Yahoo!ニュース

南北軍事合意無効化で軍事衝突は陸でも海でも空でも避けられない!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
韓国が引いた北方限界線(NLL)と北朝鮮が引いた海上境界線(筆者作成)

 韓国政府は今日(6月4日)、国務会議を開き、2018年9月の南北首脳会談で交わされた南北軍事合意の効力を全面中止した。北朝鮮の「汚物風船」散布とGPS(全地球測位システム)妨害電波への対抗、報復措置である。

 軍事合意が無効化されたことで軍事境界線(MDL)から5km以内での砲兵射撃訓練及び連隊級以上の野外機動訓練が可能となった。韓国軍は即刻訓練を再開するようだ。

 海上では軍事合意により南北は海の軍事境界線と称されている北方限界線(NLL)の黄海(西海)135km、日本海(東海)80kmを緩衝地帯に設定していたが、合意の無効化により緩衝地帯での海岸砲及び艦砲射撃、艦船を動員した海上機動訓練も解禁となる。

 空では黄海側は20km、日本海側は40kmを戦闘機などによる飛行禁止区域に設定し、また無人機も黄海側ではMDLから10km、日本海側では15km以内での飛行が禁止されていたが、この禁止条項は昨年11月の時点で韓国は効力停止を宣言しており、すでに偵察機の活動や戦闘機による空中訓練が実施されている。

 南北は今も昔も相手の軍事演習を挑発と見なしている。

 韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は「敵が挑発したら、1秒も待たずに応射せよ、100倍、1000倍でやり返せ。挑発には即時に、強力に、最後をみるまで懲らしめろ」と軍に訓令を出している。

 一方、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記も「NLLをはじめとするいかなる境界線も許されず、大韓民国が我々の領土、領空、領海を0.001ミリでも侵犯するなら、それはすなわち戦争挑発と見なす」と述べ、「敵が我々との軍事的対決を選択するならば我々は我が手中の全ての手段を躊躇することなく動員して敵を必ず掃滅する」と、拳を振り上げている。

 NLLでは金大中(キム・デジュン)政権下の1999年と2002年、李明博(イ・ミョンパク)政権下の2009年に南北艦船による衝突が3度起きている。

 最初の衝突では北朝鮮側は魚雷艇1隻が沈没し、警備艇2隻が大破し、30人~70人の死傷者を出し、韓国側も哨戒艇1隻が破損し、高速艇1隻が被弾を受け、負傷者を7人出していた。

 また、2度目の衝突でも北朝鮮側は警備艇1隻が炎上し、30人の死傷者を出している。韓国側も高速艇1隻が沈没し、死者6人、負傷者18人の被害が出た。

 さらに2010年3月には北朝鮮潜水艦の魚雷で韓国哨戒艦「天安艦」が撃沈され、46人の死者・行方不明者を出した。

 陸でも2010年11月には韓国のビラ散布に反発した北朝鮮による「延坪島砲撃事件」が、2014年10月にも韓国の民間団体が飛ばしたビラ風船に向け14.5mm高射銃を数発発射し、これに韓国軍もK-6機関銃で応酬する事件が、そして2015年8月には北朝鮮が非武装地帯に仕掛けた地雷で韓国人将兵2人が重傷を負った事件が相次いで起きている。

 「延坪島砲撃事件」では北朝鮮が対岸の島から延坪島に向け砲弾約170発を発射し、そのうち80発が同島に着弾し、韓国の海兵隊員と民間人それぞれ2人が死亡し、海兵隊員16人が重軽傷を負った。

 また、「地雷事件」では激怒した朴槿恵(パク・クネ)大統領が北朝鮮への懲罰として拡声器放送を11年ぶりに再開させたところ、これに反発した北朝鮮が「放送を中止しなければ、無差別に打撃を加える」と警告を出し、実際に2度にわたって計7発の砲弾を韓国に向け打ち込んでいた。

 空では南北間で衝突にいたったことは一度もなかったが、あわやという場面は何度もあった。

 直近では2022年10月13日に北朝鮮の軍用機10機が飛行禁止地域北方5km(軍事境界線北方25km)まで接近したことから韓国軍が「F-35A」戦闘機を40機緊急発進戦させていた。

 また、この年の12月26日には北朝鮮が5年ぶりに韓国に無人機5機を飛ばし、1機は仁川、ソウルなどの上空を5時間以上飛行し、残りの4機はNLLに近い江華島に侵入するなどして韓国軍の監視を攪乱した。韓国軍は無人機を打ち落とそうと、戦闘機や攻撃ヘリコプターを投入し、機関砲を100発以上発砲した。

 米韓の偵察機は北朝鮮のミサイルの発射や核実験の兆候を探知するため頻繁に北朝鮮への偵察活動を続けているが、北朝鮮人民軍参謀部は昨年7月から迎撃の可能性を示唆する談話を出している。金総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長もこの件では米偵察機は「我が国の主権が行使される領空を侵犯している」として昨年7月に2度、「私は、委任によって我が軍の対応行動をすでに予告した。繰り返される無断侵犯の際には米軍が非常に危険な飛行を経験することになる」との迎撃を示唆するような談話を出していた。

 北朝鮮は先月(29日)も「朝鮮中央通信」の論評を通じて「今年の1月から4月までの期間だけで140余回も米韓偵察機による偵察活動が行われた」として「予測できない災難だけを自ら招くだろう」と米韓に警告を発していた。

 過去には米国の偵察機「RB-47」(1965年)と米電子偵察機「EC―121」(1969年)、米軍OH-58C偵察用ヘリコプター(1994年)が北朝鮮に撃墜される事件が起きている。

 今月25日は朝鮮戦争勃発の日である。南北は74年前の同族戦争という悲劇をまた繰り返すのだろうか?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事