『ファンファーレが鳴り響く』で人を殺し続ける女子高生役の祷キララ。「自分と遠くない感じもしました」
人を殺しながら逃亡を続ける男女の高校生……。昨年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭でグランプリなど2冠を受賞した森田和樹監督の商業デビュー作『ファンファーレが鳴り響く』が公開された。このスプラッター青春ムービーで、殺人欲求を持つヒロインを演じたのが祷キララ。闇を抱えた役で存在感を発揮し、強烈かつ深いインパクトを残した。
負けず嫌いで『愛のむき出し』がバイブルです
――“キララ”さんって本名なんですね。
祷 “いのり”も“キララ”もカタカナなのも本名のままです。
――ご両親はどんな想いを込めて命名されたのでしょう?
祷 一番想像できる通り、「キラ星みたいに輝く女の子になってほしい」ということでつけたと言ってました。
――そういう名前にプレッシャーは感じませんでした?
祷 両親に名前の由来を聞いたのがごく最近だったんです。自分の名前は昔から気に入ってました。よく“キラキラ”と呼ばれたり、星柄のものや宇宙っぽいものを集めたり、もらったりしていました。
――小学生の頃、『青空ポンチ』という映画を観たのが女優を目指す原点だったそうですが、今も映画はよく観ますか?
祷 今のほうが観ています。『青空ポンチ』を観たときはまだ7歳で、何もわかってなくて。高校を卒業して大阪から上京して、本格的にこの仕事を始めて、いろいろな作品を観るようになりました。
――好きな作品の傾向は?
祷 園子温監督の『愛のむき出し』が自分のバイブルみたいな映画です。4時間あるので気軽には観られませんけど、踏ん張らないといけないときや迷ったときには、必ず観るようにしています。あと、韓国映画も好きな作品がいろいろあって。イ・チャンドン監督が本当に好きで、特に『ペパーミント・キャンディー』は最高です。
――『ファンファーレが鳴り響く』で、祷さん演じる光莉が一緒に逃亡する明彦に「ボニーとクライドみたいね」と言うシーンがありました。『俺たちに明日はない』は観ました?
祷 この作品のお話をいただく前に観てました。人に教えてもらって観る作品も多いです。
――同世代の女優さんで気になる人はいますか?
祷 私はすごく負けず嫌いなので、語弊もありますけど、どの人もライバルみたいに見てしまうところがあります。自分もそう見られたいなと思います。
高校生の頃にすごく苦しい時期がありました
3年前に大病を患った森田和樹監督が「自身の欲をたくさん入れた」という『ファンファーレが鳴り響く』。高校生の神戸明彦(笠松将)は吃音症でクラスメイトからいじめられていた。ある日、才色兼備な女子生徒、七尾光莉(祷キララ)が野良猫を殺しているところに出くわす。生理のときに自分の血を見てから、他者の血を見たくなったのだという。光莉は明彦を追い回していたいじめグループの1人をナイフで刺し殺し、2人は都会へ向かいながら、汚い大人たちをさらに殺していって……。
――祷さんは今回の光莉のような闇を抱えた役が、自分でも得意だという意識はあるんですか?
祷 なぜかそういう闇や陰のある役が多いんですけど、自分自身に近いとはあまり思いません。人からはそう見えるのか、昔出た映画の役のイメージなのか……。でも、ちょっと前に、真逆の明るくて活発な高校生の役をやったら、すごく難しくてビックリしました。自分と遠いと思っていた闇を抱える役のほうが、実はあまり遠くないのかと思ったりもしました。
――血を見たくて人を殺し続ける光莉について、「異常だとは思わない」とコメントされてました。
祷 この七尾光莉という役は、企画書やプロットでは強烈で過激な印象でしたけど、脚本を読んだら行動は過激でも、その行動を起こすに至った経緯や気持ちの移り変わりには、意外と腑に落ちる部分がたくさんありました。どうアプローチするか考えないといけないと思っていたのが、自分のままで共感できました。
――光莉の心境は、祷さん自身も覚えがあるものだったと?
祷 そういうところもありました。もちろん犯罪や人殺しをしたかったわけではないですけど、私が高校生の頃、やりたいことや好きなことが見つからず、将来が漠然としていて、すごく苦しかった時期がありました。今考えると、もっと視野を広く持って、いろいろなことに触れたり、多くの人に会ったりしていたら、その時期を早く抜けられていたなと。たとえば自分よりたくさんの経験をしている年上の人と話して、「そんな場所もあるんだ」とか少しずつ知っていって、抜けられたんです。でも、渦中にいたときは自分の周りが全世界だと思っていたから、本当に苦しくて。
――光莉のような鬱屈感はあったわけですね。
祷 光莉はきっと頭が良くて、自分の見てきたものを踏まえて考える人間だと思うんです。それでも、やっぱり視野は狭い。通っている学校が世界のすべてみたいな生活で、その中だと出会うものも見るものも少なくて。もし先生でも家族でも他の大人でも、あるいは映画や音楽でも、気づかせてくれるきっかけが何かあったら、殺人とかしなかっただろうし、感情の出し方も違っていたと思うんです。私はそういう機会に出会えて、光莉は出会えなかった。それはほんの僅かの差で、自分ではどうにもできないこと。そういう意味で、光莉は自分と遠くない感じがしました。
良くない行動も自分で納得した選択だったので
――祷さんも高校時代、優等生タイプだったんですか?
祷 臆病なので、校則とか「何だよ」と思っても、逆らうほどのエネルギーはなくて。だから、自分の中で問答するところはありました。
――光莉の台詞にあった「大人はウソついてるバカばっか」みたいなことは思ってました?
祷 先生とフレンドリーなコミュニケーションを取れる学生ではなくて、「大人はどうせわかってくれない」と考えてました。今20歳ですけど、10代が終わる直前はすごくイヤで。「私も大人になってしまうんだ。いろいろなことを忘れていくんだ」みたいな、恥ずかしいことを思っていましたね(笑)。
――光莉役にハマる感じはしましたか?
祷 この役に出会えて、すごく良かったとは思います。撮影中はしんどくて、辛いこともありました。ずっと戦っている役だし、きっとハッピーエンドを迎えないことをわかっていながら、いろいろな行動をしていて。やったのは良くないことでも、自分の中で納得できる選択をして行動を起こしたのは、光莉の人生ですごく大きかったと思うんです。そんな役を自分の体と自分の心で演じられたのは、本当に良かったです。
――手段は別にして、光莉の心象だけにフォーカスすれば、自分の想いを遂げていったわけですよね。でも、演じるのはやっぱりしんどかったわけですか?
祷 そうですね。人を殺すって、言うのは簡単でも、人は簡単に死なないし、相手は殺されたくなくて抵抗するから、こっちが殺される危険もあって。シーンとしてももみくちゃになるから、身体がアザだらけになりました。笑うことはほとんどなくて、無表情の中で悲しみや怒りが渦巻くシーンがたくさんあって、毎日撮影が終わるとヘトヘトでした(笑)。
――家に帰っても、役の気持ちを引きずって、どんよりしていたり?
祷 今回はそういうことはなかったです。役を引きずるのはある意味いいことかもしれませんけど、エネルギーが要る役で、撮影期間にすべて同じパフォーマンスをできないと意味ないから、意識的に自分を癒やしました。合間に無理やり銭湯に行ったり、好きなことをして、現場に行ったらメイクや衣装の力も借りて切り替える。そんなふうにしていました。
――撮る前はどうでした? 待ち時間から光莉になっていた感じですか?
祷 笠松さんが良い距離感で現場にいてくださって。お互いお笑いが好きで、好きな芸人さんも同じで話が弾みましたけど、仲良くなりすぎない空気を作っていただきました。ごはんを食べているときとかまで、変に「私は光莉なんだ」みたいなことはなく、カメラの前に立つと自然に役と向き合える環境でした。
演じているときは人を刺してゾクゾクしました
――光莉はほとんど笑顔を見せない中、明彦をいじめていた同級生をナイフでメッタ刺しにしているときは、恍惚の表情で笑っていました。ああいうシーンで試行錯誤はあったんですか?
祷 殺すことにすごく執着心がないと、あんなことはできませんよね。猫でも殺すのは簡単でないし、さっき言ったように、自分が殺されるかもしれない危険もあって。でも、光莉はやっと人の血を見られて「これを探していたんだ!」みたいな嬉しさがあったのかなと。自分の生理の血を見たときより、ずっと大きい興奮があって、「こういう表情をしよう」とかはまったく考えませんでした。私自身は人を刺したら気持ち良いだろうとは全然思いませんけど、現場でそのシーンを撮っていたときは何か心地良くて、ゾクゾクしていたところはあります。
――役に憑依している感じだったんですね。光莉の「血を見たい」という欲求が「人が死ぬ瞬間を見たい」になって、さらに「悪い大人を殺して国を変えたい」と言い出したのは、かなり発想が飛躍しているようにも思いました。
祷 父親の理不尽な自殺に対する怒りが整理し切れてないまま、成長してしまったんでしょうね。その感情が年齢を重ねるに連れて、思ってもいない方向に曲がって、「国を変えたい」となって。でも、光莉の中では、ドロドロしていたのか堅いのかはわかりませんけど、もう固まっていたんだと思います。人殺しがバレたら終わってしまうけど、まだ先に到達したくて「簡単に捕まってたまるか!」という。それも執着心がないと続けられませんよね。
――1シーンだけ登場した母親との関係性も考えました? あの光莉が「ごめんなさい……」とか、従順でしたけど。
祷 心の内ではどう思っていたのか、いろいろ考えました。自分よりものを見てきた人からのひと言が光莉になかったのは、お母さんの存在も大きかったと思います。お父さんの死に対して、お母さんも向き合ってくれて、一緒に話をしていたら、きっと全然違うストーリーになっていたでしょうね。
――終盤、光莉を止めようとする明彦に「うるさい! うるさい!」と繰り返しながらビンタを続けるシーンも、エネルギーを使ったのでは?
祷 光莉が初めて感情を発露するシーンで、そこが中途半端だったら、この映画はおしまいだと、ずっと思っていました。撮影したのも最後のほうで、内輪の話だと、その日は現場がスムーズに回ってない部分があって、正直いい雰囲気ではなかったんですね。それを逆に活かそうとしました。動きだけ確認して「感情は本番で出てきたままで」ということだったので、ヘトヘトになるまでやろうと。笠松さんもどんどん応えてくれて、私が乗ったら、さらに来てくれる感じで、撮り終わった後は「もう動けません」となりました(笑)。
激しさより青春ロードムービーの面が大きくて
――演じている最中は役と一体化しつつ、完成した映画を観たときは、どんなふうに感じました? 光莉は“悪い大人”でない人もあっさり殺してましたが……。
祷 そうですね。何も悪くない人だったのに、光莉の中では一番「ここで止められたら困る」というタイミングだったから、ネジが外れていて冷静ではなくて。殺すシーンもしっかり撮って血が出ていたりもする映画で、ウッとなる人もいるだろうし、心が痛くなる場面もあると思います。だから、自分で初めて観たとき、客観的に「この映画はどう観られるんだろう?」と怖くなった部分がありました。
――個人的には、70年代のアメリカン・ニューシネマ的なテイストの青春映画のように感じました。
祷 私も青春映画だと思います。“スプラッター青春ムービー”と謳っていて、激しい作品でもありますけど、それを描きたいわけではなくて。そこに至るまでの2人の環境や、2人がいろいろなことを感じたり考えて道を選んでいく、ロードムービーの側面が本当は大きいと思うんです。それを伝えたい気持ちが強いからこそ、不安もあって公開前にドキドキしています。本当にいろいろな人に観ていただきたいし、できたら同年代の人にも観てほしくて。でも、「こう思われそう」というのが本当に言えない映画で、正直まだ自分の中でも整理がついていません。
――ところで、祷さんは中高生の頃は学業優先で活動していたそうですが、大学生になった今も両立を頑張っているんですか?
祷 本当は大学も行きたくなかったんです。身のまま東京に出てきたかったんですけど、大学に行くことに決めました。今もやりたいのは仕事のほうです。ただ、学校で勉強していることも面白いし、いろいろ学んだら、好きなことも面白くないことも、どこかで表現の仕事に繋がるかもしれない。そう信じて、4年で卒業できるように頑張っています。
――女子大生っぽいこともしていますか?
祷 友だちと学食でお昼を食べるのは楽しいですし、今はオンライン授業で大学に行けてませんけど、2年生までは空きコマに近くのカラオケに行って、2人で2時間くらい歌ったりしてました(笑)。
――ちなみに、どんな曲を歌うんですか?
祷 全然キャピキャピしてなくて(笑)、ゆらゆら帝国とかフィッシュマンズとかSUPERCARとか、あの年代の音楽がすごく好きなんです。私は2000年生まれで、物心ついた頃には活動してなかったり、形態が変わったりしていて悔しいですけど、そういう曲をカラオケで熱唱しています。
――お名前の通り、キラキラした恋愛映画もやってみたい気持ちはありますか?
祷 確かに、キラキラした役をやってませんからね(笑)。今回も高校生役でしたし、まだギリギリできると思うので、ぜひやってみたいです。
Profile
祷キララ(いのり・きらら)
2000年3月30日生まれ、大阪府出身。
2010年に映画『堀川中立売』でデビュー。2013年に映画『Dressing Up』に主演。その他の主な出演作は映画『脱脱脱脱17』、『校庭に東風吹いて』、『左様なら』、ドラマ『トーキョーエイリアンブラザーズ』、『さくらの親子丼2』、『シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。』、舞台『ギョエー!旧校舎の77不思議』など。
『ファンファーレが鳴り響く』
新宿K’s cinemaほか全国順次公開