「次世代ゲーム機マダー?」 任天堂の第1四半期決算 減収減益も…
任天堂の2022年度第1四半期(4~6月)決算が発表され、売上高は約3074億円、本業のもうけを示す営業利益は約1016億円。前年の同じ時期(2021年4~6月)をいずれも下回る減収減益でした。普通の決算記事は多くのメディアから配信されたので、別視点から触れてみます。
◇巨額の為替差益の意味は
今回の任天堂の決算記事は(1)減収減益に着目(2)ソフトの出荷データに着目(3)最終利益の高さに着目……の概ね3パターンに分かれていました。
【参考】任天堂 4月~6月決算 円安で最終利益この時期として過去最高(NHK)
面白いのは(3)のパターンです。ただし、最終決算に影響した巨額の為替差益ですが、任天堂の決算ではよく登場します。とはいえ500億円超は無視できない数字です。
そしてこれだけ巨額の為替差益が発生するということは、任天堂が海外に莫大な現金を保持していて経営的に極めて安定している証拠でもあること。そして為替差損がいずれは発生する……という(意地悪な)見方もできます。
【参考】任天堂の不思議な決算 何もしないのに120億円の損(2019年)
ゲームビジネスの動きが大きいのは、年末商戦の第3四半期(10~12月)で、第1四半期は動きが少なく、メディア側からすると記事にする視点が少ない……という悩みもあります。同時に任天堂のような巨額の現金を保持する企業には、為替差益・差損の数字は帳簿上の話。「500億円増の経常利益」は事実ではありますが、別段喜べる話ではありません。
そしてメディアからすると「任天堂の決算は減収減益だが、高利益をキープしており大丈夫そう」と書いては「太鼓持ち」になるので、悩ましいところ。そうなると、最初から「減収減益」と必要なことだけを書く方が無難なのですね。
◇二枚のカード 「値下げ」と「次世代ゲーム機」
さて今回の決算に限らずですが、ゲームビジネスは、数年周期でピークが来て、業績の波が激しいことに留意しなければなりません。現在の任天堂のピークは2020年度で、2021年度からは「右肩下がり」です。今回の決算短信だけで記事を書くと「ダメでした」というトーンになるか、数字を並べるだけになるのですが、「右肩下がり」の前提に立つとかなりの収益を確保している以上「まだ、よく踏ん張っている」になります。
【関連】恐ろしい任天堂の決算 スゴいゆえの「悩み」と次への一手(2021年)
そして現行のゲーム機が成熟・衰退期に入ると、ゲーム機のサイクルを理解している気の早い人(コアファン、業界関係者、マスコミ)たちから「次世代ゲーム機マダー?」と話題にするのです。ただし、今のゲーム機はバージョンアップをした機器を展開して、買い替え需要を促しつつ、商品寿命を延ばす流れにあります。
さらに、ピーク時の勢いはないとはいえ、ニンテンドースイッチがいまだに売れている現実があります。任天堂は2022年度のニンテンドースイッチの出荷計画を2100万台に設定しています。仮にこの目標が達成できれば、4年連続の2000万台突破で、「ニンテンドーDS」と並びゲーム機の最高記録となります。
現在、ニンテンドースイッチは通常版と、低価格の「ライト」、高級機の「有機ELモデル」の3種類あります。そして第1四半期で最も売れたのは「有機ELモデル」です。高価格の商品がしっかり売れるというのは、ビジネス的には良い流れでしょう。
今後の売り上げが予想以上に鈍化すれば、「値下げ」という奥の手があるのも強みです。ゲーム機は値下げすると、当然売れる傾向にあります。ヒットが見込める有力ソフトもまだそろっていますし、世界的な半導体不足という不確定要素(政治的にも)が続いていますから、余計に「次世代ゲーム機」を投入するタイミングの難しさがあります。
仮に「次世代ゲーム機」を投入したとして、人気になるのは必至。そうなると社会問題になっている「悪質転売」をどうするか……という問題もあります。現状、根本的な解決策はないにしても「無策」というわけにはいかないでしょう。
一連の「悩み」も現行のニンテンドースイッチが爆発的に売れたからこそ。そして、現状を打開できるであろうカードを少なくとも2枚は保持しているのですから。減収減益でも30%以上の営業利益率をキープするなど、減収減益なのに「余力あり」なのも確かなのです。