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専業主婦「優遇」批判はネズミ講型社会保障を守るためである

島澤諭関東学院大学経済学部教授
写真はイメージです(写真:イメージマート)

異次元の少子化対策や2024年財政検証の議論が進む中で、専業主婦「優遇」批判が続いている。

「専業主婦を優遇」批判の第3号被保険者制度、連合が廃止要請も視野に検討(2023年5月18日 産経新聞)

「専業主婦世帯の約4割が子どもなし」共働き世帯が子育てに奮闘する中、専業主婦優遇政策は必要なのか(2024年6月6日 プレジデント ウーマン)

こうした批判の要点は、専業主婦は働きもせず子供も産まず社会に対して一切貢献していないというものだ。

そしてその根拠に、共働き世帯と専業主婦世帯での子どもなし世帯割合(もしくは子どもあり世帯)の数値が用いられ、実際、総務省統計局「国勢調査」によれば2020年現在、子どもいない割合はそれぞれ、共働き世帯33.6%、専業主婦世帯38.8%と、専業主婦世帯で高くなっていることが挙げられている。

筆者は常々、こうした専業主婦「優遇」批判は全く不適切であり、女性が家庭の外で働くか働かないかは、生涯を通じて固定されたものではなく、女性が現在外で働いている世帯であっても何かの事情で仕事をやめるかもしれず、いま外で働いていないとしてもかつては働いていたり、今後働くことは十分あるので、一時点のスナップショットを示して、専業主婦は優遇されていると批判するのには根拠が著しく欠如していると考えていた。

そうしたなか、本日(6月17日)、荒川和久氏の「「専業主婦は子どもを産まない」は本当か?不毛な二項対立論よりも大事な事実認識と課題の抽出」という記事を拝見して、筆者の考えが間違っていなかったことを確認することができた。

特に、荒川氏の記事にある

特に、「共働きと専業主婦とで、どっちが子有率が高いか」などと不毛かつ不要な対立軸の論点を作り出すのは筋が悪いし、問題の本質を見誤る。

外で働いて稼いでいようがいまいが、専業主婦であろうと専業主夫であろうと、「すべての夫婦は共働き」なのである。

には賛同しかない。

まぁ、筆者も少々調べていたことがあったので、いささか蛇足気味ではあるものの、荒川氏の記事に重要な点を補足しておきたい。

まず、共働き世帯と専業主婦世帯の年齢別子有率の比較について、荒川氏の記事では39歳までの数値しかグラフで示されていない。

この点について荒川氏は、「出生数の9割は39歳までで完結しているので、39歳までの子どもの数で見ても支障はない」とされている。

実際、厚生労働省「人口動態統計」により年齢別の出生率を見ると、39歳までで全出生数の94.1%を占めることが分かる。

図1 累積年齢別出生率(出典)厚生労働省「人口動態統計」より筆者作成
図1 累積年齢別出生率(出典)厚生労働省「人口動態統計」より筆者作成

次に、共働き世帯と専業主婦世帯の年齢別子有率の比較について、39歳までではなく、全年代を示すと下図のように40歳以上で共稼ぎ世帯と専業主婦世帯で子あり率が逆転していることが分かる。

図2 共稼ぎ世帯と専業主婦世帯の年齢別子あり率の比較(出典)総務省統計局「国勢調査」より筆者作成
図2 共稼ぎ世帯と専業主婦世帯の年齢別子あり率の比較(出典)総務省統計局「国勢調査」より筆者作成

このグラフを見れば、荒川氏は都合の悪い点を隠していたように思われるかもしれないが、そうした批判は当たらない。

この点は以下のように説明できる。

第1子を出産する平均年齢は2020年現在で30.7歳となっており、教育費などのためにその子が小学校に達する前後のタイミングでパートに出るなどすれば共働き世帯が増えることになる。

図3 女性の年齢別、正規・非正規別就業率(出典)総務省統計局「労働力調査」より筆者作成
図3 女性の年齢別、正規・非正規別就業率(出典)総務省統計局「労働力調査」より筆者作成

実際、女性の年齢別、正規・非正規別就業率を見ると、共稼ぎ世帯と専業主婦世帯の年齢別子あり率を比較した際の逆転の年齢である40歳以上の女性の非正規就業率が高まっていることが分かる。

つまり、下図とあわせて考えるならば、第1子出産とともに就業をやめたのだが、子育てに手がかからなくなってきたもしくは教育費などの必要性から就業せざるを得なくなればパートなどで就業を再開するというものだ。

図4 女性の年齢別就業率(出典)総務省統計局「労働力調査」より筆者作成
図4 女性の年齢別就業率(出典)総務省統計局「労働力調査」より筆者作成

以上のことは、先の図3より25~29歳でピークを迎えた正規就業率はその後低下を続け、子育てが一段落する辺りから今度はパートやアルバイトなど非正規で就業することからも確認できる。

これは専業主婦批判者が想定するような専業主婦は働きもせず子供も産まず社会に対して一切貢献していないのではなく、専業主婦は子を産んでいるし、家庭の事情に合わせて家庭の内や外で働いて社会に貢献しているということを示している。

要するに、子を持った専業主婦がパートなどで家庭の外で働くことを選択したその瞬間、専業主婦は専業主婦ではなくなり、専業主婦世帯は共働き世帯に変じてしまうだけなのだ。

なお、子どもの数別でみても、基本的には39歳まで、共稼ぎ世帯を専業主婦世帯の子あり率が上回っている。

図5 共稼ぎ世帯と専業主婦世帯の年齢別子あり率(子どもの数別)の比較(出典)総務省統計局「国勢調査」より筆者作成
図5 共稼ぎ世帯と専業主婦世帯の年齢別子あり率(子どもの数別)の比較(出典)総務省統計局「国勢調査」より筆者作成

殊更、女性の就業状態を問題にするのは問われるべき、解決すべき問題から目を逸らすことになる。

つまり、荒川氏も指摘しているように、

かつて夫の一馬力でも結婚して子を産めたのに、今やパートで妻が稼がなければ家計が維持できなくなっている

ことが問題の核心であり、問うべきは

「共働きを増やせ」ではなく「なぜ、かつては可能だった一馬力夫婦が困難になったのか」の方

なのである。

例えば、30~34歳男性の平均賃金が一番高い東京都では、共働き世帯と専業主婦世帯との子どもあり割合は47都道府県でその差が一番小さくなっており、しかも44歳まで専業主婦世帯での子あり世帯割合が共働き世帯のそれを上回っている。

現在、政府は、共働き世帯の方が子どもが多いという誤った「事実」に基づき、専業主婦が「優遇」されているという認識のもと、第3号被保険者制度の廃止など共働きを推進するため、メディアを通じて専業主婦バッシングを盛んに行っているが、実はこうした専業主婦バッシングは、異次元の高齢化が進行する中で、年金をはじめとしたネズミ講型社会保障制度を維持するため、有体に言えば、今の高齢者の既得権を守るため、専業主婦に狙いを定め、労働力と財源の確保のための方便に過ぎないのだ。

政府が問題にすべきは、共働きか専業主婦かの二項対立で国民の分断を煽るのではなく、社会保障をスリム化し、社会保障に費やされる労働力と財源を削減することで重すぎる社会保障負担を軽減し、共働き世帯だろうが専業主婦世帯だろうが、家計の負担を減らすことである。

そうすれば、家計にとっては手取り所得も増えるだろうし、企業にとっては社会保険料負担が削減されるので賃上げに回す原資も確保できるだろうし、回りまわって少子化対策にもなるだろう。

ネズミ講型社会保障制度を維持するために、本来は個人や家計の自由の領域にあるはずの出産や就業などの分野に政府が特定の意図をもって介入することは自由主義の観点からは許されないと筆者は考えるが、読者の皆さんはいかがだろうか?

関東学院大学経済学部教授

富山県魚津市生まれ。東京大学経済学部卒業後、経済企画庁(現内閣府)、秋田大学准教授等を経て現在に至る。日本の経済・財政、世代間格差、シルバー・デモクラシー、人口動態に関する分析が専門。新聞・テレビ・雑誌・ネットなど各種メディアへの取材協力多数。Pokémon WCS2010 Akita Champion。著書に『教養としての財政問題』(ウェッジ)、『若者は、日本を脱出するしかないのか?』(ビジネス教育出版社)、『年金「最終警告」』(講談社現代新書)、『シルバー民主主義の政治経済学』(日本経済新聞出版社)、『孫は祖父より1億円損をする』(朝日新聞出版社)。記事の内容等は全て個人の見解です。

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