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3Dを押し付けないで。2Dで見たくても見られない中国で観客が抗議

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「ジェイソン・ボーン」は北米を含むほとんどの国で2Dのみで公開された(写真:ロイター/アフロ)

アメリカで飽きられ気味でも、中国は3Dが大好き。そんなハリウッドの“常識”は、必ずしも正しくなかったようだ。先週、「ジェイソン・ボーン」が中国で公開されたのをきっかけに、映画を2Dで見たくても見られないという中国の映画館事情が明らかになったのである。

ポール・グリーングラス監督とマット・デイモンが再び組む「ボーン」シリーズ最新作は、2Dで撮影され、アメリカやほとんどの国では2D映画として公開された。しかし、一部のアジア市場に向けて特別に3D変換され、中国でも3Dで公開されている。

「ボーン・スプレマシー」「ボーン・アルティメイタム」を見た人なら知っているとおり、手持ちカメラで臨場感たっぷりに撮った映像を、さらに緊迫感とスピードを感じさせるように編集するのが、グリーングラスのスタイル。ただでさえめまいを覚えそうになることがあり、3Dにまったく向いていない。そしてそのとおり、映画の公開直後から、中国では、「ファイトシーンを見ていて気分が悪くなった」「目がくらくらした」という観客の不満が噴出し、北京では「入場料返せ」という抗議運動まで計画されることになったのである。

最初から2Dを選べばよかったのだと言いたくなるかもしれないが、これがそう簡単ではないのだ。

北京では、149スクリーンで「ジェイソン・ボーン」が公開されたが、そのうち2Dは8スクリーンのみ。上海では174スクリーンのうちの、たった9スクリーンが2Dだ。しかも、それら2Dスクリーンは、郊外にあるらしい。3Dは、2Dより、通常33%チケット代が高いため、わざと3Dしかないようにしたのだと、観客は怒っているのである。これを受けて、ユニバーサル・ピクチャーズの中国支社は、2Dスクリーンを増やす努力を即座に始めるというメッセージを発表した。

中国で3Dがここまで主流になった理由のひとつには、違法コピーを防ぐ上で有効だという、スタジオ側の意図もある。だが、一番大きい理由は、中国では比較的最近になって映画館が建設されるようになったことだ。近年、中国では映画館の建設ラッシュが起きており、2007年に3,527だった中国のスクリーン数は、2015年には3万1,882と、ほぼ10倍になった。その間、「アバター」がきっかけで3Dブームが起こったことから、「これからは3Dだ」と、新しく建てられる映画館はほとんどが3D仕様になったものと思われる。

同様に、IMAXスクリーンも急増している。2015年6月の段階で、中国には250のIMAXスクリーンがあったが、今年6月には335に増えた。2013年、中国で最大の映画館チェーンを所有する大連万達グループとIMAXは、2020年までに120の新しいIMAXスクリーンを完成させるとの契約を結んでいる。工事は順調に進み、約束の120のすべてが年内にも完成する見込みであることから、2社は、今月、次の6年以内に、さらに150スクリーンを増やすという、新たな契約を交わした。これらの150スクリーンは2020年から2022年の間にオープンする予定で、工事は来年スタートする。現在、IMAXは、全体の収益の3分の1を中国市場から稼いでおり、この契約は、さらなる成長への大きなステップとなる。

ネガティブな騒ぎが起こったにも関わらず、「ジェイソン・ボーン」は、中国で、初公開週末に、北米の5,900万ドルに迫る5,000万ドルを売り上げた。とは言え、最近、中国の映画市場の成長率は、ややスローダウンしている。一昨年から昨年にかけては前年比49%の急成長を見せたが、今年の1月から6月にかけての前年比成長率は21%で、とくに第二四半期は、前年よりダウンした。対策として、中国政府は、通常なら中国映画しか公開させない6月末から8月頭の間にもハリウッド映画の公開を許すという緊急措置を取り、興行収益の回復を図っている。来年にも中国は北米を抜いて世界最大の映画市場となると見込まれていたが、現状のペースでは、それよりやや遅くなりそうである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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