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藤井聡太棋聖(18)千日手に持ち込んだか、持ち込まれたか? 先手番を得るも時間は大差 竜王戦本戦

松本博文将棋ライター
写真撮影:悟訓

 7月24日。東京・将棋会館において第33期竜王戦決勝トーナメント・藤井聡太棋聖(18歳)-丸山忠久九段(49歳)戦がおこなわれています。棋譜は公式ページをご覧ください。

 10時に始まった対局は丸山九段先手で角換わり棒銀になりました。丸山九段の秘策に、藤井七段は中段に筋違い角を打って対抗しました。対して丸山九段もまた、自陣に筋違い角を打ちます。筋として昭和の昔からあるものですが、少しずつ形が違っていて、どことなく現代最新風になっているのが、将棋の不思議なところです。

 藤井棋聖は早繰り銀から、銀交換に持ち込みました。

 49手目。丸山九段は盤上五段目、自身の角筋に持ち駒の銀を打ちます。これは藤井棋聖の角取りになっています。

 藤井七段は角を一つ引いて逃げます。

 丸山九段は自身の角の利きをいかして、藤井陣四段目にまで銀を進める。次には三段目への進入を見せています。

 さて51手目まで進んだこの局面。筆者手元のコンピュータ将棋ソフトの判定では、評価値にしてわずかに200点前後ですが、先手よしという判定でした。そして20億手近くを読んで、角を上がり、元の位置に戻して銀の進入を防ぐ手を最善と判断しています。

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 藤井棋聖は33分考えて、角を上がりました。これで持ち時間5時間のうち、残り時間は藤井棋聖は1時間34分。対して丸山九段はちょうど4時間を残しています。

 さてここで丸山九段にはいくつかの候補手が考えられます。まださばけていない棒銀を一つ前に進める手。あるいは自身の角を五段目に出て交換を迫る手など。

 丸山九段は藤井棋聖の考慮中に、おおよその方針を決めていたのでしょう。ノータイムですぐに銀を引きました。これで4手前とまったく同じ局面に戻っています。つまりは、千日手模様です。

 藤井、角を引く。丸山、銀を出る。藤井、角を出る。丸山、銀を引く。

 同じ手順が続いていき、61手目、丸山九段が銀を引いた局面で、同一局面が4回目となりました。そして規定により、15時43分、千日手が成立しました。

 藤井棋聖が駒を元にしまって、両者一礼。30分の休憩に入りました。指し直し局は残り時間を引き継ぎ、先後を入れ替えおこなわれます。

 藤井棋聖から見れば、後手番から先手番に替わったのは得です。しかし残り時間は藤井1時間34分、丸山3時間59分。2時間25分もの大差がついています。差し引き、トータルでどちらが得をしているのかは、見解がわかれるところでしょう。

 そして16時13分。指し直し局▲藤井棋聖-△丸山九段戦が始まりました。後手番の丸山九段は満を持してというべきか、十八番の一手損角換わりを採用します。このエースもあればこそ、丸山九段は後手番となるのをいとわなかったという見方もあるかもしれません。

 対して今度は先手番の藤井棋聖が棒銀に出ています。

 17時22分頃、丸山九段は居玉を直し、玉を4筋に上がりました。残り時間は藤井1時間7分。丸山3時間31分。

 夕食休憩は18時0分から40分まで。千日手となった分、終局は遅くなるかもしれません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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