募集停止ドミノが続く大学・短大~地方より都市部が危ない理由
◆恵泉女学園に続き、神戸海星女子学院も募集停止
大学・短大の募集停止が相次いでいます。
3月に恵泉女学園大学が募集停止となりました。
これを受けて、女子大分析記事や募集停止・廃校16校分析記事(全4回)を出したところ、大学業界関係者を中心に読まれた模様。
募集停止・廃校となる大学は何が敗因か~16校の立地・データから分析した・前編(2023年3月30日公開)
募集停止・廃校となる大学は何が敗因か~16校の立地・データから分析した・中編(2023年4月4日公開)
募集停止・廃校となる大学は何が敗因か~16校の立地・データから分析した・後編(2023年4月10日公開)
募集停止・廃校となる大学は何が敗因か~16校の立地・データから分析した・最終章(2023年4月18日公開)
さらに、他メディアからの取材も相次ぎました。
それがひと段落したと思いきや、4月17日に神戸海星女子学院大学が募集停止を発表。
さらに、19日には上智大学短期大学部も募集停止を発表しました。短大は3月にも岐阜聖徳学園大学短期大学部が募集停止を発表しています。
大学2校、短大2校が募集停止となり、今後も募集停止ドミノが続く見込みです。
本稿では、神戸海星女子学院大学を中心に募集停止となる大学・短大の傾向について解説します。
◆地方よりも都市部が危ない
神戸海星女子学院大学の募集停止で2000年以降、募集停止・廃校となった大学は17校となりました。
正確には、立志舘、東和、愛知新城大谷、三重中京、神戸ファッション造形、聖トマス、LEC東京リーガルマインド、福岡医療福祉、東京女学館、創造学園、福岡国際、神戸夙川学院、広島国際学院、保健医療経営の14校が廃校。
上野学園、恵泉女学園、神戸海星女子学院の3校は募集停止を発表も、大学自体はまだ存続しています。
3月~4月中旬にかけて出した募集停止・廃校分析シリーズ記事4本では神戸海星女子学院大学を含まないため、16校としています。
他メディアで神戸海星女子学院大学の募集停止発表後に「2000年以降に閉校した大学は16校」とした記事もありましたが、おそらくは募集停止と閉校(廃校)を混同されたものと思われます。
さて、募集停止・廃校となった17校から見えてきた特徴が、都市部、小規模校、系列校スルー現象の3点です。
まずは、都市部立地について。
募集停止・廃校分析シリーズでは16校について、立地・経営状態について、都市型、地方型、不祥事型にそれぞれ分類しました。
地方立地を起因としての地方型は3校(立志舘、愛知新城大谷、三重中京)。
不祥事を起因としての不祥事型は3校(創造学園、LEC東京リーガルマインド、神戸夙川学院)。
残る10校は都市部立地を起因とする都市型でした。
4月に募集停止を発表した神戸海星女子学院大学は神戸の中心部・三ノ宮駅の2駅隣にあり、都市型と言えます。
不祥事型3校を立地だけで見ていくと、創造学園大学は高崎市郊外にありました。群馬県の最大都市とは言え、地方型に分類できます。
一方、LEC東京リーガルマインド、神戸夙川学院の2校は都市部に立地していました。
神戸海星女子学院大学にLEC東京リーガルマインド大学、神戸夙川学院大学の2校、合計3校を合わせますと17校中13校が都市部に立地していたことになります。
記事によっては、「閉校する大学は地方が中心」「首都圏など大都市圏の立地で閉校するのは異例」などとしていますが、これは客観的には間違いです。
都市部に立地していた13校の地理条件は以下の通り。
東京女学館大学:町田駅から40分圏内
恵泉女学園大学:町田駅・新宿駅から40分圏内
上野学園大学:JR上野駅から10分圏内
LEC東京リーガルマインド大学:JR水道橋駅から徒歩3分
聖トマス大学:JR尼崎駅から15分圏内
神戸ファッション造形大学:JR西明石駅から徒歩15分
神戸夙川学院大学:三ノ宮駅から20分圏内
神戸海星女子学院大学:三ノ宮駅から20分圏内
広島国際学院大学:JR広島駅から30分圏内
〈立志舘大学:JR広島駅から30分圏内〉
東和大学:JR博多駅から30分圏内
福岡国際大学:西鉄福岡駅(天神)から30分圏内
福岡医療福祉大学:JR博多駅から40分圏内
〈保健医療経営大学:JR博多駅から90分圏内〉
13校のうち、分析シリーズでは都市型専門学校競合グループとした保健医療経営大学はJR博多駅から鹿児島本線を利用すると90分も離れていました。これを都市部立地とするのは無理がある、との異論があることは認めます。
地理条件だけで地方か、都市部かを判断するのであれば、分析シリーズ記事では地方型とした立志舘大学はJR広島駅から30分圏内にありました。私は開校時の女子進学率などを考えれば、地方型とするのが妥当、と考えた次第です。
地理条件だけで見るのであれば、保健医療経営大学が外れ、代わりに立志舘大学が入り、都市部立地の廃校・募集停止は13校で変わりありません。
なぜ、地方よりも都市部の方が募集停止・廃校となりやすいのか、その理由は選択肢の多さにあります。
地方だと、大学が少ない分、選択肢は多くありません。
中規模以上、あるいは、県庁所在地や特急・新幹線停車駅近辺の立地であれば学生はそれなりに集まります。
さらに、大学進学率が上がると、地方では大学数が少ない分、その恩恵を受けやすい点も見逃せないでしょう。
もちろん、普通列車乗り継ぎで1.5~2時間かかる(愛知新城大谷、三重中京)などの立地であれば、いくら選択肢の少ない地方でも、学生は集まりません。
一方、都市部だと、大学が複数、存在します。しかも、首都圏・関西圏だと、難関校から中堅校・下位校まで、それぞれ大規模校が存在します。
募集停止・廃校となった17校のうち、広島県2校、福岡県3校が該当するのは、両県とも大学や短大・専門学校が多数ある都市を抱えており、競合しやすいから、と言えます。
◆たかだか「10分」が命取りに
大学進学率が上がっても、恩恵を受けるのは大規模校が中心となります。
その点、小規模校は、よほど尖った特徴がある(女子美術大学、女子栄養大学など)、難関校としての評価が高い(国際基督教大学など)、あるいは、医学部・医療系学部など、この3点のいずれかに該当しないと、ちょっとした差が他大学に流出しかねないことになります。
神戸海星女子学院大学は、三ノ宮駅から3キロ圏内、車だと10分ちょっと、という好立地です。
電車利用だと、阪急で2駅隣の王子公園駅下車。そこから徒歩で15分以内。
こう書くと、悪い立地ではなさそうです。
が、私も実際に行ったことがありますが、王子公園駅からは王子動物園の脇にある坂道を歩くことになります。
夏に行ったときはバケツ一杯分の汗をかくことになりました。
さりとて、バスがあるわけでもなく、途中は王子動物園の裏側と住宅地や美術館・小学校などでコンビニ等はありません。
三ノ宮駅から3キロ圏内とは言え、神戸海星女子学院大学はなかなか厳しい立地にあった、と言えます。
恵泉女学園大学は多摩センター駅からバスで10分程度の住宅地の中にあります。こちらはバスがあるだけ、神戸海星女子学院大学よりは、まだましでした。逆に言えば、バスでなければ、坂道を30分以上、歩くことになります。
この10分ちょっとの移動を、恵泉女学園大学、神戸海星女子学院大学とも、かつて取材したとき、甘く見ている節を感じました。
この「たかが10分」が地方立地であれば、学生も受け入れていたことでしょう。大学の選択肢が少ないうえ、車やバイク移動が当たり前だからです。
ところが、都市部では「たかが10分」が「されど10分」になってしまいます。
競合する大学が多く、受験生からすれば選択肢が多くあります。
強いセールスポイントのない小規模校だと、立地や移動手段・待ち時間など、些細に見えるポイントも受験生からすれば「志望校から外そう」とネガティブに見られてしまうのです。
なお、本稿執筆中の5月2日、王子公園の再整備計画で関西学院大学が応募、早ければ2026年度末に引き渡される見通しであることを神戸新聞が報じました。王子公園駅を降りてすぐの位置にあります。この物件を神戸海星女子学院大学が購入するか、関西学院大学が購入するにしても10年前に話が動いていれば、また違った展開があったかもしれません。
◆小規模校はつらいよ
募集停止・廃校となった大学、2点目の共通点が小規模校です。
神戸海星女子学院大学含め、17校中15校が募集停止時点で単科大学(1学部のみ)、最大でも2学部(恵泉女学園大学、創造学園大学)でした。
都市部の受験生からすれば、多様な選択肢のある大規模校を選択する傾向があります。様々なジャンルの科目履修が可能ですし、学部になくても他学部科目受講が小規模校以上に選択肢があります。サークル活動なども同じ。
現在の受験生動向を見る限り、小規模校はどうしても不利になりやすい、と言わざるを得ません。
それと、小規模校の学部は、この多様な選択肢を意識してか、あれもこれもできる、と詰め込む傾向があります。
恵泉女学園大学だと、人間社会学部に国際社会学科と社会園芸学科。
神戸海星女子学院大学だと、現代人間学部に英語観光学科と心理こども学科。
方向性が全く異なる学科をひとまとめにしています。
これは学部に昇格させるほどの体力(財務など)が備わっていなかったからでしょう。
しかし、それは大学の都合であって、受験生からすれば分かりづらく志望できない、となってしまいます。
◆「少人数だからよかった」というエゴ
恵泉・神戸海星の募集停止後には、「小規模で少人数だからよかった」との擁護論がSNSなどでありました。
大人数の授業にはついていけない女子には勧めやすかった、などとの意見も。
一見すると、いい話、かつ、両校の擁護論に見えます。
ですが、私は単なるエゴにしか思えません。
似たところだと、コロナ禍でガラガラのホテルに安く泊まれて喜ぶ観光客とか、普段は乗らないローカル線存続を願う鉄道ファンとか。
大人数授業が中心となる大規模校になじめない高校生が存在するのは事実です。そうした、繊細でナイーブな子は少人数授業が中心の大学の方がいいでしょう。
しかし、少人数授業を希望するのであれば、そうした大学をきちんと探すこと、そして、相応の高い学費負担を是とすることが必要です。
少人数授業がいい、でも高い学費負担は嫌だ?
それ、固有名詞を変えれば、「コロナ禍のときは、いいホテルも安く泊まれた。今は高すぎる」と自身のエゴをぶつける観光客と同じではないでしょうか?
私立大学である以上、学費を集めて運営することが求められます。学費が集まらなければ大学運営は厳しくなります。
この当たり前の理屈を無視して、少人数教育が良かった、とする話は、私はいい話・擁護論とは思えません。むしろ、恵泉・神戸海星の両校を侮辱した話にすら思えます。
◆系列校スルー現象で相手にされず
3点目の系列校スルー現象、これは17校中、東京女学館、神戸夙川学院、上野学園、恵泉女学園、神戸海星女子学院の5校、特に女子大3校ではっきりと出た現象です。
もっと言えば、今後、募集停止となる可能性が高い女子大にも該当する現象です。
系列校スルー現象とは、同じ学校法人の系列高校からスルーされてしまい、内部進学者が期待できない現象です。
高校の設置形態が大学付属か否かはどうあれ、同じ学校法人内に高校と大学がそれぞれあり、かつ、高校から大学への内部進学者が一定数いると、大学経営は安定します。
入学定員のうち、一定数が内部進学者となり、残りを一般受験生で募集すればいいからです。
ところが、この内部進学モデルは、大学・高校(中高一貫校の場合は中学)の難易度や立地、大学の規模などで大きく異なります。
まず、難易度ですが、大学・高校とも同程度の場合だと、スルー現象は強く出ません。
早稲田実業や慶応義塾志木など早慶の系列高校からは早慶への内部進学者が一定数います。ところが、大学の難易度が低く、高校の難易度が上がると、内部進学者が少数となっていき、最後はゼロとなります。
高校の設置形態が大学付属でなかったとしても、内部進学者がゼロだとその大学は学生集めに苦戦します。
内部進学者が一定数、期待できる他大学と異なり、外部の一般受験生をかき集めなければならないからです。
この系列校スルー現象をあるネットメディアのインタビューで答えたところ、「付属校生」というキーワードを見出しに使われました。インタビュー記事なので、見出し等、私は無関係です。しかし、読者からすれば、知ったことではなく、「大学と中高は別ものではないか」などと疑念を持たれることになりました。
まさに「別もの」だからこそ、小規模校は苦戦。そして、恵泉・神戸海星は募集停止に追い込まれてしまったのです。
◆共学化・男子受け入れもしんどかった
恵泉・神戸海星の募集停止は大きな話題となりました。
関連記事は私がインタビューを受けていないものも複数あります。
その中で、気になったのが「大学の経営努力が足りなかった」論です。
私も、そこは半分同意なのですが、この論で「もっと早く共学化すべきだった」「女子大名称のまま、男子学生を受け入れていればよかった」などの提言(?)があったことです。
残念ながらどちらも大学業界に詳しくない思い付きないし感情論でしかありません。
まず、女子大のまま男子学生を受け入れる案について。
これ、実はすでに先行事例があって、しかも失敗していることが判明しています。
日本初となった事例は2006年、中京女子大学(現・至学館大学)です。同年、中京女子大学は2007年から、大学名を変更しないまま、人文学部での男子学生の受け入れを発表しました。
同大は女子レスリングでメダリストを何人も輩出するほど有名で「中京女子」は一つのブランド、と大学側は考えていました。
ところが、同じ愛知県にはすでに中京大学があるため、「女子」を外すだけでは済みません。
「中京地区の女子大ではなく『中京女子大』という固有名詞の大学」という考えから、当初から「中」「女」は外さない方針に。「『中京女子』大学」「中京女子・大学」「中京女子☆大学」「中女大学」などを候補に論議を重ねたが、当面は現在のままにして、男女共学の理想的なモデルができた後、あらためて大学名を検討することで落ち着いた。
※読売新聞2006年6月4日朝刊
女子大学の名称を残したまま、男子学生を4年制大学・学部で受け入れるのはこれが初めての事例です。
ところが、そこまでして、2007年、男子の新入学生はわずか6人(受験は15人/読売新聞2007年4月4日朝刊)。
その後も低迷し、2010年には大学名を至学館大学と変更し、合わせて共学化。さらに、男子学生を先行して受け入れた人文学部は2013年に廃止、健康科学部の単科大学となり、現在に至っています。
至学館大学ほど話題にはなりませんでしたが、長野県の清泉女学院大学も「女子名称のまま男子学生受け入れ」を決めた1校です。
2019年に看護学部を新設、こちらは男女共学としました。なお、既設の人間学部は女子のみで校名変更はありません。
結果、2019年の男子学生は50人中1人のみ(朝日新聞2019年4月4日東京地方版・長野)。
その後も、『蛍雪時代特別編集 大学の真の実力情報公開BOOK』(旺文社)各年度版によると、2020年・2人、2021年・3人、2022年・5人と、惨敗しています。
大学としては、女子大のブランドを活かしたいのと、校名変更に伴うトラブルを避けたいための奇策だったのでしょう。
しかし、「女子」「女学院」を冠したままの大学に行きたい男子高校生がどれだけいるのか、ちょっと考えれば、無理ある方策です。
なお、至学館大学は、この男子学生受け入れを黒歴史としているのか、大学の沿革には記載がありませんでした。
それでは、共学化はどうでしょうか。
実はこちらも、そう簡単ではありません。
まず、共学化したことが認知されるまで時間がかかります。
今年、2023年に鹿児島純心女子大学が鹿児島純心大学に、神戸親和女子大学が神戸親和大学となり、それぞれ共学化しました。
神戸親和大学は新入学生467人中、男子学生は159人(神戸新聞2023年4月4日朝刊)。前年が243人だったので、共学化は一定の効果がありました。
神戸親和大学公式チャンネル・オープンキャンパスの動画。共学化1年目で男子学生は159人入学
一方、鹿児島純心大学は新入学生134人中、男子学生は15人(南日本新聞2023年4月6日朝刊)。清泉女学院並みの惨敗です。
共学化しても、受験生や高校教員からすぐ認知されるわけではありません。共学校として認められるまで時間がかかりますし、恵泉・神戸海星はそこまでの余裕がありませんでした。
それと、共学化しただけで学生が増えるわけではありません。
2000年以降の共学化は30校。
※女子大記事では看護学部のみ共学の清泉女学院大学と2023年共学化の2校を含めて、28校をリストで掲載。これに立志舘大学、神戸山手大学を合わせて30校
30校中、3校が募集停止・学部譲渡(立志舘・神戸山手・上野学園)。
筑波学院・松蔭の2校は2022年段階で入学定員充足率50%を割っている状態です。
学生集めが順調と言えるのは12校。
武蔵野・文京学院・京都橘など10校はいずれも学部を複数、増やしています。
残る2校は看護のトップクラス校である聖路加看護大学、人文学部を廃止・スポーツに特化した至学館大学です。
まとめますと、女子大学は共学化するとしても同時に学部新設を含む規模拡大を図るか、全国区で評価される(=受験生が集まる)得意分野があるか、そのどちらかが必要です。
残念ながら、恵泉・神戸海星とも、規模拡大を図れるほどの余裕がなく、学生を全国区で集められるほどの得意分野もありませんでした。
◆大学とは異なる短大の募集停止事情
一方、上智大学短期大学部(4月)、岐阜聖徳学園大学短期大学部(3月)がそれぞれ募集停止を発表しました。
上智大学短期大学部は神奈川県秦野市にあり、1973年開学。英語科のみの女子短大です。名称通り、上智大学系列であり、30人前後が上智大学に編入学しています。
入学定員は250人のところ、2023年は115人(充足率46%)、2022年は174人(同69.6%)でした。
岐阜聖徳学園大学短期大学部は1966年開学。保育士などを養成する2年制の幼児教育学科第一部(入学定員100人)と、午前のみの授業で3年制の同第三部(同50人)があります(男女共学)。
第一部の入学者は2023年・58人(充足率58%)、2022年63人(同63%)でした。
大学だけでなく短大も募集停止が相次いだことで注目されています。
ただし、大学と短大の募集停止事情は異なります。
短大が募集停止に至った背景には、大学進学率の上昇と大学の拡大策、高等教育無償化法の影響、大学定員抑制緩和の影響、3点があります。
◆大学以上に短大がやばかった
まず1点目の大学進学率上昇と大学の拡大策について。
3月1日公開の「出生者80万人割れでも大学が潰れないカラクリ~2040年には大学進学率80%超えも」で解説しましたが、少子化傾向にあっても大学進学率は上昇しています。
以下、表を再掲します。
18歳人口・大学進学者数・進学率の推移
短大・専門学校・高卒就職の推移
1990年と2022年を比較すると、18歳人口は88.4万人も減少しています。
ところが、大学進学率は24.6%から56.6%に上昇。大学進学者も14.2万人増加しています。
この大学進学率の上昇で割を食ったのが短大進学と高卒就職です。
短大進学率は8ポイント下落、進学者数は19.3万人も減少しました。
短大数も1990年から284校、減少しています。
大学・短大・専修学校・各種学校の推移
よく私立大学の定員割れが約半数、と話題になりますが、実はそれ以上に危ないのが短大です。
日本私立学校振興・共済事業団サイトによりますと、2022年、私立大学の47.5%が定員割れ(入学定員充足率が100%未満)でした。
大学の入学定員充足率の推移
私は数字のトリックで、60%未満が危険水域と見ています。これまでに廃校・募集停止となった私立大学17校(恵泉・神戸海星を含む)のうち、11校が60%割れでした(非公表の福岡医療福祉大学を含む)。2012年募集停止を発表した東京女学館大学も61.1%だったことから、60%は一つの目安、と考えます。
短大の入学定員充足率の推移
さて、短大は、同サイトによりますと、定員割れが85.7%。定員以上の入学となった短大は全国にわずか40校しかありません。そして、大学と同じく危険水域(60%未満)の短大は20.1%・56校もあります。
このデータから、大学以上に短大の方が募集停止となりやすいことが明らかです。
◆4年制大学に昇格できる
それと、短大を運営する学校法人の多くは4年制大学も運営しています。
この場合、赤字が今後も見込まれる短大を下手に維持するよりも、4年制大学の学部に昇格するか、定員を振り分けた方が学生確保を期待できます。
実際に、岐阜聖徳学園大学短期大学部を運営する学校法人聖徳学園は、短大閉鎖についてこうコメントしています。
学園は短大部閉校の一方で、幼児教育の多様化に伴い高度な専門性を持つ人材育成が求められているとして、25年度から大学の教育学部の充実を図るとしている。
※毎日新聞2023年4月21日朝刊岐阜地方版
岐阜聖徳学園大学は中部では教育学部が看板の私立大学として有名です。短大は今後も定員割れが続くことが予想される一方、4年制大学の教育学部は安定した人気を誇ります(2022年は河合塾偏差値42.5~47.5/一般入試倍率2.7倍)。
どう考えても、短大の定員を「教育学部の充実」に振り分けた方が得策です。
同じことは上智大学短期大学部にも当てはまります。
学校法人が4年制大学を運営していなくても、昇格する形で4年制大学を新設することは可能です。
北海道武蔵女子短期大学は2024年、経済科を閉鎖。北海道武蔵女子大学経営学部として開設する予定です(教養科、英文科は短大のまま維持)。
今後、こうした短大が増えていくことが考えられます。
◆修学支援制度改正で80%未満が危険水域に
短大が募集停止となる背景、2点目は修学支援制度の改正です。
修学支援制度は2020年度に始まりました。現行制度では住民税非課税世帯か、それに準じる世帯が対象で、授業料免除と給付型奨学金を合わせて最大で約160万円が支給されます。年収の段階に応じて支給額は減額され、現行制度では対象となる世帯年収の上限は380万円です。
この上限を2024年度からさらに拡大しようとするのが、修学支援制度改正です。
具体的には、世帯年収が380万~600万円まで条件付き(子ども3人以上の多子世帯、または理工農系学部進学)で拡充します。年間支給額は30万~40万円(条件により変動)となる見込みです。
この改正で新たに約20万人の学生が対象となり、高等教育機関在籍者の約20%が修学支援制度の対象となることが予想されます。
修学支援制度の改正は進学を検討する高校生とその保護者にとっては朗報です。
一方、暗い思いをしているのが短大関係者。この制度改正で、対象拡充と合わせて、対象校の要件も厳格化するからです。
現行制度では、「入学定員充足率が3年連続80%未満」「経常収支が3年連続赤字」「直近年度が負債超過」の3条件全てに当てはまると対象校から外れます。
これが2024年度以降、3条件のうち、「入学定員充足率が3年連続80%未満」が独立することになります。
日本私立学校振興・共済事業団調査によりますと、入学定員充足率80%以上の短大は44.4%。つまり、55.6%が80%未満であり、この相当数が「3年連続80%未満」に該当する、と見られています。
中部地方の進路多様校・進路指導教員は次のように話します。
「修学支援制度のおかげで、今までは大学進学を断念していた生徒が進学するようになりました。ただ、結果論としては、進学先は短大・専門学校よりも4年制大学の方が多いです。そもそも、短大・専門学校への進学は『4年制大学だと学費がきついから』という消極的な理由が大きかったのです。それが修学支援制度でクリアされるわけですから、大学進学を検討するのは自然でしょう」
この事情は短大関係者も承知しており、複雑な感情を持っているようです。
「正直な話、うちを含めて短大にとって修学支援制度はマイナスです。今まで、学費の負担軽減を理由に進学してくれた高校生が大きく減ってしまいました。修学支援制度を利用して入学者が増えた面もあります。ただ、トータルでは、うちを含めて短大にとってはマイナスですね」(関西地方・私立短大入試広報担当者)。
要件厳格化は例外規定として「進学率・就職率9割超なら猶予」があります。
この条件をクリアするために、無理な数字の操作をして後々問題となることも予想されます。
今後、短大は就学支援制度・要件厳格化の影響で60%ではなく80%が募集停止を判断する目安となっていく可能性があります。
◆大学は良くても短大はいい迷惑な定員厳格化の緩和
短大が募集停止に追い込まれる背景、3点目は大学・定員管理厳格化の緩和です。
大学は入学定員に対して辞退者が出ることを見越して多めに合格者を出すのが一般的でした。
しかし、入学定員を大幅に超過すると、大学は収入を確保できる反面、適切な大学教育が行われない可能性があります。実際、過去には、体育館で授業(第一経済大学/現・日本経済大学)、椅子がなく立ったまま受講(東和大学)などの事例もありました。
そこで実施されたのが入学定員の厳格化です。2016年から段階的に実施され、2018年以降は、大規模校(入学定員8000人以上)1.1倍、中規模校(同4,000人以上~8,000人未満)1.2倍、小規模校(同4,000人未満)1.3倍が上限となりました。
超過した場合は、補助金が減額される罰則付きです。当然ながら、各大学はほとんどがこの定員厳格化を受け入れました。
定員厳格化のために、2016年以降、首都圏・関西圏の私立大学では、大規模校を中心に合格者を絞り、辞退者が出れば追加合格を出すこととなりました。
合格出しを絞る、ということはそれだけ一般入試が難化します。しかも、3月下旬になっても、追加合格が出るため、なかなか入学者が確定しない、などの副作用も伴いました。
この定員管理の厳格化が2023年から緩和となりました。
具体的には、対象が入学定員ではなく、収容定員に変更となったのです。
収容定員とは全学年の定員です。上の学年の学生数が少なかった場合、従来よりも多く入学させることが可能となりました。
これも段階的にですが、大規模校は2023年・1.3倍、2024年・1.2倍、2025年・1.1倍。中規模校は2023年・1.4倍、2024年・1.3倍、2025年・1.2倍。小規模校は2023年・1.5倍、2024年・1.4倍、2025年1.3倍となりました。
この定員管理厳格化の緩和は大学にとっては朗報です。今までよりも合格出しを広げることができるからです。
ところが。修学支援制度と同様、大学にとっては朗報でも短大にとっては悪影響となります。
短大は就職と進学(4年制大学編入)、それぞれの進路があります。
進学については、系列大学(上智大学短期大学部の場合は上智大学)への編入もあれば、他大学への編入もあります。
どちらも、定員管理厳格化の緩和によって、収容定員へ変更となったため、短大からの編入学受け入れを絞る可能性があります。
この点に触れたのが、北海道新聞2023年4月11日朝刊(空知北地方版)記事。深川市にある拓殖道短大の定員割れについての記事の中でこの点にも言及しています。
今後のマイナス要因もある。本年度から文部科学省が私立大への補助金の不交付となる基準を、全学年の総定員による超過率の算定に改めたことも「逆風」とみる。
拓殖道短大は系列校の拓殖大(東京)への3年次編入を「売り」の一つとしている。編入者が増え拓殖大の学生が増加した場合、同大への補助金不交付の可能性がある。そのため、拓殖道短大からの編入が厳しくなる可能性がある。
※北海道新聞記事より
この問題は拓殖道短大だけでなく、他の短大も同じです。
◆大学・短大の未来はどうなる?
以上、3点から短大は今後、厳しい状況が続くもの、と見ています。
短大は1990年代から減少傾向にあります。1990年からほぼ半減(1990年593校→2022年309校)しており、これで下げ止まった、と見る観測もありました。
しかし、上記3点の理由、特に2点目(修学支援制度の対象厳格化)は短大にとって強い逆風です。
2022年の入学定員充足率80%未満の短大は半数(55.6%・155校)。
この155校の相当数が今後、募集停止ないし4年制大学への昇格など、厳しい判断を迫られることになるでしょう。
一方、4年制大学は、大学進学率の上昇、就学視線制度の対象拡大、どちらも追い風となります。
それでも、経営の厳しい私立大学、特に入学定員充足率60%未満の30校は募集停止や他大学との統合を含めた判断が必要となります。
ところで、大学は2000年代以降、定員割れが問題視されてきました。その割に、募集停止・廃校となった大学は2023年4月現在、17校(恵泉・神戸海星を含む)のみです。
その理由として、定員割れ=即赤字、とはならない学校法人会計の特殊性にある点は、3月記事などですでに解説しました。
しかし、本当にそれだけなのでしょうか。
そこで、3月から4回に分けて、募集停止・廃校となった16校(3月公表の恵泉女学園まで/4月公表の神戸京成女子学院は含まず)の分析を進めました。
この記事シリーズ完結後に「なぜ潰れなかったのか」、これについて分析していったのです。具体的には、2012年時点で入学定員充足率60%以下の大学30校が、その後、どうなったか。その結果、意外な事実が判明したのです。
そして、他大学との統合はどのような効果があったか、これについても分析しました。
10年前のひどい定員割れ大学がなぜ潰れなかったのか、そして今後、大学はどうなっていくのか、これについては別記事にてまとめたく思います。
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