#KuToo、フリーランスへの賃金補償、感染症対策を取り上げた日本共産党・小池晃議員の良質疑
新型コロナウイルス対策を中心に様々なテーマで論戦が繰り広げられている参議院予算委員会。
3月3日の参院予算委員会では、日本共産党・小池晃議員が女性にヒール・パンプスを強制する「#KuToo」を取り上げ、安倍晋三首相と意見が一致し、与野党の議員からも大きな拍手が起こる大変珍しい一幕となった。
他のテーマも含め、重要な言質を引き出す良い質疑となったため、気になった部分を文字起こしで紹介したい(太字は筆者強調)。
予算委員会の全編は参議院のHPから見ることができる。
フリーランスに給付金を
小池議員:(新型コロナウイルスによる臨時休校を受けた保護者への)新しい助成金制度はフリーランスが対象ではないという話だったが、何かやるんでしょうか?
安倍首相:フリーランスを含む個人事業主についても強力な資金繰り支援をはじめしっかりと対策をしていきたい。
小池議員:サラリーマンの親には全額助成をする。フリーランスや個人事業主には貸付をする。おかしくないか?
安倍首相:事業主に対しては経営が成り立つように、資金繰り等について支援をしていく。被用者については企業等に有給休暇等を取ることを促すとともに、中小・小規模事業者のみなさんについても、そこの被用者の給与の減少を給付という形を含めて対応していきたい。
小池議員:フリーランスというものがよくわかっていないと思うんですが、例えば劇団員、音楽家、この間の自粛でコンサート、公演が中止になって収入が断たれている。そういう人に貸付があると言っても、話にならない。損失補填をしないとダメじゃないですか。例えば山梨県は、感染者とか濃厚接触者に限ってですが、1日4000円の給付金を出すということをやるそうです。サラリーマンに給与補償するのであれば、フリーランスの人にも給付金という形で検討すべきではないか?
安倍首相:フリーランスの方々については、個人事業主ということでもあるので、そういう観点からどのような対応ができるのか、それぞれの人たちに直接声を伺う仕組みを作って、その上で対応していきたい。
貧弱な感染症対策
小池議員:アメリカは年間予算120億米ドル(1兆3000億円)、国民一人あたり40ドル。常勤職員14000人、それ以外に契約職員が1万人。(日本の)国立感染症研究所の200倍の予算、40倍以上の人員でやっている。
すぐにアメリカ並みの水準は難しいと思うが、日本でも十分な予算、十分な人材、他の機関との綿密な連携、そして政治から独立した感染症対策のセンターが必要じゃないかと。
総理は「国を守る」というのであれば、こういうところに潤沢な予算を注ぎ込む。アメリカのCDCのような体制を作っていくための第一歩を、今回を機会に国立感染症研究所の抜本的な強化をすべきではないか?
加藤勝信厚生労働大臣:制度の違いもありますので、直ちに導入するということにはならないと思うが、今回の感染症への対策を考えて、組織面、人員面、能力面、予算面でも充実を図るべく、努力をしていきたい。
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感染研の予算・定員の減少については、昨年4月に日本共産党・田村智子議員が指摘。是正を訴えていた。
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男女間の賃金格差が最も大きい日本
小池議員:G7の中で、日本はフルタイム労働者の男女間賃金格差が最も大きい。しかも女性は非正規の比率が高いので、実際にはもっと格差が大きい。厚労省はこれをどう打開しようとしているか?
加藤厚労大臣:男女間の賃金格差は、管理職における男女の比率の違い、勤続年数の違い、こういったことが主な要因となっている。そのため、女性の管理職への登用を進めるとともに、職業と家庭生活を両立しやすくすることなどを通じて、女性が働きやすい環境を作り、男女間の賃金格差の改善を進めていきたい。
厚労省では、昨年5月末に成立した改正女性活躍推進法において、管理職比率の目標設定や行動計画の策定義務の対象範囲をこれまでの従業員301人から101人以上の事業主にまで拡大した。また保育の受け皿の整備も進めている。
小池議員:勤続年数が短いと言うけれど、賃金構造基本統計調査でも入社時点で既に男性の86%程度になっている。
情報公開は第一歩ですが、昨年の女性活躍推進法の審議の際に、(男女の)賃金格差の公表は義務付けられなかった。省令で必要に応じて把握しなければならないとあるだけ。把握することすら、必要に応じてであり、義務ではない。
これでどうして是正が進むのか?
加藤厚労大臣:義務化はしていないが、一方で男女の賃金の差は、各企業における女性活躍推進のための取り組みを図る上で大変重要な指標であるということから、行動計画の策定指針において、その積極的な把握を行う重要性を明記するなど、事業主が積極的な把握に務めることを促す対応も行っている。さらに、この取り組みをよくしているという企業に対して、「プラチナえるぼし」というものを出すことにしているが、男女の賃金の差異の把握をしっかり行っている、ということも認定基準の一つに入れている。
小池議員:なぜ義務にしないのか?
加藤厚労大臣:男女の賃金の差異は複合的な要因の結果であることから、単純な企業間比較が難しく、一律に公表すると求職者の誤解を招く恐れがある。その主な原因である男女間の管理職比率と勤続年数の差異は、必ず状況把握が必要な項目になっている。また企業負担を考慮すると、義務化までは慎重な検討が必要である、等の意見から義務にはなっていない。
小池議員:企業側の要求がそうであったということだと思うが、労働政策研究機構の調査では、男女間の賃金格差指数を定期的に計算・分析している企業はわずか3.3%。8割の企業は「計算したことがない」と言っている。
自主性に委ねていたら、男女賃金格差を把握して解消する取り組みは少ないまま。企業をして、性差別の解消、男女間の格差縮小に本気で取り組ませるためには、まず企業自身に把握をさせて、気づかせなければならない。
そのことも否定するんですか?
加藤厚労大臣:企業自身に男女の賃金格差をしっかり認識して頂き、それを解消するための取り組みを促すことは重要。そのための施策が女性活躍推進法そのもの。
一方で、労働政策審議会の議論でも、女性活躍を推進するために、新規で女性をたくさん採用した企業は勤続年数が短くなるため、どうしても男女間格差が広がってしまう。そのため、男女の賃金格差が的確な指標なのかどうか、指摘があった。
小池議員:イギリスでは、企業の自主性に委ねていたら全然進まなかったから、2017年に情報公開を義務付けたという経緯がある。
法律で義務付けること無しに、企業に気付きはない。
有価証券報告書では、1999年3月まで、平均給与月額、平均勤続年数、従業員数、を全部男女間で開示していた。なぜ止めたのか?
麻生太郎財務大臣:本来有価証券報告書は、投資者の投資判断に資することを目的として、企業の事業内容や財務内容の開示を求めるというものが本来の趣旨。そのため、男女別の平均給与月額の開示義務化は投資者にとって有用であるか、開示する企業の負担等々を考えて、慎重に検討することが必要。義務付けられてはいないが、自主的にやっているところはやっている。
小池議員:なんで止めたんですか?ジェンダー平等を重視している企業かどうかは投資にとっても重要。
麻生財務大臣:投資者の投資判断にとって有用性があるかどうか、企業の負担等々総合的に考えた結果、改正している。
小池議員:企業にとって負担になるが、そういう情報を開示することは社会にとって大きなメリットになる。
財務省の財務総合政策研究所のレポートで、「男女間の賃金格差については、女性の活躍に関する進捗を図る観点でも有効な指標であるにもかかわらず、企業内部では把握が義務化されておらず、外部からも確認できない状態になっている。働く女性が直面している男女間の賃金格差の解消は、男女平等を推し進めるのみならず、女性および次世代を担う子どもの貧困リスクの減少にも寄与すると考えられる」と書かれている。
個人的な意見であると書かれているが、真っ当な意見だと思う。
アイスランドでは、2018年に同等業務に従事する男女従業員に同額賃金を支払うという証明書の取得を使用者に義務付けることをやっている。これをやらなければ、罰金まで課している。
世界はそういう方向に進んでいる。
第一歩として、男女の賃金格差の公表を義務付ける。そうすべきだと思いますが、総理いかがですか?
安倍首相:ダイバーシティを重視する経営は、まさに世界の常識になっている。また女性の目線や女性の力を生かせない企業はマーケットから評価されないということは事実だと思います。
こうした観点から、安倍内閣は発足以来、女性活躍の旗を掲げて、女性の就業、コーポレートガバナンス改革などに取り組んできている。ジェンダー平等なくして21世紀の未来を切り開くことはできない。
その中で男女の賃金格差の公表義務化が、その方向性に合致するのか、今後も検討していきたい。
安倍首相「女性に苦痛強いる服装強制は許されない」
小池議員:職場におけるジェンダー平等のための課題は、賃金格差だけではありません。昨年6月にILO(国際労働機関)総会で採択された暴力とハラスメントを禁止する195号条約、日本政府も賛成しましたが、その内容と意義について総理はどのようにお考えですか?
安倍首相:働く人の尊厳や人格を傷つけることはあってはならない。こうした観点から、日本政府としては、これに対応するための新たな国際労働基準としての意義は大きいと考え、昨年6月のILO総会における195号条約の採択に賛成しています。この条約に関しては、国内法制との整合性を今後さらに検討する必要があるが、まずは先般成立したハラスメント防止対策を強化する改正法の着実な実施等を通じて暴力とハラスメントのない世界の実現に向けて引き続き尽力していきたい。
小池議員:#KuTooという運動があります。#KuTooとは、靴、苦痛、そして性暴力を告発する#MeToo、それらを合わせた言葉で、同じ職種・仕事内容であれば、女性にも男性と同じヒールのない革靴の選択肢を与えてください、と。
パンプス・ヒール、人によっては外反母趾になる、足から血が出る、靴擦れ、腰に負担がくる、様々な健康被害を招きます。加えて、仕事をする上で動きづらい・走れない・足が痛くなる。これは差別の問題だけではなく、健康問題であり、労働問題です。
昨年1月に女優の石川優実さんがツイッターに「私はいつか女性が仕事でヒールやパンプスを履かなきゃいけないという風習をなくしたい。なんで足怪我しながら仕事しなきゃいけないんだろう、男の人はぺたんこぐつなのに。」と投稿し、多くの共感を集めました。署名は6月に厚労省に提出され、その後も広まり、3万2千人が賛同しています。(change.org「#KuToo 職場でのヒール・パンプスの強制をなくしたい!」)
こういう声に耳を傾けるべきだと思いませんか?
安倍首相:職場における女性に対するパンプスの着用の強制をなくすよう求める#KuToo運動が行われていることは承知しています。職場での服装に関しては、単なる苦痛を強いるような、合理性を欠くルールを女性に強いることは許されないのは当然のことだろうと思います。
一方で、個々の企業の提供するサービスや業務の内容、社会的な慣習等、さまざまな事情を踏まえ、各企業でルールが設けられていることが考えられ、その適宜を政府として一概に判断することは難しい。そのため、職場の服装のルールに関しては、まずはそれぞれの職場において労使でよく話し合って頂くことが重要であると考えています。
いずれにしても、パンプスの着用を強制するような、苦痛を強いる合理性を欠くルールを女性に強いることは許されないのは当然のことだろうと考えています。
小池議員:大変大事な答弁だったんではないかと思います。具体例をお示しすると、これは日本航空の女性客室乗務員の制服規定です。
この制服規定では、指定品として機外ではヒール高3センチ〜6センチのパンプス、機内に入る時に高さ3センチ〜4センチ、横幅3センチ〜4センチとしている。
パンプスを履きたい人は履いていいんですが、女性にだけ特別の高さのヒールのパンプスを履きなさいというのは明らかに差別ではないかと思います。
職場で話し合うだけではなく、国としてきちんとそういったものについて指針のようなものを示していく必要があるのではないか。
業務上の必要性云々というのがありますが、私は女性の客室乗務員にだけパンプスを履く業務上の必要性は感じない。飛行機に乗ったら、緊急時の脱出のビデオが流れますが、ハイヒール脱ぎましょう、パンプス脱ぎましょうとやるじゃないですか。
今度JALはLCC(ジップエアートーキョー)を新たに発足させるが、その企業は客室乗務員も地上職も操縦手もみんなスニーカー着用。
このほうがよっぽど合理性があると思います。
所管する厚労大臣はどう思いますか?
加藤厚労大臣:提供するサービス、業務の内容、社会的な慣習等さまざまな事情がありますので、一概に我々が判断するのは難しいと思いますが、男性は自由、女性はこうだ、というのは男女平等の観点からしても正しくないと思います。
小池議員:そういう答弁を国会で明確にして頂いたのは、初めてではないかと思いますので、私は評価したいと思います。
イギリスでは、政府平等局がドレスコードと性差別について知っておくべきことというのを発表しました。その中では、「この指針は、服務規定を作る雇用主とそれを守らなければならないかもしれない従業員および求職者のためのものである」と書かれている。
守らなければならないかもしれない求職者、要するに就活なんかです。
実際にはこういう明文のない企業もいっぱいあります。連合の昨年10月の調査では、パンプスのヒールの高さに決まりがあると答えた方は19.4%で、2割近くになりますが、暗黙のルールがある。それを象徴するのが就活の女子学生のパンプスです。こういったことに対して、きちんとイギリスでは規制している。
総理、ILO195号条約に基づく法整備も必要だと思います。
男女賃金格差、ジェンダー平等に反する服装規定をなくしていくような政治の責任が問われているのではないか。
安倍首相:ILO195号条約はジェンダーに基づくものも含めて、世界の仕事における暴力およびハラスメントを防止するために加盟国が取るべき取り組み等について規定しているが、例えば男女の賃金の差異のみをもってハラスメントと位置付けているわけではない。
一方で、男女間の賃金格差の改善や職場におけるジェンダー平等を図ることは重要な課題であると認識しています。
これまでも男女雇用機会均等法に基づく性差別の是正や、女性活躍推進法に基づく行動計画の策定・実施等の取り組みを推進してきました。
引き続き、男女雇用機会均等法の履行確保や改正女性活躍推進法の着実な施行等に取り組むことにより、男女間の賃金格差の改善や職場におけるジェンダー平等の確保に努めて参りたい。
小池議員:女性だけに苦痛を強いる服装規定は、政治の力でなくしていく、そうした政治の決意を最後に一言語って頂けませんか?
安倍首相:職場の服装について、単に苦痛を強いる、合理性を欠くルールを女性のみに強いることがあってはならない。男性と女性が同じ仕事をしているにもかかわらず、女性の服装に対してそういう苦痛を強いることはあってはならないことは明確に申し上げておきたいと思います。
小池議員:パンプスの強制着用に反対する運動をやられている皆さんが大変勇気づけられる答弁だったのではないかと思います。安倍首相との質疑でこういう最後になるというのは、今まで経験のないことではありますが、何でもダメだと言うわけではありませんので、前向きに進めるためにこの点では力を合わせたいと思います。