「LGBT平等法、同性婚の法制化を」求める動き活発化。10万筆の署名提出、緊急集会を開催
LGBT平等法、同性婚を法制化してほしいーー。
25日、性的指向や性自認に関する差別を禁止する「LGBT平等法」の制定を求める団体が、与野党に約10万筆の署名と要望書を提出。
さらに、札幌地裁判決で17日に下された、同性婚が認められないことへの違憲判決を受けて、結婚の平等の実現を求める「Marriage For All Japan」が緊急の院内集会「第三回緊急マリフォー国会」を開催した。
今国会での成立を
LGBT関連団体の全国組織「LGBT法連合会」や国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」など4団体が「LGBT平等法」の制定を求める要望書と、106,250筆の署名を自民党・橋本岳衆議院議員に手渡した。既に公明党、立憲民主党、日本維新の会、社民党には提出済みで、今後共産党、国民民主党にも提出する。
LGBT法連合会理事の五十嵐ゆりさんは、「LGBTの自死未遂は(シスジェンダー・ヘテロセクシュアルの人たちと比べて)LGBで6倍、Tは10倍以上と言われています」と指摘。
実際にさまざまな差別的取り扱いが起きていることに触れ、「人権を保障する、平等を担保するルールの制定を求めています」と述べた。
同団体事務局長の神谷悠一さんは、性的マイノリティに関する全国意識調査で、LGBTに関するいじめや差別を禁止する法整備に約9割が賛成していることに触れ、「署名開始時(昨年10月)の時点ではなかった調査です。大きな賛同の世論があることを紹介したいと思います」と話した。
「今国会でのLGBT平等法の成立を求めたい」と話す神谷さん。議員立法は全会一致が原則だ。
「議員立法自体は、すべての党が賛成していれば、通る時は衆議院・参議院を1〜2週間で通り、成立する例が多いと聞いています。法律の具体的な中身の考えは与野党で異なりますが、議員立法は原則、全会一致で制定することになっており、より良いものを議論して作ってほしい」と語った。
今日の参議院予算委員会では、立憲民主党の福山哲郎幹事長がLGBT平等法について菅首相に質問。
日本に性的指向や性自認に関する差別を禁止する法律がないことや、五輪憲章に性的指向による差別の禁止が明記されていることに触れ、「こんな状態でオリンピックを迎えようとしている。せめてLGBT平等法は作るべきではないか」と訴えた。
菅首相は「性的指向や性自認を理由とする不当な差別はあってはならない」としながらも具体的な法整備についての答弁はなかった。
歴史的な判決
今月17日、札幌地裁で法律上同性のカップルに婚姻が認められないことは、法の下の平等を定める「憲法14条に違反する」という歴史的な判決が下された。
これを受けて「結婚の平等」の実現を求める「Marriage For All Japan」は、早期の同性婚法制化を求める「第3回緊急マリフォー国会」を開催。違憲判決を勝ち取った「結婚の自由をすべての人に」北海道訴訟の弁護士や原告が会場に駆けつけた。
原告のEさんは、裁判長から「違憲判決」を聞いた際、涙が溢れ、その後裁判長が何を話していたか「ほとんど覚えていない」と語る。
「判決を聞いて『生きていてよかったな』と思ったのは間違いありません」と話し、「婚姻の平等をめぐる検討は、もう国会議員の皆さんに渡されました」と国会での議論を促した。
憲法学者の木村草太さんは、今回の判決について「判決理由がよくわかり、緻密な論証のできる裁判官の方が書かれたという印象が強い」と話す。
一方で、一部の人が判決は「憲法24条が同性婚を禁止している」「判決は同性愛者に婚姻のほんの一部だけを与えておけば良いと言った」と述べていることについて、これは「判決を台無しにする言説」だと話した。
憲法24条は異性婚の男女平等をうたっており、同性婚について何も言っていない。「何も言っていないというのは、禁止しているわけではありません」、例えば「表現の自由を保障する憲法21条は、営業の自由についてなにも言っていませんが、これは営業の禁止を含まないのと一緒です」と述べた。
むしろ憲法24条は「同性婚も保障している」とすることは可能だという。
「憲法22条の職業選択の自由は、”選択”の自由ですが、職業の継続や営業も含むと解釈されています。憲法24条が同性カップルも含むという直接適用は可能です」
さらに、憲法14条が、すべての「国民」は法の下の平等だと書かれているが、最高裁は「外国人」にも類推適用されるとしている点を比較し、「札幌判決ではそこまで踏み込みませんでしたが、憲法24条を同性婚に類推適用することは可能です」と語った。
「(判決では)異性カップルと同性カップルの違いは性的指向のみでしかなく、享有し得る法的利益に差異はないと言っています。判決は、同性婚と異性婚の要件や効果、制度の名称などは原則として同じで、区別する場合は”どうしても区別する必要がある場合だけ”という方向で書かれています」
“国側”が訴訟に圧勝する方法
判決では「国に婚姻制度についての立法裁量がある」と強調しているが、「立法裁量とは、立法の合憲な選択肢の幅のことをいっています。同性婚を立法しなくていいという意味ではありません」と木村さんは話す。
「同性婚を二級の婚姻と位置付け、別の制度とすることにも判決は否定的です」
「判決が立法裁量を強調するのは、婚姻制度にいろいろな選択肢があるからです。婚姻制度を続けるにも配偶者の相続分をどうするか、同居義務を必須にするのかどうかなど、合憲な選択肢はいろいろあります」
「裁判所はこれに関する国会の判断を最大限尊重するために立法裁量を強調しています。同性婚をおとしめるためではありません」
訴訟では、国側が「異性愛者も同性愛者も、法律上は異性と結婚ができ、同性と結婚できないのは”同じ”だから、これは性的指向に基づく差別ではない」などという詭弁を述べていた。
木村さんは「国側の主張はわけがわからないものが多く、国側の訴訟の担当者も同性婚を否定する理由がわからなくて困っているのだろうと感じました」と話す。
最後に「この訴訟で国側が圧勝する方法が一つだけあります。それは国会で同性婚を立法することです。原告と国の対立はほぼ消滅します」と語った。
具体的に、法律の制定を
政府は同性婚法制化の議論を進めず、「家族のあり方の根幹に関わる問題であり、極めて慎重な検討を要する」という発言を繰り返す。しかし、今回の札幌地裁判決で、司法から明確な違憲の判断が下された。今後も各地裁での判決が続くだろう。いつまでも逃げ続けることはできない。
さらに、今回の判決で性的指向による不合理な差別が違憲であることが明確になったことは、LGBT平等法の法制化も後押しするだろう。
「憲法14条で差別が禁止されているのであれば、LGBT平等法は必要ないのではないか」という声もあるが、残念ながら憲法で示されていても、実際には性的指向や性自認を理由とした解雇などさまざまな被害が起きている。
LGBT法連合会の神谷さんは「男女雇用機会均等法や障害者差別解消法などが示すように、具体的に法律で『こうした差別的取り扱いはダメだ』と明記することで平等を担保することができます」と話す。
今月に入って、性的マイノリティをめぐる訴訟や国会の動きが活発化している。2015年に超党派のLGBT議員連盟が発足してから6年。具体的な法整備が求められている。