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のれんに腕押しの森保解任論。アンバランスなE-1に注意!

清水英斗サッカーライター
E-1選手権、韓国対日本(写真:ロイター/アフロ)

2019年末。森保ジャパンに木枯らしが吹きつける。

11月のワールドカップ2次予選キルギス戦は内容乏しく、辛うじて2-0で勝利。親善試合のベネズエラ戦は1-4で大敗し、五輪代表もU-22コロンビアに0-2で敗れた。

そして今回、12月のE-1選手権も、実力差のある中国と香港には勝利したものの、韓国戦は0-1で完敗した。この2カ月は内容の悪い試合が続いたこともあり、A代表と五輪代表を兼任する森保一監督の手腕を疑問視する声がよく聞かれるようになった。

なぜ、韓国に為す術もなく敗れたのか。

最大の理由は、攻撃陣の大半を占めた五輪世代の質不足だ。戦術的に序盤のハイプレスとロングボールに面食らい、慌てふためいたのは確かだが、その後は疲れの見える韓国に対し、日本が攻める時間も増えた。引き分け以上で優勝が決まる試合だったので、日本は1点を取ればいい。チャンスは充分。

しかし、取れなかった。ゴール前に入っても、最後の牙城を崩せない。シュートを打たせてもらえない。この状況で2点目を取れなかった韓国も甘いが、まんまと逃げ切りを許した日本はより拙い。

上田綺世は象徴的だった。前半33分、38分にゴール前でフリーになり、パスを受けた動きなど、彼はゴール前でDFの背後を取る方法を知っている。日本人には珍しい純粋なストライカーだ。ところが、打てない。うまく受けているのに、シュートを打つ前にカバーに走ってきたDFに寄せ切られてしまう。

このレベルの緊迫感が漂うゴール前で、上田のトラップは大きすぎる。33分の場面では止めて打つまでに4歩もかかった。

この場面、たとえば大迫勇也ならどんなイメージがわくだろうか。ワンタッチで即座に打てない以上、もっと身体の近くに止め、1~2歩で打ったり、相手を抑えながら打ったり。あるいは更に一回の駆け引きを行う余裕を残したかもしれない。シュートを打つふりをしつつ、相手の寄せを感じ、逆を取って右へ切り返し、ファーサイドへ流し込む。大迫ならそんなイメージが期待できる。

上田は有望なストライカーだ。賢く、芯が強い。だが、このレベルの舞台で点を取るために必要なゴール前の皮膚感、技術、ボディーバランスが追いついていない。

シュートを打って外したのなら、「次は決める」と思えるが、今回はまともに打つことすら叶わなかった。持ち味はそれなりに出したのに、通用しない。ある意味、これほどショッキングな負け方はない。たった数歩の違いに、一流と二流を分ける境界があった。

上田に限らず、五輪世代の選手は総じて拙かった。橋岡大樹の縦に大きく出してクロス、相馬勇紀の仕掛けとクロスにしても、あまりにワンパターンだ。U-22の起用にこだわらず、初戦の中国戦から国内組のA代表でスタメンを組めば、もっといい試合になったはず。最後は質不足が響いた。

依然、明確ではないE-1の位置付け

日韓戦に敗れて以降、森保ジャパンに対する懐疑的な声は一段とヒートアップし、五輪との兼任を疑問視する声、あるいは解任を望む声も増えてきた。

しかし、そんな声も、のれんに腕押しだ。手応えも張り合いもない。

なぜなら日本は全力で結果を取りに行っていないからだ。それは編成を見れば明らか。親善試合もE-1も、東京五輪やワールドカップ予選を見据えたテストマッチでしかない。

戦術も明確ではなく、選手の対応力次第だ。試合中の采配もすぐには動かず、様子を見る。指示も絶対的な言い方はせず、選手に委ねる。個を発掘する以上の内容がなく、最初から“成長”のエクスキューズ含みなので、チームとしての内容や結果を問おうにも相手がいない。

個人を集め、伸び伸びと良さを発揮させ、五輪やワールドカップなど本番前のキャンプでチームを作る。どんな仕上がりになるのかはわからない。本番ガチャの日本代表だ。

この方針が悪いとは思わない。緩い縛りで個人の発掘を優先するのは、代表チームの制約を考えれば当然の手法なのだろう。実際、今回は五輪世代の選手が貴重な経験を積んだ。

この森保監督のマネージメントは、前監督ヴァイッド・ハリルホジッチによく似ている。彼もE-1の結果は全く重要視せず、単なるテストマッチにした。ただし、似たことを実践した上で、ハリルホジッチが日韓戦の結果と内容を問われて解任に突き進んだのに対し、オールジャパンの監督にその様子はない。一蓮托生だ。コミュニケーション不足は無いようである。

ただし、対外的な発信はもう少し考えたほうがいい。

結果最重視ではないE-1への姿勢は、チームスタッフや技術委員会としてはコンセンサスが取れているのかもしれないが、ファンが置き去りだ。

6月のコパ・アメリカとは違う。当時の日本は招待国であり、Jリーグも開催中であるため、五輪世代を中心に据えるのは消去法としても妥当だった。しかし、今回のE-1はより結果重視の国内組A代表を組むことが可能だった中、スタメンに五輪世代を4人も入れた。この状況で「結果にこだわる」「全力で勝ちに行く」「日韓戦」と煽られても、アンバランスさに戸惑う。ファンやサポーターへの肩透かしになっている。実情に合ったメッセージが欲しいところだ。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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