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個人のツイート、インスタ、投稿者の顔までファーウェイ経由――中国「デジタル・シルクロード」の本質

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
上海で開かれたセキュリティ関連の展示会で紹介されるファーウェイ製の監視カメラ(写真:ロイター/アフロ)

 セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、北マケドニア、アルバニア、コソボ。バルカン半島の西側に位置する非・欧州連合(EU)6カ国の「西バルカン地域」では、通信インフラの中核は中国企業の技術という。この地域で中国が目指しているのがデジタル版「一帯一路」(巨大経済圏構想)の浸透だ。

紫の枠で国名を囲ったのが「西バルカン地域」6カ国=Googleマップより筆者作成
紫の枠で国名を囲ったのが「西バルカン地域」6カ国=Googleマップより筆者作成

◇西バルカン地域の通信インフラに中国企業

 セルビアの「ベオグラード安全保障フォーラム」のメンバーであるステファン・ブラディサヴリェフ(STEFAN VLADISAVLJEV)氏が「中国の『デジタル・シルクロード』が西バルカンに進出」という記事を書き、今年6月、外交政策や国家安保問題に関するサイト「ウォー・オン・ザ・ロックス(War on the Rocks)」を通して公開した。

 随所に記されているのが、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)という名前だ。

 記事は次のような書き出しで始まる。

「セルビアの首都ベオグラードの街を歩けば、あなたの顔はほぼ間違いなく、街にある1000台のファーウェイ製監視カメラに記録されるだろう。あなたのインスタグラムへの投稿、ツイート、電話での会話、ビデオ通話は、セルビアの固定電話やブロードバンドに設置されたファーウェイ機器によって可能になっているのだ」

 セルビア国営通信テレコム・スルビヤは2016年10月、光ファイバーネットワークと高速インターネットの開発に向け、ファーウェイと1億5000万ユーロ(193億円程度)の契約を結んだと発表した。スマートシティなどのプロジェクトのほか、データセンターやファーウェイ関連の新規ビジネス開発拠点の建設なども含まれ、中国・セルビアの協力事業は巨額になる可能性があるという。

 デジタル・シルクロードは一帯一路の重要な構成要素で、中国の主導下で沿線国を中心にデジタル化を推進するものだ。中国のデジタル製品やサービスの輸出を促すと同時に、第5世代移動通信システム「5G」などの技術における国際標準化の主導権を得るという思惑がある。

 記事はデジタル・シルクロードについて「中国政府の取り組みと中国のハイテク企業の関与の組み合わせ」「通信ネットワークからスマートシティ、電子商取引、中国の衛星測位システムに至るまで、幅広い分野をカバーしている」とみる。

 セルビアだけでなく、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、北マケドニア、アルバニア、コソボを含む西バルカン地域全体の通信インフラにも、中国企業が提供する同様の技術が存在している――という。

◇欧米諸国が代替技術を提供できるか

 記事は、西バルカン地域が「デジタル・シルクロード」の重要な中継地点となっていると指摘する。この地域の背後に見据えるのは欧州連合(EU)と米国だ。

 EUにとって、西バルカン地域は身近な存在であり、将来的にEU加盟を目指している国のグループでもある。それゆえ、西バルカン地域がEUに加盟した場合、同地域での中国のデジタル分野での影響力が、EUにも及ぶ可能性が出てくる――記事はこう懸念している。

 さらにモンテネグロ、アルバニア、北マケドニアは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国でもあり、安全保障分野で米国と緊密な関係を築いている。

 仮に、この地域のデジタルインフラ分野で中国が優位に立つことになれば、米国の安全保障上の懸念にもなり得る。

 記事は「中国は、西バルカン地域でデジタル・シルクロードの推進に成功している」とみる。「セルビアは中国の主要なパートナーであり、コソボを除いた西バルカン地域も、一定の範囲内でデジタル技術に関して中国の協力を受けている」という状況にある。

 こうした危機感から、米国とEUは最近、西バルカン地域のデジタルインフラにおける中国の存在感を制限するよう圧力をかけているそうだ。北マケドニア、コソボ、アルバニアは、中国の技術を制限したり、禁止したりすることを決めたという。

 西バルカン地域の技術開発において、中国の影響力が今度も拡大するのか、それとも欧米諸国が代替技術を提供できるか。記事は欧米諸国に向かって「現実的な選択肢」を示すことに注力すべきだと訴えている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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