Yahoo!ニュース

女子大氷河期サバイバル~私立女子大67校の未来像をデータから検証

石渡嶺司大学ジャーナリスト
キャンパスで学ぶ女子大生(写真はイメージ)。女子大の未来像を専門家が解説(写真:イメージマート)

◆名門・恵泉女学園大学が募集停止を発表

22日、今年の入試もひと段落したところに、恵泉女学園大学が募集停止を発表しました。

恵泉女学園大学は1929年創設の恵泉女学園が前身です。1950年に恵泉女学園短期大学、1988年に4年制大学となり、以降、ミッション系の女子大として一定の人気がありました。

人文学部と人間社会学部の2学部があり、平和学と園芸学の研究でも有名でした。

現在の大日向雅美学長は少子化問題で文部科学省、内閣府などの懇談会で委員・座長を務め、予算委員会で有識者として参加もしています。

恵泉女学園大学サイトより。募集停止の告知。
恵泉女学園大学サイトより。募集停止の告知。

私もかつて何度か、取材に行き、小規模ながら教育熱心な大学と感じていました。それだけに募集停止は残念です。

◆立地の悪さが影響も

名門の恵泉女学園大学が募集停止となった背景には、女子の共学校志向・女子大離れ、受験生全般の大規模校志向、そして立地の3点があります。

なお、募集停止は少子化(18歳人口の減少)によるもの、とする論説が強く、恵泉女学園大学も募集停止を発表したプレスリリースの中で「18歳人口の減少」を背景の一つとして挙げています。

私は、少子化と大学進学は別と考えており、影響を受けているのは短大・専門学校と高卒就職である、と見ています。過去のデータからも明らかであり、3月1日に関連記事「出生者80万人割れでも大学が潰れないカラクリ~2040年には大学進学率80%超えも」を出しています。ご興味ある方はこちらをお読みください。

さて、共学化志向・女子大離れと大規模校志向については後述します。恵泉女学園大学の場合、立地の悪さが志願者動向にも大きな影響がありました。

立地は、小田急線・京王線多摩センター駅からバスで10分程度の住宅地の中にあります。

率直に言って、交通の便がいい、とは言えません。

1990年代以前は、大学は郊外に設置ないし移転するところが多数でした。1980年代後半はバブル景気で土地代が高く、そもそも、工場等制限法の影響で都心に設立できなかったのです。もともと都市部にあった大学も郊外キャンパスに移転していきました。こちらは土地代の安さの他に、1960年代・1970年代の学生運動の余波で拠点化することを大学関係者が恐れていた事情もあります。

ところが、2000年代以降、共学校・女子大ともに都心回帰が進んでいきました。

そうなると、受験生からすれば、通学のしやすい、立地のいい大学を選ぼう、と考えます。

恵泉女学園大学も、もう少し、都心か、せめて多摩センター駅前に移転していれば、状況が違ったはずです。

◆女子大67校の現状は

では、私立・女子大の現状はどうか、そのデータをまとめました。

なお、表には67校あります。うち、北海道武蔵女子大学は2024年新設予定です。

それと、別項目でデータをまとめた共学化校リストのうち、清泉女学院大学(長野県)は看護学部のみ男女共学で、一般的な女子大リストでは共学化校ではなく女子大としてカウントするのが一般的です。

それと、4月から共学化する、神戸親和大学(本稿掲載時点では神戸親和女子大学)、鹿児島純心大学(同・鹿児島純心女子大学)は、本稿では女子大リストではなく、共学化校リストに入れています。

本稿掲載時点(2023年3月25日)では、私立女子大は恵泉女学園大学を含めると70校です。細かいようですが念のため。

以下の表について

・『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』(旺文社)の各年度版から筆者作成

・倍率は一般入試のもの

・偏差値は河合塾データで最高値と最低値の両方を記載。なお、入試形式により異なる場合がある

・偏差値で「BF」はボーダーフリーの状態を指す

・「-」は参考図書に記載なし(大学側が非公表)

・「※」は該当年では未開設

・充足率は2022年の入学定員充足率を指す(入学者÷入学定員)。一部の大学は参考図書に掲載がなく、大学サイトの公表値を元に計算し掲載した

・2022年の倍率で1.5倍以下の大学は、オレンジ表示、2.0倍以上の大学はブルー表示とした

・2022年の学部数で増えている大学は、ブルー表示とした

・2022年の充足率で80%以上の大学はブルー表示、70%以下の大学はオレンジ表示とした

女子大67校の動向・1(北海道~千葉県)

『蛍雪時代臨時増刊 全国大学内容案内号』各年度版から筆者がデータ集計のうえでYahoo!ニュース個人編集部が作成/北海道武蔵女子大学は2024年開設予定
『蛍雪時代臨時増刊 全国大学内容案内号』各年度版から筆者がデータ集計のうえでYahoo!ニュース個人編集部が作成/北海道武蔵女子大学は2024年開設予定

女子大67校の動向・2(東京都)

『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』各年度版を元に筆者がデータ集計のうえでYahoo!ニュース個人編集部が作成
『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』各年度版を元に筆者がデータ集計のうえでYahoo!ニュース個人編集部が作成

女子大67校の動向・3(神奈川県~大阪府)

『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』各年度版を元に筆者がデータ集計のうえでYahoo!ニュース個人編集部が作成
『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』各年度版を元に筆者がデータ集計のうえでYahoo!ニュース個人編集部が作成

女子大67校の動向・4(兵庫県~熊本県)

『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』各年度版を元に筆者がデータ集計のうえでYahoo!ニュース個人編集部が作成
『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』各年度版を元に筆者がデータ集計のうえでYahoo!ニュース個人編集部が作成

◆恵泉と同じ危険水域の女子大は5~10校

大学の人気・志願者動向を示す数値はいくつかあります。

本稿のリストに示した、一般入試の倍率、偏差値、入学定員充足率です。

ただし、どれも1点だけでは正確とは言えません。

一般入試倍率だと、総合型選抜・学校推薦型選抜で学生を集めている大学を切り捨てることになります。それと、地方大学だと2倍を超える大学が珍しく、2倍未満でも地方の高校生からすれば入試のハードルが高い、ということも起こっています。

偏差値は、大規模校だと不人気学部はBF、人気学部(2004年だと栄養系、2022年だと心理・国際系学部など)は高く出る傾向にあります。

そこで、本稿では、倍率、偏差値、入学定員充足率(2022年のみ)の3点をそれぞれまとめました。

入学定員充足率は、100%を超過していると、それだけ教育の質が低下します。そのため、文部科学省は105%を超えると学部新設を認めない、110%~130%超だと補助金不交付などのペナルティを課していました。しかし、2022年に入学定員から収容定員の充足率に変更となりました。収容定員は4年制なら入学者(1年生)だけでなく、2~4年生も含みます。

さて、入学定員充足率は入学辞退者などが出たことにより、100%を下回ることは十分、起こり得ます。そこで本稿では80%以上をセーフラインとしてブルー表示に、70%以下を危険水域としてオレンジ表示としました。

なお、入学定員充足率について恵泉女学園大学は、2022年度、56%でした。一般入試の倍率は1.1倍。

この恵泉女学園大学と同じ(一般入試の倍率が1.5倍以下、入学充足率が70%以下)でオレンジ表示を重ねた大学は、川村学園女子、東京家政学院、東洋英和女学院、岐阜女子、名古屋女子、名古屋柳城女子、京都華頂、京都ノートルダム女子、大阪女学院、神戸海星女子学院、神戸松蔭女子学院、松山東雲女子、西南女学院の13校です。

このうち、偏差値37.5以上の学部を擁する(=ある程度の人気がある)大学は川村学園女子、東京家政学院、東洋英和女学院、名古屋女子、京都ノートルダム女子、神戸松蔭女子学院、西南女学院の7校は他の6校よりもまだセーフゾーンにいる、とも言えます。

しかし、岐阜女子、名古屋柳城女子、京都華頂、大阪女学院、神戸海星女子学院、松山東雲女子の6校は偏差値が35.0以下ないしBFとなっています。学部数も1~2学部で、募集停止を発表した恵泉女学園大学と状況が似ています。

この5校ないしオレンジ表示を重ねた6校やホワイト表示となっている女子大も含め10校程度が危険水域にある、と言っていいでしょう。

◆女子のキャリアアップ・進学率向上の影響で

このような女子大氷河期の背景で大きいのが女性のキャリアップや女子高生のキャリア志向、共学化志向です。

1990年代半ばまでは女子高校生の進路は短大進学か、高卒就職が主流でした。

1993年、女子のみの大学進学率(浪人生を含む)は19.0%、短大は24.4%で上回っています(文部科学省・学校基本調査/以下同)。

これが1996年に大学24.6%・短大23.7%と逆転。以降、年々その差を拡大し、2012年には短大が10%割れ(大学45.8%・短大9.8%)。2022年は大学53.4%・短大6.7%と大きく離されてしまいました。

その結果、2017年には青山学院女子短期大学、立教女学院短期大学などかつての名門校が募集停止となっています。

短大氷河期サバイバル~青山学院女子短大募集停止でどうなる?(Yahoo!ニュース個人、2017年7月27日公開)

短大の凋落と4年制大学進学率の上昇で女子大が安泰になったかに見えました。ところが、女性のキャリアアップ傾向が女子大から共学校にシフトしていきます。

女子学生の就職は1990年代までは一般職が中心でした。それが2000年代以降、総合職就職にシフトしていきます。

特に、2012年、第二次安倍内閣が成立、ウーマノミクスを導入しました。これにより、女性の総合職採用や管理職登用、関連データの公表などが政策として推進されます。これにより、今まで女性総合職・管理職採用に後ろ向きだった企業も、方向転換することとなりました。

2012年、首班指名を受ける安倍晋三首相。ウーマノミクスを導入し、女性総合職・管理職の採用が各企業で進むことに
2012年、首班指名を受ける安倍晋三首相。ウーマノミクスを導入し、女性総合職・管理職の採用が各企業で進むことに写真:Natsuki Sakai/アフロ

女子大は文学部や家政学部などを設置する大学が多くあります。総合職就職において、文学部や家政学部出身であることは不利にはなりません。しかし、女子受験生やその保護者からすれば、経済・経営系学部や法学部などの方が総合職就職には有利そう、とのイメージが強くあります。実際に民間企業の総合職就職者が多いのも事実。

こうなると、文学部や家政学部が中心の女子大よりも、経済・経営系学部や法学部、それ以外の多様な学部のある共学校を選ぼう、と志向が大きく変わりました。

これにより、文学部や家政学部などしかない女子大は苦境に立たされることになります。

◆キャリア志向に対応できた女子大・大規模校

では、2023年現在、女子大は全てダメか、と言えばそんなことはありません。

先の表を見ていただくと、倍率2倍以上・入学定員充足率80%以上で2項目ともブルー表示となっている女子大は、女子栄養、大妻女子、実践女子、昭和女子、女子美術、東京家政、東京女子、日本女子、鎌倉女子、同志社女子、甲南女子、武庫川女子の12校あります。

この12校はいずれも、受験生からの評価が高く、安全水域にある、と言えます。

この12校に準じるのが、共立女子、駒沢女子、聖心女子、清泉女子、津田塾、東京女子医科、椙山女学園、京都女子、大阪樟蔭女子、神戸女子、安田女子など11校。

合わせて23校は安全水域にあり、今後も、生き残りが十分可能と言えるでしょう。

3月現在、女子大は68校(4月に共学化の2校と恵泉女学園大学を除く/上記の表に未掲載の清泉女学院大学を含む)。うち、安全水域が23校、危険水域が14校、残りがどちらに転ぶか分からない、中間層にあります。

安全水域にある23校は、「学部の専門性が飛び抜けて高い」「立地がいい(または移転)」「キャリア志向に対応できる学部・学科を新設」、このいずれか、または複数に該当します。

学部の専門性が飛び抜けて高いのは、医学部を擁する東京女子医科、そして女子栄養、女子美術の3校です。

立地がいいのは聖心女子(広尾)、清泉女子(五反田)、大妻女子(千代田)、共立女子(千代田)、京都女子(京都駅からバスで10分)、武庫川女子(中央キャンパス/阪神電車の駅から徒歩7分)など。

以下の表のように、大妻女子、共立女子、日本女子などは2000年代以降に、郊外キャンパスを閉鎖、都心のキャンパスに移転しています。

主な女子大学・キャンパス移転(2000年以降)

各大学サイトより筆者作成
各大学サイトより筆者作成

安全水域にあるとまでは言えませんが、跡見学園女子大学も2008年に埼玉・新座キャンパスは1・2年次にして、3・4年次は地下鉄丸ノ内線茗荷谷駅徒歩2分にある文京キャンパスに移転となりました。

将来、一部ないし全学部が文京キャンパスに移転すると、この跡見学園女子大学の志願者動向も大きく変わる見込みです。

3点目の「キャリア志向に対応できる学部・学科を新設」、こちらは具体的には経済・経営系学部、法学部、国際系学部や情報系学部などです。

◆主要女子大の学部新設(法、経済・経営、国際、データサイエンス系など)

各大学サイトより筆者作成/上記一覧は新設学部の一部
各大学サイトより筆者作成/上記一覧は新設学部の一部

今後も、既存学部の改組なども含めて、ニーズにあった学部新設が進む見込みです。

◆女子大受難な中でも開設を目指す北海道武蔵女子大

なお、この女子大氷河期とも言うべき逆風下にあって、2024年に開設予定を目指しているのが北海道武蔵女子大学です。

北海道武蔵女子大学サイトより。2024年開設を目指す
北海道武蔵女子大学サイトより。2024年開設を目指す

同大は1967年開設の北海道武蔵女子短期大学が前身であり、地元・北海道では「就職できる女子短大」として定評がありました。

このうち、経済学科を4年制大学に昇格することを目指しています(教養学科と英文学科は短大のまま存続)。

女子大逆風下にあって無謀と断じる専門家もいますが、私はそうは思いません。

小規模校である点は恵泉女学園大学と同じであり、懸念材料です。

しかし、キャリア志向にあった学部(経営学部)、立地の良さ(札幌駅からバス・徒歩で20分程度)という安全水域の女子大の条件には合致しています。

ライバルとなる藤女子大学は文学部、人間生活学部の2学部で競合しません。

それと、経営学部内に心理系、デザイン・情報系を擁しており、これらが心理系学部、情報系学部となる可能性もあります。

これらの条件を考えると、今後の戦略によっては十分、学生を集める女子大になる可能性が高いと見ています。

◆共学化は「12勝5敗」

さて、既存の女子大にとって、学部新設やキャンパス移転以外に、検討事項として上がるのが共学化です。

実際、2000年以降に28校が共学化しました(4月に共学化をする神戸親和大、鹿児島純心大の2校、ならびに看護学部のみ共学化とした清泉女学院大学を含む)。

先の女子大と同様、2004年・2020年・2022年のデータをまとめました。

※各表の注釈は上記の女子大リストと同じ

共学化した女子大の動向・1(北海道~愛知県)

『蛍雪時代臨時増刊 全国大学内容案内号』各年度版から筆者作成/上野学園大学は2020年募集停止
『蛍雪時代臨時増刊 全国大学内容案内号』各年度版から筆者作成/上野学園大学は2020年募集停止

共学した女子大の動向・2(京都府~鹿児島県)

『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』各年度版を元に筆者作成
『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』各年度版を元に筆者作成

志願倍率が1.5倍以下・入学定員充足率が70%以下で、どちらもオレンジ表記となっているのが、筑波学院、松陰、神戸親和の3校。

うち、神戸親和大学は今年4月に共学化するので、共学化の効用の是非はまだ問えないので除外。

志願倍率が1.5倍以下で、入学定員充足率が70%台となっているのが、杉野服飾、山陽学園、梅光学院の3校。

神戸親和大学を除く、5校が危険水域にある、と言っていいでしょう。

なお、上野学園大学は2007年に共学化も、2020年募集停止となりました。

その逆に、志願倍率2倍以上・入学定員充足率80%超でブルー表記となっているのが、聖路加国際、文化学園、武蔵野、至学館、京都橘、帝塚山学院、大手前の7校。

これに準じるのが、文京学院、大阪大谷、大阪国際、就実、広島文教の5校。

この12校は共学化の効果があった、と評価できます。

この3月時点で共学化している24校(神戸親和女子、鹿児島純心女子、清泉女学院と上野学園の4校は含まない)のうち、12校は安全水域、5校が危険水域にあり、残り7校が中間層にある、と言えます。

共学化により、安全水域に到達した12校も、先に挙げた、女子大の安全水域24校と同じです。

まず、聖路加国際大学は看護学部の単科大であり、看護業界では一目置かれている存在です。

立地も築地駅から徒歩3分という東京のど真ん中に位置します。

至学館大学は女子レスリングなどスポーツの名門校。

この2校を除いた10校の共通点が学部増設です。いずれも2004年時点から学部を増設しており、特に武蔵野大学は2004年時点で4学部だったところ、2022年時点では12学部となり、大規模校になりました。

さらに同大は武蔵野キャンパス(吉祥寺駅からバスで15分程度)のみでしたが、2012年、お台場に有明キャンパスを開設。現在はグローバル学部、経営学部、データサイエンス学部など8学部が有明キャンパスでの修学となっています。

武蔵野大学サイトより。記事公開日の翌日が偶然、オンラインOCの開催日に。2024年にはウェルビーイング学部を開設予定。
武蔵野大学サイトより。記事公開日の翌日が偶然、オンラインOCの開催日に。2024年にはウェルビーイング学部を開設予定。

この学部新設は武蔵野大学だけでなく、京都橘大学や就実大学なども同様です。共学化と合わせて拡大策を取ったことが功を奏した、と言えるでしょう。

◆女子大が恐れる「立志舘の呪い」

では、共学化をすれば、女子大の延命策になる、とまでは断じることができません。

前記の通り、共学化しても苦戦し、危険水域にあると言える大学が24校中5校、存在するからです。

苦戦する女子大関係者に取材すると、「共学化は検討課題の一つ」としながらも、そう簡単にいかない、とする関係者が多くいます。

共学化を持ち出すと、OG組織が大反対で学内外とも揉めることが理由の一つ。

さらに、複数の女子大関係者が挙げるのが「下手に共学化をしても、逆にお客さん(受験生)を逃してしまう。大学が潰れた先例もあるし」として挙げるのが「立志舘の呪い」です。

『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』の各年度版を元に筆者作成/神戸山手大学は関西国際大学、立志舘大学は呉大学(現・広島文化学園大学)に学部譲渡
『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』の各年度版を元に筆者作成/神戸山手大学は関西国際大学、立志舘大学は呉大学(現・広島文化学園大学)に学部譲渡

立志舘大学は1989年開設の広島女子商短大が前身となる大学です。短大時代も「商業」ではなく「商」とするあたり、ユニークだったのですが、2000年に広島安芸女子大として4年制大学となります。

ところが、2000年開設時に定員195人のところ、入学者は32人(2000年4月13日・NHKニュース)。入学定員充足率は16.4%で危険水域どころか、「超危険水域」にありました。

翌年も入学者は38人と40人を割り込み、大学経営幹部は焦ります。そして、開設3年目の2002年に早くも共学化、大学名を立志舘大学に改称します。

これで新入学者は107人と増加しましたが、それでも入学定員充足率は54.9%。「超危険水域」から「危険水域」に変わったにすぎません。

同年には再建に協力していた専門学校経営者が撤退したこともあり、廃校が検討されます。その結果、近隣にある呉大学(現・広島文化学園大学)が継承を申し出たこともあり、2003年1月、休校を決定します。初年度入学者が卒業しないまま、事実上、廃校となったのは異例のことでした。

この立志舘大学のケースが、経過を飛ばして「共学化しても廃校となった」部分だけが広まった、これが「立志舘の呪い」です。

◆「立志舘の呪い」は都市伝説?

ただ、この「立志舘の呪い」、共学化の失敗例としてしまうのはやや問題があります。

まず、高校・短大で経営が好調だったため、当時の経営陣はかなり甘い見通しがありました。それもあって、大学開設初年度に入学定員充足率16.4%という、とんでもない数字をたたき出してしまいます。

女子大の良し悪し以前の問題として、初年度から経営が厳しかったわけで、当時のメインバンクだった広島信用金庫が即時廃校を勧めたのも無理はありません(日経ビジネス2003年3月3日号「敗軍の将、兵を語る 人物~進藤育明氏[広島女子商学園理事長] 大学休校、卒業生1人も出せず」)。

さらに、文部科学省と日本私立大学協会が紹介した専門学校経営者が融資資金の流用疑惑が出るなど、迷走が続きました。

時代背景としても、経営学部は時期尚早でした。2000年代はまだ女性総合職採用が今ほど多くなかった時期です。

首都圏ならまだしも、広島県、それも呉市という郊外都市の立地では、いくら伝統があっても、無理がありました。

高校、短大で経営が順調でも4年制大学だと敬遠されたのも、当然でしょう。

こうした経過や条件を整理していくと、「立志舘の呪い」はむしろ都市伝説に近いのではないか、とも感じます。

◆生き残る女子大は拡大策・移転が必要

とは言え、女子大全てがこのまま安泰ではないことも確かです。

では、今後はどのような未来となるのでしょうか。

まず、安全水域にある23校は女子大のまま、現状維持、または、学部新設などの拡大策に出ることが考えられます。

学部新設はこれまでと同様に経済・経営系学部や法学部、データサイエンス学部などが考えられます。

それと、政府の方針で既存学部を再編し、理工系学部を新設すると、1校当たり最大20億円を助成する方針を今年1月に出しました。

今のところ、東京23区内の学部新設抑制(2018年から10年間、定員増は原則禁止)があるため、東京の私立大では学部新設が難しい状況です。しかし、これも政府が方針を見直せば変わるでしょう。

※2月時点でデジタル系学部(IT・データサイエンス系学部)に限って条件付きで緩和する方針を政府は示しています

東京以外だと、経営情報分野や統計学分野などを情報系学部に再編していくことは考えられます。

それと、需要が安定している看護・医療系学部についても、関連の単科大・専門学校を吸収合併したうえでの学部新設も有力です。

中間層31校(2024年新設予定の北海道武蔵女子大学を含む)は、学部新設・再編が重要です。

特に、1学部内に、あれもある、これもある、という教養系学部は受験生からすれば分かりにくいものがあります。国際系なら国際学部、経営が学べるなら経営学部、など、分かりやすい再編が必要です。

この学部新設・再編と併せて必要となるのが、キャンパス移転です。

中間層の31校が、安全水域23校に入らなかった理由のうち、大きなものが立地です。立地の悪さが受験生に敬遠されて志願動向が鈍化しており、そのためには郊外から都市部(急行・特急の停車駅周辺)への移転も検討課題となります。

あるいは、共学化も有力です。安全水域にある23校と異なり、中間層31校は共学化への反対論がそれほど強くありません。実際、この4月にも神戸親和、鹿児島純心の2校が共学化します。

学部新設を含む規模の拡大か、それとも共学化か、あるいは廃校・他校との統合か、中間層31校はいずれかを選択することでしょう。

◆「傷が浅いうちに統合・閉校」も選択肢に

危険水域にある13校は、安全水域23校や中間層の女子大以上に、難しいかじ取りが求められます。

2023年1月に文部科学省は、学生数が定員の5割以下の学部がある大学について、学部の新設を認めないとする認可基準の改正案を発表しました。2025年開設分から適用される見通しです。

これにより、今までの「看護・医療系学部を新設し、当座をしのぐ」手法が使えなくなります。

従来の学部から人気ある分野を新学部として分離して新設する手法もアウト。

広報に力を入れようにも、そうした予算も人員も乏しく、「広報でどうにかなるなら、とっにやっている」との無力感が強いはず。

そうなると、残るは徹底したリストラ策(不人気分野・学部を閉鎖し、需要の見込める分野のみに集中)、他大学との経営統合・吸収合併で大学の一部でも活かす(共学化を含む)、傷が浅いうちに募集停止・廃校、この3択です。

恵泉女学園大学は、傷が浅いうちの募集停止を選択しました。

今後も、恵泉女学園大学と同様に募集停止を選択する大学は複数出る可能性があります。

女子大学は進化・拡大していくか、共学化か、それとも廃校か。女子大氷河期である一方で、その格差は今後も広がっていくことでしょう。それこそ、氷河が割れるのと同様に。

追加・修正(2023年3月25日9時20分)

文中で、「恵泉女学園大学」を「恵泉女岩塩大学」と誤記していたところがありましたので修正しました。

ご指摘いただいた @cochonrouge様、ありがとうございました。

追加・修正(2023年3月25日13時42分)

文中で、神戸女子大学について、「ブルー表示が重なっている」「これに準じる」でダブルカウントではないか、とのご指摘をいただきました。重複していましたので、修正しました。

ご指摘いただいた @nonchan_pdx様、ありがとうございました。

合わせて、「安全水域」「中間層」「危険水域」の校数と記載についても、一部修正・変更しました。

追加・修正(2023年4月18日12時40分/4月21日9時10分)

文中で、尚絅大学について、2022年の入学定員充足率を50.2%→74.5%に訂正します。合わせて文中の「安全水域」「中間層」「危険水域」の校数と記載についても、一部修正・変更しました。

また、現状の女子大リストに京都華頂、千里金蘭の2校が抜けていたため、追加。該当部分を加筆修正しました。

ご指摘いただいた、ブログ「数字作ってみた」管理人たぬたぬ様、ありがとうございました。

なお、本稿掲載から1カ月後の4月17日、神戸海星女子学院大学が募集停止を発表しました。これについては別記事で改めてまとめたく思います。

追加・修正(2023年6月21日9時)

女子大67校の図表を、筆者作成のものからYahoo!ニュース個人編集部作成のものに差し替えました。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

教育・人事関係者が知っておきたい関連記事スクラップ帳

税込550円/月初月無料投稿頻度:月10回程度(不定期)

この有料記事は2つのコンテンツに分かれます。【関連記事スクラップ】全国紙6紙朝刊から、関連記事をスクラップ。日によって解説を加筆します。更新は休刊日以外毎日を予定。【お題だけ勝手に貰って解説】新聞等の就活相談・教育相談記事などからお題をそれぞれ人事担当者向け・教育担当者向けに背景などを解説していきます。月2~4回程度を予定。それぞれ、大学・教育・就活・キャリア取材歴19年の著者がお届けします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

石渡嶺司の最近の記事