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買う?様子見?Apple Vision Proアメリカでの評判は?発売4ヵ月後の米紙ガチレビュー

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
米アップルストアでVision Proを体験する人。(c) Kasumi Abe

今年2月2日にアメリカで先行発売した、空間コンピューティング・デバイス「Apple Vision Pro」。

日本、中国、シンガポールでも6月28日に発売が決まった。さらに7月12日にイギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア、カナダでの発売も続く。

Apple Vision Pro(ビジョン・プロ)とは?
Appleが開発した初の空間コンピュータ

筆者は6月上旬、アメリカのアップルストアでVision Proを体験した。この時点で店のスタッフは「国外での発売日は未定」と言っていたが、この2日後に日本での発売が発表された。

筆者がVision Proを体験した場所は、マンハッタンにあるアップルストア。

土曜日だが店内はそれほど混んでおらず、数台置かれたVision Proコーナーで実際に試している人は2、3人だった。発売当初はお祭り騒ぎのようだったが、4ヵ月もすると人々の興奮は収まるということか。

発売日にVision Proを購入した客。2015年に発売としたApple Watch以来の大型新商品の登場に人々は大興奮した。
発売日にVision Proを購入した客。2015年に発売としたApple Watch以来の大型新商品の登場に人々は大興奮した。写真:ロイター/アフロ

デモ用のVision Proの空きがあったので、筆者も少し体験してみることに。

ヘッドセットは定位置にないとうまく機能しないので「(頭の後ろのベルトを)もう少し上にずらして」とスタッフに言われる。定位置になったら自分の頭のサイズに合わせて調整し固定する。ヘッドセットを通して店内が見渡せるのが不思議な感覚だ。

操作はまず右上のデジタルクラウン(ホームボタン)を押し、基本的に手や指、目など体の動きや声(Siri)で行う。目の前の空間に広がるアプリやイメージを親指と人差し指でピンチ(摘む)してドラッグしたり左右上下に動かしたり引っ張ったりタップしたりetc...(おそらく周囲から見るとマジシャンのような動きをしているように見えるかもしれない)。

小さいヘッドホン(耳の横に内蔵されたオーディオポッド)はまったく目立たないのに、高性能のサウンドがダイナミックに包み込み、イマーシブ体験をより深める。空間に浮かんだ写真や映画を観たり世界旅行をしたりと、その世界に「没入」できる。

自分のMacをVision Proの中(空間)に持ってきて作業もできるそうだが、筆者はMacの画面はMacで使う方が作業が早くできそうなので、それは不要に感じた。

ヘッドセットを着けるとこのように見えるというイメージ。目の前に森が広がっていき、次第に自分自身が森の中に実際にいるような感覚になる。(c) Kasumi Abe
ヘッドセットを着けるとこのように見えるというイメージ。目の前に森が広がっていき、次第に自分自身が森の中に実際にいるような感覚になる。(c) Kasumi Abe

初めはコツがつかめずうまく起動しないこともあったが「慣れ」の問題のようだ。使っていくうちにコツがつかめ、よりスムーズに操作できそうだ。

ただし何かが頭に付いている感覚(軽い圧迫感)は否めず、長時間使用すると目が疲労しそう。スタッフも「2時間ごとに休憩を入れている」と言っていた。

今後さらに使いやすく改良されたら、PCなんて不要な世界になるのだろうか?そんな未来を想像した。

気になる米専門家の「数ヶ月後」の評価は?

発売から4ヵ月。高級品ということもありアメリカでは歩きながら使っている人を一度も見たことはないし(ひったくられる可能性大)、アップルストアの売り場も混んでいない。

米専門家はVision Proをどう評価しているのだろうか。感動しがちなファーストインプレッションではない、使用数ヵ月後の興奮が冷めた「ガチレビュー」が興味深い。

今月12日付のニューヨークタイムズは「The Uncertain Future of the Vision Pro(Vision Proの不確かな未来)」【電子版は11日付、Can Apple Rescue the Vision Pro?(アップルはVision Pro を救えるか?)】というレビュー記事を発表した。

同紙のテクノロジー系コラムニスト、ケビン・ルース記者によると、3500ドル(約54万9000円)もするVision Proは購入から4ヵ月経った今、「棚の中で埃を被っている」状態だという。

ルース記者はVision Proを手にした当初は「マジック(魔法のような商品)だ」と感動し、オフィス、カフェ、機内、Waymo(無人タクシー)の後部座席と数週間はどこに行くにも持参したという。行く先々で常に人々の視線を浴びたそうだが、その興奮は長く続かず、次第に使うことはなくなってしまったというのだ。またこの記者だけではなく、知り合いの記者やテック関係者も「最近触っていない」と口々に言っているそうだ。

同記者が挙げた問題点はまず価格。

「大多数の消費者にとってスマホやラップトップに代わるものではなく、生活に必要というわけではない実験的なデバイスにここまでの大金を払うことはしないだろう」

ほかにも「ヘッドセットの長時間装着は重すぎて心地良くない。最長3時間使ったら少し酔った気分になった」「文字を打つ仕事はキーボードが必要」「MacやiPadでできているように電話をかけたり出ることはできない」など、いくつもの欠点を論っている。

そして「最大のがっかり」として、良いアプリが少ないことを挙げた。「リリースから数ヵ月経ったが未だYouTube、Netflix、Spotify、Instagram、DoorDashなどの基本アプリがない」。

空間コンピューティング・デバイスの競合であるメタからVision Pro用のアプリが出ていない理由はなんとなく察することができる。ちなみに日本版のアプリはLIFULL、U-NEXT、日本経済新聞社、Yahoo! JAPANなどがあるという。詳細

アメリカでどれほど売れているかについて、アップル社は販売台数を公表していない。同紙の記者はアナリストの予測として「このデバイスはflop(失敗作)で、予想に反し販売台数は少ないようだ」と述べている。

筆者が訪れたアップルストアのスタッフも売れ行きについて具体的な数を教えてくれなかったが「まぁコンスタントに売れてはいる」と言った。しかし「まぁ」という言葉が入っていたのと、筆者の知り合いが店でVision Proの購入を決めた際、スタッフ同士が「売れたね!」というような明らかに嬉しそうな表情を浮かべたのを見て、飛ぶように売れていないことは想像がついた。

同紙の記者はVision Proについて「SNSでの盛り上がりもイマイチ。返品もあり、中古のヘッドセットは2500ドルでリセールされている」「商品に満足するためには微調整やアップグレードが必要」と、期待を寄せつつも酷評した。

今月末、いよいよ日本や中国での販売が始まる。日本での価格は、59万9800円からとこちらもなかなかの値段。日本、中国とアメリカに続くこれらの大きな市場でアップルファンを満足させることはできるだろうか。未来を感じさせる新デバイスの行方が世界中で注目されている。

(Text and some photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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