「言われてみればそうですね」と言う部下はやる気がない
■ なぜ、言われてみればそうなのか?
「言われてみればそうですね」
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。現場で支援をしている際、何か指摘するたびに、このように言われます。
そして、そのたびに思います。なぜ「言われてみればそうですね」と言うのか。言われてみればそうだと思うぐらいなら、言われる前からそう思えばいいじゃないか、と私は考えます。
クライアント企業の社長が「今期の方針は意識改革だ」などとスローガンを掲げても、組織にひとりでも「言われてみればそうですね」などと口にする者がいれば、いっこうに意識改革が進んでいないと受け止めるべきでしょう。
■ 意識レベルを測る
それでは、部下の意識レベルを推し量る「3種類の質問」を紹介します。
質問に対する正しい答えが、どこの記憶装置の中に格納されているか、それがわかれば部下の「意識レベル」を推測することができます。
その記憶装置とは、「短期記憶」「長期記憶」「外部記憶」の3つです。
「短期記憶」とは、いわゆる「ワーキングメモリ」のこと。情報を処理するために常に格納しておく作業記憶装置。「長期記憶」は、長い歳月をかけて蓄積してきた知識の図書館のようなもの。
何らかのヒントを言われても思い出せないときは、人間の脳の外にある記憶装置――「外部記憶」を頼ることになります。
たとえば上司から、「目標達成に向けて、常に意識してやってるか?」と問い掛けられて、「はい、いつも意識しています」と応じる部下がいます。しかし、その「意識しているもの」がどのようなものであり、どの記憶装置に格納されているかによって結果はまるで異なってきます。
■ 3種類の質問
部下の「意識レベル」を調べる質問とは、以下の3つです。
● 漠然とした質問
● 具体的な切り口を使った質問
● 正しい答えを使った質問
最初に「漠然とした質問」を紹介します。
「今期の目標達成のために、いま意識していることは何だ?」
これが、漠然とした質問です。多義的ですので、質問されたほうは何を答えたらいいか迷うことでしょう。しかし、漠然とした質問にもかかわらず、具体的な行動指標まで答えることができたら、部下の「意識レベル」はかなり高いと言えます。
「今年の目標は売上2億4000万円です。この数字を達成させるためには、拠点開拓を第一に意識しなければなりません。現在、4つの金融機関に働きかけており、10月までには新しい販売チャネル獲得のための協議を進める予定です」
このような具体的な行動までスラスラ言えるということは、常に部下がこのことを意識している証拠。部下の脳の「短期記憶」に格納されているから、漠然とした質問をされてもストレスなく口から出てくるのです。
以前は言えなかったのに、最近言えるようになった、というのであれば、まさに「意識が変わってきた」と言えます。
■ 意識レベルが低い部下
「常に意識していること……と言われましても、いろいろありますが」
と答える部下は、上司の質問に何を答えていいのか理解できないレベルです。また、
「意識していることは、効率よく仕事をして、なるべく目標を達成できるように、頑張ることです」
……と、漠然とした答えをする部下も、上司が期待する「意識レベル」に達していない。
「短期記憶」に入っていない――つまり常に意識していない――から、上司の質問の意図を正しく脳が処理できないのです。
このような部下には2つ目の「具体的な切り口を使った質問」をすることになります。正しい答えに導くためのヒントとなる「切り口」や「指標」を渡すのです。
「今年の売上目標を達成させるうえで、日々心掛けている行動指標を具体的に答えてほしいと聞いてるんだ」
こう言うと、
「あ、そういうことですか」
と、だいたいの部下は「それなら」ということで、上司が期待する答えを言うことでしょう。
切り口があることで、脳の「長期記憶」にアクセスしやすくなるのです。何度もこの質問を繰り返すことで、いずれ長期記憶に入っている情報が、短期記憶に移動し、意識が変わってくるようになります。
■ まるでやる気のない部下
切り口を渡されても答えられない場合は、3つ目の「正しい答えを使った質問」をせざるを得ません。
「だから……。売上目標がいくらで、その売上を達成させるためにどのような行動をすればいいか、と聞いてるんだよ。今期の部長方針は、新しい販売チャネルの獲得だっただろう。そのために、日ごろからお付き合いのある金融機関へアプローチすることになっていたはずだ――」
と、上司は具体的な「答え」を明示します。すると、さすがに部下は、こう言うでしょう。
「言われてみればそうですね」
と。
どんなに社長が「意識改革だ」と声高に叫んでも、「言われてみればそうですね」を連発する社員がいれば、意識改革は進んでいません。
部下の「わかってます」「意識してます」という言葉に騙されないよう、漠然とした質問を上司がしつづけることです。
部下が本当に「言われなくてもわかっている」状態になっていれば、上司はラクにマネジメントができるようになります。