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空の旅と「マイル修行」は新しい形へ。コロナ禍では闇修行も【#コロナとどう暮らす

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
那覇空港で出発準備中のANA機・JAL機(筆者撮影)

 新型コロナウイルスを経験したことによって、私たちの暮らしは今後どのように変化するのだろうか。Yahoo!ニュースの「みんなの意見」を参考に、著者なりの見解を述べたいと思う。

 新型コロナウイルスの影響が出始めた3月下旬、航空会社のマイルを貯め、上級会員のステータスと特典獲得を目指す「マイラー」たちは、頭を悩ませていた。ANAから「今年6月30日搭乗分までのプレミアムポイントを2倍にする」という衝撃的な発表があったからだ。後を追うように、JALも同25日に2月1日~7月31日搭乗分のFLY ONポイント2倍を発表した(JALは5月10日予約分までが対象)。

 乗るべきか・乗らざるべきか──。思わぬ“誘惑”を前にマイラーたちはどう行動したのか。そして、アフターコロナのマイル修行の形は。マイラーの今を追った。

自粛の動きのなかでの2倍ポイント発表

 本来、この2倍キャンペーンのターゲットは、上級会員の多くを占める、出張や単身赴任先との往復で飛行機に乗るビジネスパーソンだった。こうした人たちが移動自粛の影響で、翌年の上級会員に到達できない可能性が高いことからの救済策でもあった。

 マイラーたちは普段、国内線に搭乗し続け「マイル修行」に励んでいる。旅先でも、観光や宿泊などはあまりせず、短期間でできるだけ飛行機に乗り続ける。機内にいる時間が長いことから「修行」と言われるのだ。

 マイル修行に必要な経費が、通常の半分で済む──。日々、修行を積むマイラーにとっては“搭乗欲”を煽られないわけがなかった。

ゴールデンウィーク初日の4月29日、ほとんど乗客の姿が見られなかった(2020年4月29日、筆者撮影)
ゴールデンウィーク初日の4月29日、ほとんど乗客の姿が見られなかった(2020年4月29日、筆者撮影)

5万ポイントと10万ポイント、2つの目標

 マイラーたちはそもそも何を目指して「修行」に励むのか。ゴールは主に2つに大別できる。

 1つは、1月~12月までの1年間に5万ポイント分獲得することで達成できるステータスのANAマイレージクラブ「プラチナ」、そしてJALマイレージバンク「サファイア」を目指すマイル修行だ。

 これらのステータスになると、上級会員として出発空港でラウンジが利用できるほか、手荷物の優先引き渡しや優先搭乗、空席待ちの優遇などのサービスが受けられる。上級会員だけが入会できるクレジットカードもある。入会すると、年会費を払い続けるだけで、ステータスを維持でき、このために1年間限定で修行する人もいる。

 もう1つは、プラチナ・サファイアのさらに上のステータスを目指す「ダイヤモンド修行」だ。ANA・JALともに同じ名称で、ダイヤモンドになるとラウンジもグレードアップする。国際線のラウンジでは、シェフが目の前で調理してくれるなど、出発までの時間にVIP気分を味わうことができる。ただ、ダイヤモンド会員になるには1月~12月までの1年間に10万ポイントが必要。資格も1年ごとに更新されるため、継続するには毎年10万ポイントを目指さなくてはならない。

JALダイヤモンド会員などが利用できる専用入り口(以下全て筆者撮影)
JALダイヤモンド会員などが利用できる専用入り口(以下全て筆者撮影)
国内線の最上級ラウンジ「ダイヤモンド・プレミアラウンジ」(2019年9月撮影)
国内線の最上級ラウンジ「ダイヤモンド・プレミアラウンジ」(2019年9月撮影)
羽田空港「ダイヤモンド・プレミアラウンジ」で提供される食事(2019年9月撮影)
羽田空港「ダイヤモンド・プレミアラウンジ」で提供される食事(2019年9月撮影)

1年間で沖縄34往復相当

 マイル修行で最も効率的にポイントが貯められると名高い路線が「羽田~那覇線」だ。時期・時間帯によっては1ヶ月以上前に購入する早割タイプの航空券で片道1万円を切ることもある。早割タイプの航空券の場合、羽田~那覇の片道で1476ポイントが加算される。

 5万ポイントを獲得するには、単純計算で34回搭乗(17往復)、航空券代は約50万円(1ポイント=10円換算)。10万ポイントでは68回搭乗(34往復)、約100万円が必要とされる。

 

 それ以下の金額で達成する強者もいるほか、会社の出張で足りない分のみ修行で補うマイラーもいる。

那覇空港のANAチェックインカウンター(2019年撮影)
那覇空港のANAチェックインカウンター(2019年撮影)
那覇空港のANA搭乗ゲート(2019年撮影)
那覇空港のANA搭乗ゲート(2019年撮影)

携帯型の消毒液を持参して飛行機に乗ったマイラーも

 緊急事態宣言が発令される前の1月~3月の3ヶ月間で羽田~那覇線を中心に10万ポイントのダイヤモンド修行をした40代男性 に話を聞くことができた。彼は航空会社がポイント2倍にしてくれたお陰で3月中に年内のマイル修行を終えることができたと話す。

 動き出しの早かった彼は2月後半の時点で新型コロナウイルスの蔓延を察知し、まずは3月までに5万ポイントを目指す作戦に変更。そして、3月下旬に早々に5万ポイントに到達した段階で2倍キャンペーンのニュースが飛び込み、ポイントが倍増、期せずして10万ポイント達成を達成してしまった。

 2月末までは全く不安がなかったが、3月に入ってからはコロナの情報に注視しながら修行を進め、3月に入ってからは4月以降、修行が厳しくなるだろうと予測し、ペースを上げたとのことだ。「幸いにも独身で一人暮らしだったこともあって、仕事も完全テレワーク環境で、飛行機に乗る以外は家族も含めて人との接触はほとんどなかった」 そうだ。

 また、気になる3密対策について質問したところ、次のような答えが返ってきた。「羽田~那覇を1日2往復しましたが、那覇空港でもターミナルから一切外に出ません。また携帯型の消毒液を常に携帯し、一定時間おきに消毒するなどの対策もしていました。ちなみに、緊急事態宣言が出てからは一切飛行機を利用していません 」。彼のように自粛要請に従う敬虔なマイラーがいる一方で、緊急事態宣言中も一定数のマイル修行目的で羽田~那覇線に搭乗していた人がいたという情報もある。

那覇中心部の国際通り。修行する人は基本的に空港から外に出ないので繁華街に行かないことが多い(2020年3月、筆者撮影)
那覇中心部の国際通り。修行する人は基本的に空港から外に出ないので繁華街に行かないことが多い(2020年3月、筆者撮影)
3月中旬の羽田~那覇線のANA機内
3月中旬の羽田~那覇線のANA機内

GW直前に現在のステイタスを22年3月まで延長することを発表

 沖縄県が来県自粛を呼びかける中で、羽田~那覇線は4月下旬でANAが1日3往復、JALも1日5往復と大幅減便となったことからフライトパターンは限られ、機内を見渡せば自分と同じことを考えているマイラーだった……という話も聞かれた。

 グレーゾーンスレスレと思われる大きな声では言いにくい行動だったことから、マイラーたちの間では新たに「闇修行 」なる言葉も生まれ、いつもはSNSでアップする人も発信を控えて隠れて修行に励んでいたようだ。このような傾向が見られたことから、ANA・JALは4月24日に現在の上級会員資格の期間を2022年3月まで延長することを発表、現在ダイヤモンド会員の資格を保持している人を中心に、無理を押してまで修行する必要がなくなったことで、これらの動きは落ち着きを見せた。6月19日に県外移動の自粛要請が全て解除されたことにより、従来通りに修行を再開し、SNSなどでアップする人が戻ってきた。

那覇空港でANAのダイヤモンド会員が利用できる「ANAスイートラウンジ」(那覇空港にて2019年撮影)
那覇空港でANAのダイヤモンド会員が利用できる「ANAスイートラウンジ」(那覇空港にて2019年撮影)
那覇空港の「ANAスイートラウンジ」で提供される軽食(2019年撮影)
那覇空港の「ANAスイートラウンジ」で提供される軽食(2019年撮影)
ANAマイレージクラブ「プラチナ」「スーパーフライヤーズ」会員などが利用できる「ANAラウンジ」(那覇空港にて2019年撮影)
ANAマイレージクラブ「プラチナ」「スーパーフライヤーズ」会員などが利用できる「ANAラウンジ」(那覇空港にて2019年撮影)

航空会社のラウンジが新たなテレワークスポットとして注目

 これから夏に向けて2倍キャンペーンは一旦終了してしまうが、マイラーたちのストイックな修行の日々は再び始まる。このアフターコロナ・ウィズコロナの時代において、マイル修行は新しい時代のライフスタイルの一つになり得るかもしれないということに触れておきたい。

 

 テレワークが定着を見せる中、これまでは週末を中心に行われていたマイル修行が、平日にも可能となる。午後や夕方の便で出発する場合には、空港のラウンジ入室資格を持っている人であれば、早めに空港へ向かい、電源、Wi-Fi、コピー機、ドリンクが揃っている航空会社のラウンジでテレワークに励んだ後にフライトする動きも出てくるだろう。携帯電話スペースにノートパソコンを持ち込めば、ビデオ会議も問題なく可能であることから「テレワーク+マイル修行」の組み合わせが浸透する可能性もある。

羽田空港の「ANAラウンジ」。デスクも大きく、無線LANも完備し、更にドリンクも飲めるので快適なテレワーク場所になる(2020年6月、筆者撮影)
羽田空港の「ANAラウンジ」。デスクも大きく、無線LANも完備し、更にドリンクも飲めるので快適なテレワーク場所になる(2020年6月、筆者撮影)
羽田空港「ANAラウンジ」の携帯電話ブース
羽田空港「ANAラウンジ」の携帯電話ブース
携帯電話ブースではビデオ会議も可能(2020年6月、羽田空港内「ANAラウンジ」の携帯電話ブースで撮影)
携帯電話ブースではビデオ会議も可能(2020年6月、羽田空港内「ANAラウンジ」の携帯電話ブースで撮影)

 もちろん上級会員のステータスを持っていれば、今後の旅行においても、出発前のテレワークスポットとしてラウンジの活用も可能だ。筆者も6月は取材なども含めて飛行機利用も再開し、滞在先だけでなく、空港ラウンジ内でビデオ会議をする必要があったが、扉を閉めることができる携帯電話スペースで問題なく15分程度のミーティングができた。私以外でもテレワーク利用している人がおり、今までになかった傾向がラウンジでも見られるようになった。特に福岡空港のJAL「サクララウンジ」を利用した際にはスペースも広くて快適だった。

福岡空港のJAL「サクララウンジ」(2020年6月、筆者撮影)
福岡空港のJAL「サクララウンジ」(2020年6月、筆者撮影)
福岡空港のJAL「サクララウンジ」の携帯電話ブース。扉も閉められるのでビデオ会議も可能(2020年6月撮影)
福岡空港のJAL「サクララウンジ」の携帯電話ブース。扉も閉められるのでビデオ会議も可能(2020年6月撮影)

まずは国内旅行から回復傾向に

 一見「密」な状況と思える飛行機の機内は、全ての空気を3分で入れ替えすることが可能であり、高性能フィルターを搭載していることにより、新鮮な空気が常に循環する環境が整っている。保安検査場手前でのサーモグラフィーによる体温チェックも、羽田空港をはじめ主要空港で実施している。海外への渡航はしばらくの間、難しいことが予想されるなか、マイル修行に限らず、コロナ疲れを癒やすことも含めて、刻々と変わる状況を見ながらも、飛行機で国内旅行に出かけてみてはいかがだろうか。

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ソーシャルディスタンス対策でゲート前でも間隔と取るようにしている(共に2020年6月撮影)
ソーシャルディスタンス対策でゲート前でも間隔と取るようにしている(共に2020年6月撮影)
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6月に入りビジネス客を中心に戻り始めている(共に2020年6月撮影)
6月に入りビジネス客を中心に戻り始めている(共に2020年6月撮影)

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また、Yahoo!ニュースでは「私たちはコロナとどう暮らす」をテーマに、皆さんの声をヒントに記事を作成した特集ページを公開しています。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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