FF9のアニメ化は「テレビ」 なぜ今のタイミング?
スクウェア・エニックスの人気ゲーム「ファイナルファンタジー(FF)9」がアニメ化されることが明らかになりました。仏のアニメ会社サイバー・グループ・スタジオに尋ねると「テレビアニメ」とのことでした。背景と理由を考察しました。
◇FF9のアニメ化は「テレビ」
FF9は2000年、PS向けに発売されたRPGです。旅芸人一座の少年ジタンは、自ら国を出ようとした王女ガーネットを“誘拐”する形になり、それぞれの思いを抱えながら共に冒険する……という物語です。「生きることの充実感」をテーマに、シリーズ屈指の名作の声もあります。
2005年に設立した、子供・ファミリー向けのコンテンツを制作するアニメ制作・配信会社のサイバー・グループ・スタジオのリリースによると、「ファイナルファンタジー9のアニメシリーズ化について、独占的オプション契約を締結」という内容でした。フランスの社内スタジオで制作をして、世界向けの配信、商品化ライセンス事業も担当するそうです。リリースのポイントは以下の通りです。
・ターゲットは8~13歳とその家族
・スクウェア・エニックスが監修
・ゲーム世界を再現したアニメ化
・追加要素あり
【参考】FINAL FANTASY IX to be adapted into an Animation Series for the First Time
「子供向け」という点を懸念する声もあるようですが、ゲームファンにも敬意を払い、世界展開を意識していることも読み取れます。
FF9のアニメ化について、サイバー・グループ・スタジオに直接尋ねたところ、今回はテレビアニメとして制作することを明かしながら「FF9の世界観は素晴らしい。この壮大なショーを子供たちと家族、あらゆる年齢の人々と共有したいと思いました」とコメントしています。物語については「現段階では明かせない」そうです。ちなみに「他のゲームのアニメ化の可能性は?」という質問には「さまざまなジャンルのゲームを検討し、適切な機会を探っています」とも教えてくれました。
◇映画の大失敗を糧に
スクウェア・エニックスの映像プロジェクトで、真っ先に思い浮かぶのは、2001年公開のフルCG映画「ファイナルファンタジー」でしょう。自前のスタジオを作るなど160億円以上の製作費を投じ、フルCGという当時としては驚きの手法、人気ゲーム会社の映画事業進出といった話題性はありました。ところが北米の興収は目標の100億円に対して約3分の1と不振で、日本の公開も約2週間で打ち切られました。最終的にスクウェア(当時)は139億円の特別損失を計上し、映画事業から撤退。その結果、翌年度の売上高がほぼ半減し約366億円に落ち込むほどでした。売上高が3000億円超になった今となっては考えられないほど苦しんだのです。
FF9のアニメ化について、スクウェア・エニックスに問い合わせると「契約は事実だが、詳細は先方に問い合わせてほしい」とのことでした。つまり、自社コンテンツのアニメ化なのに、発言の主導権を相手側にゆだねています。今回のアニメ化により明確な狙いがあるなら、自社からリリースを出すはずです。絶好のアピールチャンスなのですから。
そうなると「なぜ今のタイミングにアニメなの?」と言えば、サイバー・グループ・スタジオが動いたから……というのが答えです。同時にアニメの作品数が増えて、題材に苦労することとも無縁ではないでしょう。今の日本でも、リメークのアニメが増えている実情もあります。
一方で、アニメにする以上は相応の期待があるのも確かでしょう。FF9が発売されて20年が経過しているにも関わらず、フランスのアニメ会社が「広い層に向けてテレビアニメにしたい」と思わせるだけの内容があったわけで、コンテンツとして高く評価されている証です。
またスクウェア・エニックスは、大失敗を糧にして、以後は映像プロジェクトで手堅い戦略を取っています。「ファイナルファンタジー7」のその後の世界を映像化した「アドベントチルドレン」は、映画にはせず、社内制作でコストを抑えてDVDで売り出し、3週間で70万枚というヒット。FF7の人気を織り込み、リスクを極力抑えた手法でした。
◇映像コンテンツ強化は近年の流れ
FF9のテレビアニメ化で得るスクウェア・エニックスのメリットは、FF9というコンテンツが、新作ゲームを作ることなく「リフレッシュ」し、コンテンツの価値が向上することです。もちろん映像プロジェクトに絶対の成功はありません。しかし、自前のスタジオを作るなどの投資をしないのですから、同じFFの映像化とはいえ、20年前のプロジェクトとは別物です。
スクウェア・エニックスからすれば、コンテンツを監修することでアニメの質はある程度担保できるでしょうし、世界に向けて発信されるメリットが大きいのです。さらに今回の戦略が成功すれば、他のFFシリーズにも応用できます。世界的な人気が出れば、FF9のフルリメークをすることも、FF7やFF10のように続編のコンテンツを展開しても良いでしょう。
家庭用ゲーム機のビジネスは、ユーザーから一定の収益を取れるのが強みですが、遊びつくすと次のゲームに行くため、オンラインゲームなどを除いてユーザーとの接触期間が比較的短いという弱点もあります。また物語の選択肢があるゲームを、アニメに違和感なく落とし込むのも大変です。しかし、ビジネスの組み合わせだけで言えば、ある程度の放送期間がある上に、コンテンツに触れやすいアニメは、ゲームコンテンツとの相性は良いのです。
アニメと玩具ビジネスを組み合わせたバンダイナムコグループは例外にして、ゲーム会社は映像ビジネスの展開をしてはいるものの、あまり前向きではありません。マンガや小説に比べて、映像化される作品数は少ないのです。そもそも「アニメとゲームは合わない」という声は、ゲーム会社の経営陣から何度も聞きました。大手ゲーム会社は潤沢なキャッシュがあるのに、ゲームのビジネスで成功していることもあってか、新規の展開に消極的な面があります。ゲーム会社が映像コンテンツに力を入れてきたのは、ごく近年です。いかにしてユーザーの接触点を増やすか、コンテンツの強化を考えると、映像化に行きつくのは必然でしょう。
任天堂は2020年度の通期決算発表時に、新ビジネスとして、映像関連について複数の企画を立ち上げていることを明言しています。ソニーも世界的な大ヒットゲーム「ラスト・オブ・アス」のドラマ化、「ゴースト・オブ・ツシマ」の映画化も発表済みです。FF9のアニメ化も「ゲームコンテンツをゲーム以外で有効に生かし、コンテンツの価値を高める」という潮流の一つです。日本のアニメスタジオではなく、仏のスタジオと組んだことも含めて、注目したいところです。