日はバレンタインデー。2016年の国内におけるチョコレート市場は3,220億円(富士経済「2017年 マーケティング便覧No.1」より)。国内シェアNo.1の明治は2017年12月21日付の「バレンタイン予測2018」で、「10代が最大の盛り上げ役」としている。確かに、10代の頃は夢中でも、年齢が上がるにつれて熱が冷めていく傾向は感じる。2017年2月、仕事でタイの大学に行った時にバレンタインの話題になり、先生が「私たちなんてやりませんよ。そんなのやるのはティーンエージャーだけ」と話していた。バレンタイン市場が縮小してきているという報道を目にするが、日本が少子高齢化している以上、自然な流れなのだろうか。
最近の傾向として、カカオ分の含有量が多いものや、乳酸菌を含んでいるものなど、健康志向のものが台頭してきている。
百貨店スイーツは横ばい
チョコレート市場が少しずつ拡大している反面、百貨店スイーツ市場は横ばい、もしくは微減傾向のようである。2016年の百貨店スイーツ市場規模は2,877億円(富士経済「外食産業マーケティング便覧 2016年 No.1」による)。
2016年のメーカーシェアは、1位がユーハイム(6.2%)、2位がシュゼット(5.5%)、3位がヨックモック(5.1%)、4位がゴディバ ジャパン(4.2%)とモロゾフ(4.2%)(富士経済「外食産業マーケティング便覧 2016年 No.1」による)。ヨックモックは2012年にドバイに出店したことで、2015年はインバウンド需要で実績を伸ばしている。
華やかな季節商品の背後にある、消費者の目に触れない「食品ロス」
2月3日の節分に際し、恵方巻のチラシ30枚を解析してみて、改めて、その背後にある食品ロスに気付かされた。食品リサイクル工場の関係者によれば、2月3日の節分の翌日の廃棄はもちろんのこと、その前の週以前にも、本番の半分以上にもなる廃棄が出るというのだ。数名の意見を統合すると、「チラシ撮影用」「商談用」「製造工場のライン確認用」「失敗作」などが廃棄されるようだ。
食品業界では、毎年、広告やチラシ、リーフレットなどのPOP(Point of purchase advertising:販促ツール)制作のために撮影を行なう。撮影に使ったサンプルは、熱いライトを浴びているし、外気に長くさらされてもいるので、終わったら、撮影に関わったスタッフで食べることも多い。が、カメラマンやスタジオの都合もあり、半日か一日かけて一気に大量に作って撮るため、食べきれなければ廃棄せざるを得ない。実際、スーパーマーケットに勤務している291名に聞いたところ、撮影に使ったサンプルは廃棄するという意見を聞いている。筆者も、料理や食・健康情報の雑誌の担当者の方から、「毎回、撮影に使った食材を捨てて無駄にしているので心苦しい、どうにか活用できないか」という相談を受けたことがある。
41枚のバレンタインデーチラシを集め、21冊のPOPをSDGsの観点から調べた
バレンタインデーでは、どれくらい、このような無駄が生まれるのだろうか。環境配慮の機運は出てきているのだろうか。そこで、恵方巻の時と同様、バレンタインデーに関連するチラシを集めて、「2030年までに世界の食料廃棄を半減すること」を目指している「持続可能な開発目標」(SDGs:エスディージーズ)の観点から、これらを解析してみることにした。
調査期間:2018年1月31日〜2月13日
集めた告知物:41枚
うち、チラシ:20枚
うち、冊子:21冊
恵方巻の告知に関しては、圧倒的に新聞の折込チラシが多かった。中には寿司店の店頭や百貨店、スーパーで、予約受付のためのチラシを置いている例もあった。
バレンタインデーに関しては、しっかりとした紙でカラー印刷をした冊子を作り、店頭で配っている例が、集めたうちの半数以上を占めた。恵方巻に比べ、バレンタインデーのチョコは、全般的に単価が高いというのもあるだろう。おそらく、この冊子は、メーカーが百貨店などへ行なう商談でも使われていると思われる。そこで、集めた41枚のうち、新聞折り込みチラシを除いた冊子21冊をSDGsの観点から調べてみた。
SDGsが掲げられているモロゾフ
前述の調査で百貨店スイーツのメーカーシェア4位のモロゾフ株式会社は、27ページあるリーフレットの裏表紙で、公益財団法人日本ユニセフ協会を応援している旨を掲げていた。1993年から現在に到るまで、バレンタインデーの収益の一部を、日本ユニセフ協会を通して、ユニセフに寄付し続けているという。
ユニセフの主な活動は、「保健・栄養」「水と衛生」「女性への支援」「教育」「緊急支援」「子どもの保護」など。これらは、前述のSDGsと直結する。
普段と変わらないヨックモック
自宅近くの百貨店で、冊子をもらいに行くために売り場に行ったところ、株式会社ヨックモックの売り場は、他と比べて明らかにシンプルだった。バレンタイン向けにラッピングした商品は棚の上に置いてあるが、大々的に謳っている訳ではない。他の売り場がピンクなどの華やかな色を使っているのと比べると地味だが、そのシンプルさや、普段と変わらない淡々とした姿勢には好感を抱いた。
バレンタインデー向けチョコレートを販売する企業の多くの冊子は、「2018年バレンタインデー」と印刷してあるため、おそらく2018年2月15日以降にはもう使えない「紙ロス」になると思われるが、ヨックモックの冊子は「WINTER COLLECTION 2017-2018」と書いてあり、季節別パンフレットとして、バレンタインを過ぎても使える仕様になっていた。
リサイクルペーパーとベジタブルインクを使っているブールミッシュ
冊子の中で、唯一、再生紙を使っている旨を明記してあったのが、株式会社ブールミッシュだ。ここのリーフレットは、紙だけでなく、インクにも配慮しており「環境に優しいベジタブルインキを使用しています」と表記してあった。ベジタブルインキの使用に関しては、前述のモロゾフ(株)の冊子にも明記してあった。
ブールミッシュの冊子には、印刷インキ工業連合会が定めている植物油インキ使用マークや、紙やプラスチックなど、処分する時のための識別表示の「紙」のマークもきちんと入っていた。集めた中では唯一である。飲食品メーカーのパッケージ(包装)を見て頂けると、容器包装リサイクル法(通称:容リ法)に基づく識別表示が入っているのがわかる。ブールミッシュのように、バレンタインデー向けの冊子にまで入っているのは珍しい。環境配慮の姿勢が垣間見られる。
タンザニアの子ども達に教室を贈ろうと呼びかけるストークグローバル・ジャパン
ストークグローバル・ジャパン株式会社は、冊子の最後のページで、「ショコラを食べてタンザニアの子ども達に教室を贈ろう!」と呼びかけている。タンザニアのカカオを使用した、ピエール・ルドン氏監修のショコラは、1粒につき50円が、タンザニアで教室建設のための支援金になる。2017年11月にはタンザニアのムベヤ地区、カブラ村に4つの教室を贈ったそうだ。2018年は、34,000粒を販売し、3つ以上の教室を贈ることを目標にしているとのこと。
タンザニアには筆者も行ったことがある。モスクワとキプロスで国際線を乗り継ぎ、首都ダルエスサラームからさらに国内線で移動した。国内を移動する時のバスの旅は長時間におよび、過酷だった。ストークグローバル・ジャパンの冊子によれば、タンザニアのカカオ農家の子どもたちは、健康や教育などの問題に直面しているとのこと。事業を通して貢献したいという思いが伝わってきて、ぜひ応援したいと思った。
「日本で最初のバレンタインデー」を競うメリーとモロゾフ
前述のモロゾフ(株)の冊子には、バレンタインデーの歴史が書いてあった。1932年、モロゾフは日本で初めてバレンタインデーにチョコレートを贈るというスタイルを紹介し、1936年には日本のバレンタイン文化の先駆けとして英字新聞ジャパンにバレンタイン広告を掲載したそうだ。
一方、株式会社メリーチョコレートカムパニーの冊子には「日本で最初のバレンタインデーはメリーから」とある。パリに住む友人からメリーの社員に送られた絵葉書がきっかけで、そこに書かれていたバレンタインの習慣をチョコレートの販促イベントにと考え、1958年に都内百貨店で日本初のバレンタインフェアを開催。3日間で売れたのが50円の板チョコ3枚と20円のメッセージカード1枚だったという。
メリーとモロゾフ、どちらも「日本初」を謳っている。歴史的なことを書いてある冊子は他になく、ストーリーを語るという手法が他社でも、もっと使われてもよいのではと感じる。
世界の子どもを児童労働から守るNGO ACEは複数のチョコレートメーカーと連携
今回の調査した中には含まれないが、世界の子どもを児童労働から守るNGO ACE(エース)は、森永製菓など複数の企業とコラボレーションし、ACEが支援している国の産地のカカオ豆を使ったチョコレートの開発・販売や、エシカルな(倫理的な)チョコレートの製造などに力を入れている。
株式会社ロッテは、2017年11月、日本初のフードバンクであるセカンドハーベスト・ジャパンに、自社商品の「乳酸菌ショコラアーモンドチョコレート」を寄贈している。ネスレ日本のキットカットは、"キット、ずっとプロジェクト”で東日本大震災を支援するほか、商品の売り上げから寄付を提供する取り組みを行なってきている。
SDGsを考えるバレンタインデーがあってもいいのでは
41枚の告知物のうち、21冊のPOPを調べてみて感じたのは、かなりのコストをかけて制作されているということだ。チョコレートがバレンタインデー翌日から見切り販売(値下げ販売)、売れ残れば廃棄・・となるだけでなく、これらの冊子はどうなるのだろう。再生紙にリサイクルされるにしても、コストはかかるだろう。2012年、米国で開催された学会では、紙の資料は一切配布されず、「関連資料は事前にアップしておくのでダウンロードしておくように」とのアナウンスが参加者にメールで届いた。日本の学会でもそのようなところは出てきているし、オフィスでは、必要最小限しか印刷できないという企業もある。紙とインクの使用については、検討の余地があるのではないだろうか。
せっかく貴重な資源である紙とインクを使うのであれば、環境配慮や社会貢献などを啓発する内容を入れてもいいのでは、とも感じた。日本チョコレート工業協同組合や、日本チョコレート・ココア協会の公式サイトにあるような、チョコレートの歴史について、深く知る、いい機会でもある。カカオが遠くの国で生産されている希少な資源であること、食品ロス削減や環境配慮に関することなども、冊子に入れることで、消費者啓発にもなると思う。
2017年11月16日には、世界カカオ財団と企業21社が、コートジボワールとガーナの熱帯雨林保護・再生で協働を発表している。世界のカカオ生産のうち、3分の2を生産するコートジボワールとガーナで、カカオ栽培による熱帯雨林を保護するのが目的だ。サステナブル・ジャパン、2017年11月27日付の記事によれば、協力するのは以下の21社。この21社で、世界のカカオ流通の80%以上を占めるという。
株式会社明治は、この支援について、公式サイトで紹介している。
このようなことも、普段、知る機会は少ない。バレンタインデーというタイミングだからこそ、知るきっかけにもなる。世界のカカオ農家は、世界銀行が定める絶対的貧困の定義(1日あたり1.90USドル未満で暮らす)以下で働く人が多いという記事もある。SDGsを考えるバレンタインデーがあってもいいのではないか。