「アメリカは練習しないし教えない。でも…」上原浩治が息子の高校野球で驚いた日米の違い
これも文化の違いなのだろう。長男が5月、アメリカの高校を卒業した。日本でもよく知られているフロリダにあるIMGアカデミーに在学し、野球を続けてきた。
卒業式は、日本のようにしんみりとした雰囲気はいっさいなく、みんなパーティーのように盛り上がったのが印象的だった。息子も名前を呼ばれて壇上に立つと、学生や保護者がいる席に向かって両手を挙げて絶叫していた。彼らの表情は、まさに希望に満ちあふれていた。高校を巣立ち、新たな世界へ飛び込んでいく。そんな思いにあふれた高校生の立場になってみれば、確かに学生生活を懐かしんでばかりもいられないのだろう。
アメリカで高校年代を過ごした息子の練習にはよく付き合い、試合の応援にも行った。自分自身が目にしたことが全てではないかもしれないが、アメリカの高校生はほんとに練習をしない。そして、コーチたちも一切教えることをしない。これは、私が想像していた以上で本当に驚かされた。叱らないと言えば、聞こえはいいが、日本の高校生が見たら驚くような走塁ミス、守備の連携ミスは茶飯事だ。
日本の悪しき慣習である怒号、怒声は論外としても、ミスが出たところでプレーを止めて、なぜそうなったのかを突き詰めて反復すれば、上達するのになあと思いながらも、“外野”の自分が口だしすることはなく、複雑な思いだった。
IMGアカデミーには野球場がいくつもあり、練習環境は素晴らしい。それでも、彼らはほとんど練習をしない。はっきり言えば、学費はめちゃくちゃ高い。これだけの学費を支払って、練習がこの程度でいいのか、と疑問に思うのは、私が日本で育ったからかもしれない。練習はしないが、一方で、実戦の数は半端ない。シーズン中はほとんど試合をしている。学校内に野球のチームだけでもレベルに応じて10以上存在し、試合に出ない「補欠」の概念はない。この点は、日本の強豪校で一度も試合に出ることがなく、卒業していく高校生からすれば、うらやましい環境かもしれない。
日米の違いを比較すれば、日本の高校生は野球のルールをよく理解し、基本ができている。アメリカでは、場合によってはルールすらわかっていないんじゃないかという高校生もいる。それでも、コーチは注意をしない。代わりに実戦機会が設けられ、試合の中で身につけていけばいいというスタイルだ。たまに、メジャーでも、なんでこんな走塁ミスが起きるんだという場面があるが、これは学生時代の“ツケ”だと思っている。
日本でも怒らない指導へ舵が切られる風潮にあるが、ダメなプレーはきちんと注意をして基礎をたたき込む必要はどの時代にも欠かせないと考える私は、時代錯誤なのだろうか。決して、暴言や体罰による指導を容認しているわけではない。叱ったり、注意することと、厳しい指導が安易に結びつけられる風潮には疑問がある。
高校年代のトップレベルでいえば、日本の高校生のほうがはるかにレベルが高い。それは、野球の基礎がしっかりとできているからだ。これは、日本の選手がメジャーへ移籍したときにも、評価されるプラスの要素である。
一方で、アメリカの高校生は大学へ進学し、野球に本格的に専念したり、フィジカルを鍛えたりことで、日本人ではかなわないパワーや体格を手にしていく。そうして、大学、プロと年代が上がるにつれて、アメリカの選手たちの強みが発揮されていくのは想像がつく。だからといって、日本の野球界が、アメリカの野球に幻想を抱く必要はないと思っている。
高校を卒業したら、日本もアメリカももう子どもではない。自分で考えて、野球にしろ、他の道に進むにしろ、決断をしていってほしい。
息子は大学でも野球を続けるようだ。全米屈指の強豪というわけではないが、メジャーのドラフトにかかる選手も在籍しているNCAAのDivisionⅠ(ディビジョン1)の大学に進学する。これまで同様、私が教えることはないだろう。本人も嫌がるし、何より息子は左利きの外野手。右の投手だった私が下手に口出しするのもおかしい。
本人は現在のところ、プロを目指しているわけではなく、大学4年間で野球は完全燃焼するつもりのようだ。寮生活の中で、人間としても大きく成長してほしいと願っている。私も浪人をして大学に進学したときは、プロになるとは夢にも思っていなかった。だから、この先の人生はどうなるか、本人にもわからない。親としては何も求めていない。大学生活を思い切り楽しんでほしい。