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日本代表が優勝するも運営面に課題 「eスポーツのサッカーワールドカップ」で見えたこと

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
アジア・オセアニア予選決勝戦。日本がインドネシアを破り優勝した瞬間(※筆者撮影)

FIFA(国際サッカー連盟)が主催する、サッカーゲーム「FIFA21」を使用した、サッカーのワールドカップにあたるeスポーツ大会「FIFAe Nations Cup 2021」のアジア・オセアニア地区予選「FIFAe Nations Online Qualifier」が、4月29~5月1日にかけてオンラインで開催された。

日本からはJay(SCARZ所属)、Agu(Blue United eFC)、Web Nasri(鹿島アントラーズ)の3選手が、e日本代表チームを結成して本大会に出場。グループリーグは2位通過だったものの、準決勝以降のトーナメント戦では接戦を制して見事に優勝し、今年8月にデンマークで開催される本大会の出場権を獲得した。

筆者は全試合をライブ観戦こそできなかったものの、YouTubeのアーカイブ配信でe日本代表のすべての試合を視聴した。各国のトッププレイヤーたちが集まったこともあり、随所でハイレベルの攻防が展開され、自身の趣味でもある(リアルの)サッカー観戦と同様にビールを片手に大いに楽しめた。

ユニフォームを着て試合中をするAgu選手。後ろはコーチ役のWeb Nasri選手(※JFA提供)
ユニフォームを着て試合中をするAgu選手。後ろはコーチ役のWeb Nasri選手(※JFA提供)

そこで、ふと気付いたことがある。

本大会の結果は新聞・テレビのマスコミはおろか、ゲーム専門のwebメディアでもまるで報じられていない。SNS上でもあまり話題になっていない印象で、ゲームあるいはeスポーツファンを自称する人たちでも、ひょっとしたら本大会の存在すら知らない人がかなりいるのではないだろうか。

事実、5月2日21時の時点で筆者が調べた限りでは、テレビ局関連で本大会の結果を報じたのは、TBS「スーパーサッカー」のYouTube公式チャンネルでダイジェスト映像を配信しただけだった。

ニュースサイトでも、同じく2日の段階で本大会の結果を報じた記事はわずかに4件。掲載媒体はSOCCER KINGとゲキサカの両サッカー専門サイトだけで、ゲームメディアでの掲載は何とゼロ。開催時期がゴールデンウイークに重なったとはいえ、リアルのサッカー日本代表と同様に日の丸を背負って戦い、最高の結果を出した選手たちの活躍がまるで報じられない、あるいは知る機会に乏しい状況はあまりにも寂しい。

5月2日21時にyahoo!検索で「e日本代表」と入力したところ。本大会の結果を報じたニュースはわずか4件だった(※筆者撮影)
5月2日21時にyahoo!検索で「e日本代表」と入力したところ。本大会の結果を報じたニュースはわずか4件だった(※筆者撮影)

本大会をライブ中継した、YouTubeのJFATV(※日本サッカー協会の公式チャンネル)を、同じく5月2日に筆者が確認したところ、視聴回数は初日が約16,000回、2日目が約10,000回、3日目が約7,000回だった。

昔からの有名タイトルである「FIFA」シリーズを使用し、なおかつサッカーという極めて身近なスポーツのゲームでありながら、しかも177,000人も登録者がいるチャンネルで配信したのに、いくらなんでも視聴回数が少な過ぎではないか。コメント欄もそれほど賑わっていない感があり、これでは一生懸命プレイした選手たちがかわいそうに思えてしまう。

プロモーション活動ゼロ eスポーツの普及、育成はいったいどこへ……

JFA(日本サッカー協会)は、3月9日にe日本代表選手を紹介する記者発表を実施したが、これ以降は本大会および選手たちを知ってもらうためのプロモーション活動を、あるいは日本のeスポーツファンや市場拡大を図るようなアクションを起こしたのだろうか?

この件について、筆者がJFAに確認したところ「今回の予選大会についてJFAとしては広告出稿等、予算を掛けたプロモーション活動を実施しておりません」との回答をいただいた。

JFAでは、eスポーツ事業の創設を理事会で決定した2016年以来、将来的にはリアルのサッカーと同様に、普及をはじめ指導者やユースの選手・組織の育成も進めるなどとビジョンを掲げてきた。だが本大会に限って言えば、傍目にはただ選手たちの活躍ありきで、協会として本気で取り組んでいるようにはとても思えなかった。コロナ禍ゆえ観客を呼べない、オンライン開催になることが十分に想定されるなか、多くの人に注目してもらえるよう相応の予算を組んだプロモーションを実施すべきではなかったか。

例えば、先日行われたワールドカップ予選のモンゴル戦や親善試合の韓国戦、U-24日本代表と同アルゼンチン代表戦のテレビ中継の合間に、せめて字幕だけでも本大会の告知はできなかったのか? あるいはスタジアムの電光掲示板で、キックオフ前やハーフタイムなどの時間を利用して本大会を大々的に紹介したり、JFATVで配信することをアナウンスできなかったのだろうか?

唯一「JFA eスポーツ・サッカー」のTwitter公式アカウントでは、開催前から積極的に情報を発信していたのだが、本大会を盛り上げるには、これだけではとても十分だろう。また、Jay選手が所属するSCARZ、Agu選手が所属するBlue United eFCは、Twitterで選手個人のアカウントと併せて積極的に情報を投稿していた一方、Web Nasri選手が所属する鹿島アントラーズからのアナウンスは皆無だったのも本当に残念だった。Jリーグ随一の名門クラブが、もし本大会に所属選手が出場することを積極的に発信していれば、少なからず宣伝効果が出たように思えてならない。

「FIFA21」の発売元である、EAからのフォローも不十分に思える。実は同社、日本オフィスをすでに閉鎖しており、我々メディアの人間も(日本からだと)以前に比べて連絡が容易に取れなくなった感がある。

そのせいかどうかは定かではないが、少なくとも本大会の番組構成は、日本の視聴者にとって満足できるものではなかったように思う。参加国や選手の数、相手チームの選手に関する情報やグループリーグの星取表など、リアルのサッカー中継ではごく当たり前に伝えてくれる情報が、画面内にまったくと言っていいほど用意されていないのは、いったいどういうわけなのか?

また、ライブで観戦していた人のなかには、途中で飽きてしまった人も少なからずいたように思われる。その最大の理由はインターバルの長さだ。本大会は、国をまたいだオンライン対戦となったため、1試合ごとのセッティングに少なからず時間を要するのはしかたがないことだ。とはいえ、インターバル中は静止画像を貼ったまま放置し、次の試合のキックオフ予定時間すら表示しないのではさすがに退屈してしまうし、そうなることはEAも十分に想定できたハズだ。

例えば、インターバル中に各国代表チームのプロモーション映像を流したり、全世界の予選の進行状況や世界大会までの道のり、過去の大会のハイライトを見せるなど、視聴者の興味を引くための工夫の余地は大いにあったと思われる。たとえEAが配慮をしてくれない状況でも、インターバル中に独自の工夫を用意しない、JFA側の対応にも疑問が残った。

そんな状況でありながら、選手に負けず劣らず活躍していたのが、本大会の実況を担当した羽染貴秀氏だ。元選手でもある羽染氏は、ゲームシステムの解説に限らず、機転を利かせて間をつないだり、大会ルールや相手選手のプレイスタイルなど知り得た限りの情報を伝えてくれたおかげで、筆者も非常に参考になった。もし羽染氏がいなければ、本大会はスポーツ観戦という名のエンターテインメントとしてまるで成立していなかったかもしれない。

厳しい言い方になってしまうが、世界大会への出場を目指して真剣にプレイした選手たち、および羽染氏とは対照的に、主催者サイドの本気が伝わってこないのは返す返すも残念だった。JFAは、EAとはプロモーション面での問題は特にないとの認識であり、「原則FIFAがEA様と調整したうえで、各加盟協会はそのルールの中で大会運営を行っております」(JFA担当)との見解だったが、次回以降は運営全般を見直すべきだろう。

e日本代表のJay選手(※JFA提供)
e日本代表のJay選手(※JFA提供)

eスポーツを広めたいなら、主催者側も「本気」を見せてほしい

コロナ禍の真っただ中でありながら、日本のeスポーツ市場は今後も右肩上がりで伸びるとの調査結果が報道される昨今。しかし「FIFA21」のような有名タイトルで、しかもサッカーという多くの人がルールを知っているスポーツのゲームでありながら、お世辞にも世間の注目を浴びているとは言い難い状況で、果たして市場は拡大し続けるのだろうか? 普及や育成は進むのだろうか?

本大会に出場した選手たちの真剣さは、画面を通じてよく伝わってきた。だがこのままでは、たとえ競技レベルがどんなに高くても、日本に限ればeスポーツは「知る人ぞ知る存在」のまま、もしかしたら発展するどころか逆に衰退してしまうのではないか? 今大会を観戦していて、そんな不安を抱いた。

大会の運営自体は要改善だが、e日本代表選手たちのパフォーマンスは掛け値なしに素晴らしかった。本大会をまだ見ていない人は、ぜひ時間をあるときにご覧になることをおすすめしたい。大会前に「世界を狙える」と語った選手たちの本気度が、画面を通じてきっと伝わってくるだろう。

「『FIFA21』を1回も遊んだことがないんだけど……」というビギナーでも心配ご無用。サッカーの基本的なルールさえわかっていれば、ゴール前でフェイントを繰り出し、シュートチャンスをうかがうFWと、そうはさせまいとするDFとの攻防を見ているだけでも、何の問題もなく楽しめるハズだ。

末筆になってしまったが、選手たちの活躍に心から拍手を贈るとともに、8月に開催される世界一決定戦「FIFAe Nations Cup 2021」でのさらなる健闘を、そして願わくば世界の頂点に立ち、日本のeスポーツ環境がいっそう良化するきっかけにつながることも期待してやまない。

(参考リンク)

アジア・オセアニア地区予選「FIFAe Nations Online Qualifier」1日目(※JFATV)

JFAのホームページ(※本大会の開催概要)

(C)JFA

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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