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『奪い愛』新作で女子高生役の岡田奈々は今のAKB48のエース。まじめ伝説と女優への意欲

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『奪い愛、高校教師』より (C)AbemaTV, Inc./テレビ朝日

 ドロドロの愛憎劇とキャストの怪演が話題を呼ぶ『奪い愛』シリーズの新作『奪い愛、高校教師』(ABEMA/テレビ朝日)が、昨日から4夜連続で放送されている。1人の高校教師を3人の女性が奪い合うストーリーの中で、観月ありさ、松本まりかと並び立つ女子高生を演じているのは、現在のAKB48のエース・岡田奈々だ。グループで出演した作品以外では初めてのドラマ。純粋で大胆な役に挑んだ24歳のバックグラウンドは?

高校教師を母、婚約者と奪い合う

 『奪い愛』シリーズは、倉科カナが婚約者と元カレの間で揺れる役で主演した2017年の『奪い愛、冬』からスタート。ドロドロしてキュンとなる“ドロキュン劇場”を謳い、元カレの妻を演じた水野美紀のホラーともコメディともつかない怪演も話題を呼んだ。

 その後、水野が「1億円で私と結婚しなさい」と社員に迫る社長役で主演した『奪い愛、夏』、山崎育三郎が演じる医師が婚約者を巡る嫉妬心から常軌を逸していく『殴り愛、炎』とシリーズ化された。

 『奪い愛、高校教師』では、バツイチの看護師・星野露子(観月ありさ)が楽器カフェで知り合った音楽教師・冬野三太(大谷亮平)に恋心を抱く。彼には同じ高校に勤める英語教師・十仲華子(松本まりか)という婚約者がいて、クラスに転入してきた露子の娘の灯(岡田奈々)とも教師と生徒を超えた気持ちを抱くようになる。

 昨夜放送の1話から、観月が1人の夜道で「抱いてーーーーっ!!」と叫んだり、大谷と松本が教室の教卓の中に潜り込んでキスしたりと、このシリーズらしいシーンが繰り出されていた。

父に捨てられて人を信用しない役に挑む

 そんな中で、岡田が演じる灯は自分と母を捨てた父を憎み、人を信用できないという役どころ。心臓に持病があり、ペースメイカ―を付けている。1話では胸を押さえてうずくまっているところに声を掛けてきた三太の手を払いのけ、「そういう善意はウザいんで、ほっておいてください」と睨んだり、転入したクラスで「新しい仲間」と紹介されると「仲間かどうかはお互いの意志があるので」と言い放ったり。

 昔吹いていたフルートを三太から渡されて拒みつつ、彼が華子と式場選びに行く日に「思い出の湖に一緒に行ってくれたら、また吹くよ」と持ち掛けたりもした。

 岡田はAKB48が今年1年半ぶりにリリースしたシングル『根も葉もRumor』でセンターを張った現在のエース。この曲は高速で激しいロックダンスが話題を呼んで日本レコード大賞の優秀作品賞に選ばれるなど、AKB48復活の狼煙となった。

 女優業は舞台『マジムリ学園』やドラマ『AKBラブナイト 恋工場』23話で主演など、AKB48のメンバーとして出演した作品はあるが、個人でのドラマ出演は初めて。「お話をいただいたときは『いやいや、ウソでしょ!?』ってくらい驚きました」と話している。

『奪い愛、高校教師』より (C)AbemaTV, Inc./テレビ朝日
『奪い愛、高校教師』より (C)AbemaTV, Inc./テレビ朝日

キスシーンはドキドキしながら業務的に

 ドラマに関しては「小学生の頃からよく観ていて、『花男(花より男子)』は映画版まで観るくらいハマりました。花沢類派で、王子様系が好きだったんです(笑)」とのこと。『奪い愛』シリーズも「もちろん観てました。ドロドロした恋愛ドラマは好きです(笑)」という。「松本まりかさんもいつもドラマで観ていて、あんなにすごい方と同じ画面に自分が入るのは衝撃でした」とも。

 劇中では、その松本と対峙するシーンも。

「松本さんに圧を掛けられる場面で、お芝居は不安だったんです。でも、松本さんの迫真の演技が怖くて、リアルに怯えました。怖がる演技をする必要はなくて。お母さん役の観月ありささんもそうでした」

 さらに、大谷に自分からキスをするシーンもある。

「灯は純粋な子ですけど、大胆なところもあって。キスシーンは今まで片手で数えられるくらいしかやったことがなくて、しかも相手がメンバーだったりしたから、今回は緊張しました。でも、撮影はいい意味で業務的でした。私はドキドキしていても、周りは普通に動いていて。段取りをしっかりやって、監督は映る角度や見え方をすごく大事にされていました」

 自身も怪演を見せたりはするのだろうか?

「ひとつもないです(笑)。水野美紀さんの怪演を観ていたので、オファーをいただいたときは、そっち寄りのお芝居があるかと思ったんですけど、灯はずっといい子でした。少し大胆なくらいで、『奪い愛』シリーズで一番普通の女の子かもしれません」

『奪い愛、高校教師』より (C)AbemaTV, Inc./テレビ朝日
『奪い愛、高校教師』より (C)AbemaTV, Inc./テレビ朝日

ドッキリ企画でも揺るがなかったまじめさ

 岡田は渡辺麻友に憧れて、中3だった2013年にAKB48の14期生オーディションに合格。研究生の頃から同期の小嶋真子、西野末姫と共に“三銃士”と呼ばれ、将来を期待された。渋谷凪咲(NMB48)ら姉妹グループのメンバーも含めた研究生ユニット・てんとうむChu!のメンバーにも選ばれ、プッシュされている。ただ、センターはアイドル性が高かった小嶋で、岡田は2番手、3番手タイプと見られていた。

 そして、10代の頃の岡田といえば、まじめが代名詞だった。メンバーに言葉づかいを注意する、1人で居残りレッスンをして掃除して帰る……といったエピソードは枚挙に暇がない。自身は「家の門限は厳しくて、お箸の持ち方や言葉づかいも注意されましたけど、それが普通と思ってました」と語っていたことがあった。

 2013年に冠番組『AKBINGO!』で「徹底検証!岡田奈々はどこまでマジメなのか?」というドッキリ企画を3週にわたって放送。打ち合わせでスタッフが三国志やプロレスなど関係ない話を延々と続けても、5分間、決して目をそらさずに受け答えしたりする姿が見られた(筆者も取材で、彼女がずっと目をそらさないのは経験している)。

 さらに、コメント収録で偽ディレクターに数々のムチャ振りをされ、下半身が馬のケンタウロスの衣装まで着させられたりも。ディレクターが部屋を出た間、仕掛け人の2人のメンバーが「演出が意味不明。センスがない」などと水を向けたが、岡田は悪口に乗らず、「何か意味があるから」と話していた。

 ドッキリとバラされても「面白かったですか?」と撮れ高を気にして、根っからのまじめぶりが浮かび上がった。

撮影/草刈雅之
撮影/草刈雅之

「100でなければ0」と自分を追い込んだ末に

 だが、そのまじめさゆえに自分を追い込んでしまい、2016年には機能性低血糖症での休業も経験している。

「お仕事は全部完璧にやらないといけないと考えていた分、100%できないと0と同じと思ってしまって。そんな性格は今も変わりませんけど、ダメな自分を受け入れるしかなくて、できないことはできないと認めるようにしたんです。人に迷惑もかける分、周りで困っている人がいたら、支えてあげたいと思うようになりました」

 その頃にロングだった髪をバッサリ切って、ショートにしている。

「自分の中で何かを変えたくて、たぶんまじめなイメージも壊したかったんでしょうね」

 2017年にSTU48が結成された際は、兼任でキャプテンを務め、オーディションに受かったばかりのメンバーたちをまとめた。

「ちょうど悩んだあとで、1から素敵なグループを作ろうという想いでいっぱいでした。メンバー1人1人に親身になって教えてあげようと、すごくやり甲斐があって。自分の存在意義を見つけられた感じです」

 そうこうするうちに、ファンに対しても真摯な姿勢と相まって、人気もジワジワ上昇。選抜総選挙では51位、29位、14位、9位と順位を上げていき、最後の開催となった2018年は5位。松井珠理奈(SKE48=当時)、須田亜香里(SKE48)、宮脇咲良(HKT48=当時)らに続き、AKB48ではトップだった。同年発売の『ジャーバージャ』では初のセンターを務めている。

 今年の勝負作『根も葉もRumor』で二度目のセンターを託され、高難度のロックダンスを「何度も挫けそうになりながら諦めずに」モノにした。MVでも1人で校舎から全力で駆け下りてくるシーンなど、圧倒的な存在感を見せている。「AKB48はきっと過去の黄金期を超えます」ともコメントしていた。

同じ状況なら自分の愛を一番に考えます

 岡田は歌唱力に定評があり、『AKB48グループ歌唱力No.1決定戦』では過去3回とも決勝大会に進出。昨年の第3回は3位で、1月に決勝が行われる第4回は予選をトップで通過した。ソロデビューを目標に掲げ「アニメソングが好きなので、LiSAさんのように幅広く歌っていけるようになりたい」と話している。

 一方、今年7月から、所属事務所がエイベックス・アスナロ・カンパニーに。

「本格的に舞台やミュージカルの活動をしていく予定です。歌の表現力を磨くためにもお芝居は重要で、ドラマとかバラエティとか、いろいろ頑張っていきます」

 今回の『奪い愛、高校教師』の撮影では、「先生のことを好きだけど、お母さんも先生が好きで、婚約者までいる。その葛藤を台詞だけでなく表情や間で表すのが難しかったです」と振り返る。感情の溜め方も学んだそうで、女優として収穫は大きかったようだ。あと3話、どんな演技が見られるのか。

 ちなみに、自分が灯と同じ状況だったら?と聞いてみたところ、「お母さんと好きな人がカブっても、たぶん譲ったりはしません。リアルにお母さんとそうなることはありませんけど、誰が相手でも自分の愛を一番に考えると思います」と、芯の強さをのぞかせた。

撮影/草刈雅之
撮影/草刈雅之

『奪い愛、高校教師』公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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