募集停止・廃校となる大学は何が敗因か~16校の立地・データから分析した・後編
◆廃校・募集停止の16校は何がまずかった?
というわけで中編の続き。廃校分析記事としては第三弾になります。
前編はこちら。
募集停止・廃校となる大学は何が敗因か~16校の立地・データから分析した・前編(2023年3月30日公開)→地方型3校、不祥事型3校の個別解説
中編はこちら。
募集停止・廃校となる大学は何が敗因か~16校の立地・データから分析した・中編(2023年4月4日公開)→都市型7校(他大学競合・3校、専門学校競合4校)の個別解説
最終章はこちら。
募集停止・廃校となる大学は何が敗因か~16校の立地・データから分析した・最終章(2023年4月18日公開)→情報公開の観点からの分析、私立大約半数の定員割れの虚実
読んでいない方のために、ご説明しますと、2000年以降、廃校・募集停止となった私立大16校についての分析記事です。
規模については、16校全てが小規模校。
募集停止時点での入学定員充足率からは、11校が追い込まれ型、5校が先行損切り型でした。
そして、立地・運営については、地方型(3校)、不祥事型(3校)、都市型(10校)に分かれる、と分析。
前編では、地方型と不祥事型、合計6校の個別解説を掲載しています。
中編では、都市型10校のうち、他大学競合グループ4校、専門学校競合グループ3校、合計7校の個別解説を掲載しています。
この後編では、都市型・グレーグループ3校の個別解説、学部名・大学名・期間の点について、掲載しています。
なお、廃校・募集停止の16校(2023年公表の恵泉女学園大学を含む)についてのデータは前編掲載のものを本稿でも再掲します。
以下の表について
・『蛍雪時代臨時増刊 大学内容案内号』(旺文社)の各年度版から筆者作成
・倍率は一般入試のもの
・偏差値は河合塾データで最高値と最低値の両方を記載。なお、入試形式により異なる場合がある
・偏差値で「BF」はボーダーフリーの状態を指す/「※」は記載なし
・「-」は参考図書に記載なし(大学側が非公表)
・「※」は未開設、偏差値は記載なしを示す
・充足率は入学定員充足率を指す(入学者÷入学定員)
・募集停止公表年の充足率について、太文字表記の大学は新聞等掲載の数値。細文字表記の大学は公表年の前年について参考図書記載の数値。なお、創造学園大学については参考図書とメディアで数値が異なるため、両論併記とした
・2004年と募集停止公表年の倍率で1.5倍以下の大学は、オレンジ表示、2.0倍以上の大学はブルー表示とした
・2004年と募集停止公表年の充足率で80%以上の大学はブルー表示、70%以下の大学はオレンジ表示とした
廃校・募集停止となった私立大学16校一覧・その1
廃校・募集停止となった私立大学16校一覧・その2
◆廃校となった都市型・グレーグループとは?
東和大学
福岡医療福祉大学
聖トマス大学
不祥事型とまでは言えなくても、募集停止前後のトラブルが目立ったグループです。
本稿では「グレー」としましたが、専門家によっては不祥事型と分類するかもしれません。
上記3校が該当します。
◆無人島購入に内紛・学部転換のコンボで失敗…東和大学
●東和大学
開設:1967年(開設当初は東亜協立大学)
募集停止:2007年
廃校:2011年
学部:工学部
立地:JR博多駅から30分圏内(バスで20~25分・西鉄大橋駅下車、徒歩8分)
解説:
1967年に工学部の単科大学として開学。1968年には「全国で初めて電気工学科の中に医療電子工学コースを設置」(西日本新聞1993年6月13日朝刊)するなど、先見の明がありました。
電気工学科の中に医療電子コースを設けたのは、創立者である姉(福田昌子氏)が医者で、医療機械に電気を取り入れる必要を強く感じていたことがきっかけです。でも、これを文部省に認めてもらうには苦労しました。なにしろ電気科の中に医療電子を持っている大学など他にありませんでしたからね。おかげで他の大学からも視察に来られ、参考にされました。
※西日本新聞1993年6月13日朝刊「[トップは語る]東和大学理事長・学長、福田敏南氏(下)」
当時の理事長は、地元紙インタビューでこう自慢しています。
医療のIT化が加速、定着した現代からすれば、1968年時点でこういう発想をできるのは、なかなかの慧眼です。
博多駅から30分圏内の好立地。しかも、福岡県は工業が盛んであり、工学部出身者を欲しがるメーカーが多数。就職できるのであれば、と、学生も順調に集まります。
しかも、慧眼の理事長がいれば、勝ち確定。
だったはずでした。
ただ、この理事長、なかなかのくせ者だったのです。
1975年に学長、1976年に理事長に就任するも、埼玉県の系列短大設置をめぐり、理事会と対立。1983年には理事会で解任が決議されます。
1990年に福岡地裁で理事長の地位を認める判決が出ますが、この内紛で日本私立学校振興・共済事業団は1983年から補助金の不交付を決定。
すると、同年から、17年間もの長期間、入学者の大幅な水増し(定員超過)で対応します。
当時は定員の1.5倍まで入学することが認められていました。2023年現在は、入学定員ではなく収容定員の1.3倍~1.5倍となっています。2025年以降は収容定員の1.1倍~1.3倍となる予定。
1.5倍でも多いイメージがありますが、東和大学は3.2倍(1988年)から7.06倍(1996年)もの超過(読売新聞2000年3月2日・西部朝刊)。
2000年2月に判明すると、大学側は「補助金を受けられず、学生数を増やすしかなかった。今思えば、本末転倒と批判されても仕方がない。増収分は施設建設やパソコンなどの教育設備などに充てた」(読売新聞・同)と釈明も、実はそれだけではありませんでした。
特別刑事部の調べで、福田容疑者が理事長時代、系列大学の大幅な定員オーバーなどによってプールされた学園資金は、背任容疑の舞台となった無人島の購入や、朝鮮ニンジンに関連する食品の製造など、教育と学問の現場とは全く無関係な事業に次々に投じられていたことが明らかになっている。
読売新聞2000年3月14日西部朝刊
朝日新聞記事(2000年2月27日・西部朝刊)によると、1982年の補助金交付は「約一億二千六百万円」。これに対して、定員超過による授業料収入で「毎年、十億円単位の余剰金が出ていた」。そりゃ、無人島を買うこともできるでしょう。
しかも、理事会を開催せず、4.5億円も出したのは、やりすぎでした。
結果、学生は座席不足から、立ったまま講義を受けることも(読売新聞2000年3月14日西部朝刊)。
福田敏南理事長は退任後、背任容疑で逮捕。6月には背任罪で懲役2年が福岡地裁から言い渡されます(毎日新聞2002年6月5日西部夕刊)。
福田敏南理事長の後を継いだのが、同氏長男の福田庸之助氏でした。
2004年以降は補助金が復活するものの、大学の信頼は地に落ちたまま。2006年には定員割れ(87.5%/朝日新聞2006年6月26日西部朝刊)。
2006年には、工学部を廃止するか、定員を半減したうえで生命理工学部に改組。合わせて、文系の国際教養学部の新設を大学再建策として検討します(朝日新聞・同)。
リストラされる工学部教員側は収まらず、学内は紛糾。
朝日新聞記事が出た2日後には福田理事長が「文科省に申請するか迷っていた時期に新聞報道され、申請できなくなった」として文系学部設置を断念(毎日新聞2006年6月28日西部朝刊)。
同年、2007年以降の募集停止を決定します。
2007年に法人名を学校法人純真学園に改称、東和大学は2011年に廃校となりました。
同年には、純真学園大学が東和大学の校舎・キャンパスをそのまま使う形で開学。
保健医療学部の単科大学で、医療工学科が東和大学の伝統を引き継いでいる、とも言えます。
引いた目で見ると、定員超過に内紛、無人島購入など不正経理が続いた、当時の大学経営陣に問題があった、と言えるでしょう。
一方、教員側も工学部の廃止に反対するのは当然としても、工学部から情報系学部や環境系学部新設を逆提案するなど、生き残りの方策はあったはず。
純真学園大学サイトの沿革には、東和大学開学は出ているものの、廃校やその経緯については一切、触れられていません。
この空白は、東和大学廃校のグレーさを物語っている、そう思うのは私だけではないでしょう。
◆最初から最後まで不透明のまま…福岡医療福祉大学
●福岡医療福祉大学
開設:2002年(開設当初は第一福祉大学)
募集停止:2010年
廃校:2014年
学部:人間社会福祉学部
立地:JR博多駅から40分圏内(地下鉄空港線で天神駅下車、徒歩5分の西鉄福岡駅から天神大牟田線急行で5駅・西鉄二日市駅下車、徒歩10分線で5駅)
解説:
福岡医療福祉大学は、開設当初は第一福祉大学でした。
という時点で、大学業界関係者の読者の方は察するものもあるでしょう。
そう、第一経済大学(現・日本経済大学)を擁する都築学園グループの1校です。
付言しますと、福岡医療福祉大学と第一経済大学を運営する学校法人は別です。
この第一経済大学は、1991年に定員の大幅超過が問題となります。当初は6倍で「歩留まり率の見込み違い」との説明でした。
ところが、その後、定員500人に対して1991年入学者は5954人、約12倍であったことが判明します。
しかも、学生証は全体数を分からなくするために乱数式に変えるなど、確信犯です。
結果、「系列の短大が利用していた体育館を教室に改造し、研究室2棟も建設中」など、かなり無理な運営でした(朝日新聞1991年11月6日・西部朝刊)。
第一福祉大学は都築学園グループの1校として、2002年に開学します。当初は社会福福祉学部の単科大学でした。
その後、第一福祉大学がメディアに大きく登場するのは2007年、不祥事によってでした。
都築学園グループの都築泰寿総長(当時)が第一福祉大学構内で女性職員にわいせつ行為をしたことで逮捕されました(毎日新聞2007年11月15日西部夕刊)。
しかも、女性職員に口封じか、現金を渡す(毎日新聞・同)、当初はセクハラについて「知らない」としていた妻の副総長(夫が逮捕後に総長に就任)が、セクハラのメディア流出を抑えたなど、知っていたことを示すメモを交わしていたことが判明します(朝日新聞2007年12月5日西部朝刊)。
結果、都築泰寿氏は、2008年に福岡地裁で懲役3年・執行猶予5年の判決を受けます。
執行猶予がついたとは言え、裁判長の言い渡しでは「自己の強い立場を悪用した非常に卑劣かつ悪質な犯行で、反省しているとは認めがたい」と、強めの表現。
この事件と関連があるかは不明ですが、2008年には第一福祉大学から福岡医療福祉大学に改称。
前年、2007年には社会福祉学部から人間社会福祉学部に改称となります。
ただ、改称で状況が好転したとは思えません。
理由は、社会福祉士の合格率低迷です。
前編で解説した、愛知新城大谷大学と重複しますが、1990年代から2000年代前半にかけて、福祉系学部の新設ブームがありました。日本は高齢化社会になるので、そのための人材が必要。だったら、福祉系学部を新設すれば学生が集まるに違いない。
高齢化社会になったのは事実ですが、新設した福祉系学部はその大半が苦戦します。
社会福祉士は国家試験であり、その出題範囲は生物(人体の構造・疾病)から経済(福祉行財政と福祉計画)まで広範囲です。
合格率が高いのは、福祉系の伝統校、難関私立大と国公立大などに限られ、新設校はその多くが苦戦します。
第一福祉大学も苦戦し、2006年は不明(この年は合格率データを厚生労働省が公表せず/推定7~10%)も、2007年:6.8%/平均25.1%、2008年:5.0%/平均27.1%、2009年6.4%/平均27.7%、2010年:5.9%/24.5%と、いずれも平均を大きく下回ります。
テコ入れしようにも、そう簡単ではなく、同大は、やる気を失った、とすら思えます。
それもあってか、改称した2008年7月、大学の通信制で専任教員不足を文部科学省から指摘されます。
それでも、改善されず、2009年には、
「専任の教員が基準の97人を満たしていない状態が続き、昨年度(※2007年度)は26人、今年度(※2008年度)は32人の欠員が出ているということです」(2009年1月28日・NHKニュース)
その結果、文部科学省は福岡医療福祉大学を運営する学校法人都築俊英学園に対して、5年間、学部新設を認めない処分としました。
この結果、2010年に「学生の福祉離れで定員割れが続き、経営が苦しかった」として、募集停止。2014年に廃校となります。
この大学、グレーというか、モヤモヤ感が抜けないのは、やる気のなさです。
募集停止後の週刊ダイヤモンド特集(2010年9月18日号「特集 壊れる大学」)によると、
「学校法人『都築俊英学園』は、223億円の債務超過が判明。学園側は『内部取引なので影響ない』と言うが、学校法人としては異例の事態だ」
とのこと。この巨額の赤字を抱えた学校法人と都築グループの大元である学校法人都築育英学園が2017年に合併。大学は、都築学園グループの日本経済大学(2010年に第一経済大学から改称)が利用しています。
文部科学省の教員不足の指導を無視するあたり、途中で見切りをつけて、「福祉離れ」を理由にリストラした、とも考えられます。
もっとも、今となってはやぶの中。東和大学と同様、日本経済大学サイトでも沿革には、第一経済大学の開学・廃校が一切書かれていません。
◆揶揄されて、募集停止後もトラブル続き…聖トマス大学
●聖トマス大学
開設:1963年(開設当初は英知大学)
募集停止:2010年
廃校:2015年
学部:人間文化共生学部
立地:JR尼崎駅から15分圏内(バスで12分、下車すぐ)
解説:聖トマス大学は、カトリック大阪大司教区が1963年に設立したキリスト教系大学です。開設時は英知大学であり、神学部のみの単科大学でした。翌年に文学部を開設(神学部は文学部神学科に)。
小規模校ながら、日本で唯一のキリスト教区設立の大学、カトリック大学としては近畿圏で唯一の男女共学、しかも、尼崎駅から20分圏内という好立地など条件が重なり、1990年代までは順調でした。
関西圏以外の方は、尼崎と言われても、いまいち理解されない方もいるかと思います。
ご説明しますと、尼崎市は兵庫県と言いつつ、大阪府にかなり近い位置にあります。
JR神戸線だと、尼崎駅から大阪駅までは新快速で6分。神戸市の中心駅・三ノ宮駅へは新快速で16分。尼崎市がいかに大阪に近いか、明らかです。
尼崎駅からバスで15分圏内にある英知大学は、尼崎市だけでなく、大阪市や神戸市などからの学生も期待できる立地にありました。
英知大学の先行きが暗くなったのは1990年代後半から、ネットの検索・揶揄が影響します。
当時、アダルト系出版社として英知出版社がありました。
40代以上の男性だと、「デラべっぴん」「ビデオボーイ」などアダルト系雑誌の出版社、と言えば、「あー、あれか」とご理解いただけるはず(声に出さなくてもいいですが)。
英知大学関係者の名誉のためにお伝えすると、英知大学と英知出版社は全くの無関係です。
英知出版は1973年設立で1977年から英知出版と改称しました。1980年代ごろまでは、特に大きな話題となることもなかったのです。
ところが1990年代、ネットが普及し始めると、英知大学はこのアダルト出版社への対応に苦慮することになります。
ネットが普及すると、受験生やその保護者もネットで大学情報を得るようになります。他大学だと何の問題もないネット検索、これが英知大学では、「英知」だけだと、英知出版がヒットしてしまったのです。
そのうえ、読みが「えいち」なので「エッチ」とも読めるため、「エッチ大」と揶揄されることも。これはこれで、ネットの普及でさらに広がることになった、と見られます。
類似名称に語感などくだらないと言えばその通り。ですが、大学はイメージも大事なので、馬鹿にはできません。
似た事例では、近畿大学の英語名称「Kinki Univercity」があります。近畿だから「Kinki」になって当然なのですが、変態を意味する「Kinky」と語感がほぼ同じ。
日本人学生はともかく、海外からの留学生は留学先を「変態大学です」と話すわけで、これは抵抗感がないわけがありません。
そこで、近畿大学は2014年、2016年の国際学部開設に合わせて、英語名称を「Kindai University」に改称することを発表します。
塩崎均学長は「海外の学会で自己紹介をすると失笑され、良い気持ちはしなかった。近畿は由緒ある言葉だが、名称を変えた方が留学生は来やすい」と話している。
※中日新聞2014年5月23日夕刊
国際化がさらに進んだ現在では、この方策はなかなか妙策だった、と言えるでしょう。
話を英知大学に戻すと、近畿大学と同じ悩みから、行きついた先が大学名称の変更でした。
そして、2007年に聖トマス大学に改称します。
聖トマスとは、中世の哲学者で神学者の聖トマス・アクィナスから。この「聖トマス」の名を冠することにより、カトリック系大学の世界連合組織「聖トマス・アクィナス大学国際協議会」に加盟できるのがメリットで、実際に、同年、加盟しました。
2008年には文学部を人間文化共生学部に改称。2009年には身近な人の死を研究するため、日本グリーフケア研究所を開設します。この研究は地味ながら重要、かつ、社会的にも意義があるもの、と評価できます。
ところが、学生集めは苦戦が続き、2009年、募集停止を発表します。
敗因は、大学名称と学部名称です。いくらアダルト系出版社と混同されやすいとは言え、伝統校名を捨ててまで聖トマス大学にする価値があったか、客観的には疑問です。
事情を知らない高校生からすれば「聖トマス?どこ?」で終わりです。当時の大学関係者サイトによると、「聖トマス・アクィナス大学国際協議会」に加盟でき「教員や学生の交換、経営面でのサポートを受けられる」としています。
しかし、この国際協議会、カトリック関係者の間ではすごいものかもしれませんが、一般人からすれば、全く価値が見出せません。知名度の高い大学もあるわけでなし、そこに留学できると言われても、困るわけで。
苦労して改称した大学名は実は意味がありませんでした。
混同を嫌った英知出版は聖トマス大学に改称する2カ月前の2007年3月、事業停止、4月に破産を申し立てます。
英知大学を苦しめたネットの普及は英知出版も例外ではありませんでした。アダルト系雑誌を買わずとも、ネットで十分となってしまったからです。
2008年に改称した学部名も、人間文化共生学部と言われて、理解できる受験生はごくわずか。
なじみのない大学名に学部名のコンボ、これではいくら好立地でも学生は集まりません。
そのうえ、頼みの綱とした国際協議会が役立ったかどうかは疑問です。
さて、この聖トマス大学、2009年の募集停止決定後も迷走します。
2010年から募集停止となり、そのままか、と思いきや、2011年6月、日本国際大学への改称と、国際教養学部、健康科学部の新設方針と文部科学省への申請を発表します(神戸新聞2011年6月21日朝刊)。
「世界28カ国で55以上の私立大学運営に携わるネットワーク『ローリエット・インターナショナル・ユニバーシティーズ』から支援の申し入れがあり、昨年11月に受け入れを決めたという」
※朝日新聞2011年6月25日朝刊大阪地方版
教員の具体的な人名も挙がり、受験雑誌などにも「日本国際大学」が掲載されます。
ところが、同年8月、学部新設書類の虚偽記載で大学側は申請を取り下げ、文部科学省は2年間、新設申請を受け付けないペナルティを課しました。
法人側によると、昨年11月から申請の準備を始め、業者に依頼して大量の英語の書類を翻訳してもらった。だが、学内で翻訳後の書類を点検する時間が足りなかったという。
※朝日新聞2011年8月31日朝刊大阪地方版
2014年には最後の学生1人が卒業、とうとう在籍者ゼロとなります。それでも、2014年1月時点では看護学部新設を目指していました。
それも、5月には方針を転換し、2015年の廃校を決定します。
廃校・募集停止となった16校のうち、募集停止後に方向性が二転三転したのは、この聖トマス大学だけです。
大学跡地は大学の寄付を受けた尼崎市が市の教育・子育て支援拠点「ひと咲きプラザ」を2019年に開設。
日本グリーフケア研究所は上智大学に2010年、移管となり、上智大学グリーフケア研究所として現在も活動しています。
◆学部名からの分析~はっきりしないと逃げられる
続いて、学部名から分析していきます。
分かりやすい(A)…東和・工、愛知新城大谷・社会福祉、神戸ファッション造形・ファッション造形、神戸夙川学院・観光文化、上野学園・音楽、恵泉女学園・人文、広島国際学院・工
微妙(B)…福岡医療福祉・人間社会福祉、東京女学館・国際教養、創造学園・ソーシャルワーク、創造学園・創造芸術、福岡国際・国際コミュニケーション、恵泉女学園・人間社会、広島国際学院・情報文化
分かりにくい(C)…三重中京・現代法経、聖トマス・人間文化共生、LEC東京リーガルマインド・総合キャリア、保健医療経営・保健医療経営
番外…創造学園・創造芸術・芸術・肉体表現
各ランクは、筆者の独断と偏見、それから「事情を知らない受験生や保護者、高校教員はどう見るか」という視点から振り分けました。
「分かりやすい(A)」は、工学部、社会福祉学部、音楽学部など、誰もが分かるところでしょう。
「分かりにくい(C)」も順当なところでしょう。現代法経学部は読みが「ほうけい」なので「包茎」を連想される時点でアウト。なぜ、開設当初の政治経済学部で頑張らなかったか、疑問です。
保健医療経営、総合キャリア、人間文化共生はなじみがなさすぎてアウト。
「微妙(B)」のうち、情報文化学部は、文系か、理系か、分かりづらさが出てしまっています。前身が情報学部と現代社会学部で統合したからなのでしょうけど、これは下手に統合しない方が賢明でした。
◆学部名偏差値比例説と「学部名のジレンマ」
さて、「微妙(B)」に分類された学部名は、国際教養学部、人間社会学部、国際コミュニケーション学部など、現在も他大学で存続する学部名があります。
国際教養学部だと、早稲田大学、千葉大学、上智大学など。
人間社会学部だと、日本女子大学、福岡県立大学、昭和女子大学など。
国際コミュニケーション学部だと、群馬県立女子大学、愛知大学、専修大学など。
では、他大学が使ってもダメか、と言えばそうではありません。
その理由が学部名偏差値比例説です。
学部名偏差値比例説とは、中編の福岡国際大学の項目でご紹介した国際系学部偏差値比例説とほぼ同じです。
すなわち、偏差値が中堅以上の私立大、または国公立大が利用していると、珍しい学部名称でも違和感なく受け入れられます。ところが、中堅より偏差値が下の大学が利用すると、途端にイメージされにくくなり、偏差値に比例して受験生が集まりにくくなるのです。
中堅より下、とは、具体的には、首都圏だと大東亜帝国クラス、関西圏だと摂神追桃クラスです。首都圏・関西圏で、これより偏差値が下の大学だと、変にひねった学部名称だと、違和感を持たれることになります。
それと、学部名称偏差値比例説は、就活にも影響します。
大学がいくら、学部名称にこだわっても、企業の採用担当者は、そのこだわりを理解しません。そもそも、大学事情に詳しい採用担当者は多くありませんし。
その採用担当者は、中堅より上の私立大学であれば、学部名が何であれ、「×大学でしょ、学部はよく分からないけど」で特に気にしません。
関西大学は2007年に政策創造学部、2010年に社会安全学部をそれぞれ開設しました。当初は、日本ではほぼない学部名ということで就活への悪影響もあるのでは、と思いきや、1期生から現在に至るまで、全くの無関係。理由は簡単で、採用担当者からすれば、関西大学だからです。
これが新設校や地方の小規模校などだと、「大学名も聞いたことがないし、学部名も聞いたことがない。どんな学生か、分からない」となってしまいます。
大学だけでなく、就活も取材テーマである私からすれば、学部名称は変にひねらない方がいいし、それが中堅より下の私立大学ならなおさらです。
さて、この学部名称偏差値比例説に対して、反論もあるでしょう。主に、中堅より下の私立大学関係者から、と推察しますが、「オーソドックスな学部名だと、他大学と同じで埋もれてしまうはず。他大学と差をつける必要があるのでは?」との反論も出てくるでしょう。
実際に、これまで、大学教職員の会合や取材などで、これに近い話を聞いたことが何度もあります。
中には「そこまで言うなら、うちの学部名、いいのを考えてくださいよ」と言われたことも。
この反論を私は「学部名のジレンマ」と呼んでいます。
中堅より下の私立大学が学部名を付ける際、オーソドックスだと埋没してしまう、差別化を図れば理解されなくなる、では、どうする、どうする…。
大河ドラマではないですが、どうする学部名。
なお、私は大学ジャーナリストであって、大学のコンサルタントではありません。学部名選定は謹んでお断りします。
そもそも、「学部名のジレンマ」を解消できる手腕があるなら、私はとうの昔に大学ジャーナリストを廃業しています。
◆一字違いで天地の差に
学部名に話を戻すと、番外というか、論外なのが、創造学園大学創造芸術学部の芸術学科肉体表現コース。
芸術学科で肉体表現?
あらぬ想像をした方もいるはず。創造学園大学だけに(やかましい?)。
このコースは芸術学科と言いつつ、サッカー、野球、駅伝、ダンス、演劇にさらに分かれました。スポーツ系とダンス・演劇を融合したコースだったので、共通項として「肉体表現」に落ち着いたのではないでしょうか。
無理に一緒にしなくても、スポーツ系は学部として独立させていれば済んだはず。
もっとも、学部にするほど予算がないので、まずは芸術学科のコースにする、という戦略は理解できなくはありません。
それにしても、肉体表現コースはあんまりと言えばあんまりなネーミングでした。
入学後に、学生が対外試合や就活で迷いなく、「肉体表現コース所属です」と話せるでしょうか?
廃校となった大学や、苦戦する大学の分析を進めると、学部名称は大学の都合を優先し、学生の立場を考えていない傾向が強く出ています。
肉体表現コースがその典型。もう少し、名称をきちんと検討していれば違った展開があったはず。例えば、一字違いで「身体表現コース」、これなら、肉体表現コースほどひどくはありません。
現在でも、玉川大学芸術学部演劇・舞踊学科身体表現コース、明治学院大学文学部芸術学科演劇身体表現系列などの例があります。
わずか一字ではありますが、客観的にどう見えるのか、聞こえるのか、その配慮の有無が明暗を分けてしまいました。
学部名からは、廃校・募集停止となった大学のうち、16校のうち9校が受験生にとって分かりづらい学部名だったことが判明しました。
◆大学名からの分析~看板からして分からない
改称で失敗…立志舘、聖トマス、広島国際学院
地名で失敗…愛知新城大谷、神戸ファッション造形
不明瞭さで失敗…LEC東京リーガルマインド、創造学園、保健医療経営
続いて、大学名から分析します。大学名はその大学の看板であり、認知されるかどうか、大きく左右します。
開設時の校名で失敗した、と言えるのは5校。
保健医療経営大学は、学部名と同様、医療系なのか、文系なのか、全く理解できません。医療事務職を養成したい、という理念は理解できますが、大学名としては失敗作です。
専門学校のイメージをそのまま使おうとしたのがLEC東京リーガルマインド大学。狙いはいいのですが、あまりにも強すぎて逆効果に。しかも、専門学校と同じ授業をすることが判明すると、大学名がむしろイメージ悪化に拍車をかけてしまいました。
この逆にイメージが全く沸かない点で損をしたのが創造学園大学。高崎に立地しているのだから、高崎創造大学または群馬創造大学くらいなら、地元志向の高校生がもう少し多かったかもしれません。
もっとも、校名に地名を入れればいい、という問題でもなく、その点で損をしたのが愛知新城大谷大学。新城にある、と分かった瞬間に地理事情を理解している愛知県の高校生は7割が志望校候補から外してしまいます。愛知県外の読者にご説明しますと、新城市は、名古屋市など尾張エリアからは遠く、豊橋市でもまだまだ、JR飯田線で50分。長篠城跡のある、東三河の小都市です。
かと言って、ウソがあってもまずく、神戸ファッション造形大学は神戸を冠しつつ、立地は明石市。いくら、神戸の隣とは言え、誇大広告と敬遠されても仕方ないでしょう。その神戸市にはファッション系の大学や専門学校が複数、存在するわけですし。
改称後の校名で損をしたのが立志舘、聖トマス、広島国際学院の3校。
立志舘大学は改称前の広島安芸女子大学も県名と旧国名を重ねるのはくどい、というツッコミもあります。それでも、経営が順調だった広島女子商短大のイメージに重ねているので悪くはありません。しかし、共学化したとは言え、前身のイメージが全く消えたのはもったいない戦略でした。
同じことは聖トマス大学にも当てはまります。アダルト出版社である英知出版のイメージを消したかったとは言え、受験生に全くなじみのない校名はやり過ぎでした。その事情は本稿でもご説明した通りですが、キリスト教・カトリックの内部評価と一般の評価がかい離していました。
改称でもっとも損をした、と感じるのが広島国際学院大学です。その前の広島電機大学で長くやってきたのですから、いくら志願者減で文系学部を新設したとは言え、イメージを消したのは戦略ミスです。しかも、類似校名として広島国際大学の開設を地元紙報道などで把握していたのであれば、なぜ、重複を避けなかったのか、疑問です。
◆期間からの分析~半数は12年以内で募集停止
続いて、開設から募集停止までの期間から分析します。
4年…1校(立志舘)
5~10年…6校(神戸ファッション造形、愛知新城大谷、LEC東京リーガルマインド、神戸夙川学院、福岡医療福祉、創造学園)
11~12年…2校(東京女学館、保健医療経営)
13~20年…1校(福岡国際)
21年以上…6校(三重中京、東和、恵泉女学園、聖トマス、広島国際学院、上野学園)
最速で募集停止となったのが立志舘大学です(募集停止年に廃校)。
同校含め、10年以内の募集停止が7校、12年以内と広げると9校。
16校中9校が12年以内という早期に募集停止に追い込まれています。
一方、開設後21年以上での募集停止も6校(最長は上野学園の63年)。伝統校も決して安泰ではありません。
この期間からの分析では、開設12年以内の募集停止が9校と半数を占めました。これは、開設前の見通しが甘かった、あるいは不十分だったことを示しています。
情報公開の観点からの分析、私立大約半数の定員割れの虚実、私立大学の新設抑制と未来予測については、近日公開の「最終章」をお待ちください。
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