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新型コロナ禍のNY、復調遠く 閑散とした中華街、警察だらけのタイムズスクエア 海にはマスク姿で泳ぐ人

南龍太記者
マスク姿で泳ぐ人=9日

 新型コロナウイルス感染者数が全米最多のニューヨーク州、中でも最も深刻な状況だったニューヨーク市で8日、経済活動が一部再開した。州全域で経済が再び動き出したことになるが、再開された業種は一部の小売業などに限られ、かつての活気を取り戻す日は依然遠い。市内で最も賑わっていた場所の1つ、マンハッタンのチャイナタウンも、閉じている店の方が多く人足はまばらだった。

 一方、ジョージ・フロイドさんの死亡事件をめぐる抗議デモは続き、便乗した略奪行為を防ごうとベニヤ板で急場凌ぎする店も目立った。市内有数の名所タイムズスクエアは多数の警官が配置され、ものものしい雰囲気が漂っていた。従来のような観光を楽しめる気分の街とはまるで違っている。

 数少ない癒しの場を求め、近場のビーチへと足を運ぶニューヨーカーは増えている。しかしマスクを着けて泳ぐ人も散見されるなど、今夏は異様な光景が広がる。

 本格的な経済再開を果たし、かつての街の姿を取り戻せる日はいつになるだろうか。

初感染から100日目

 6月8日はニューヨークで最初に感染者が確認されてからちょうど100日の節目でもあった。最悪期の4月上旬には、市内で1日に感染者が6000人、死者が500人を超えたこともあった。

ニューヨーク市の感染者数の推移、ニューヨーク市のサイトより
ニューヨーク市の感染者数の推移、ニューヨーク市のサイトより

 アンドリュー・クオモ州知事は「私たちは最悪の状態からここまで戻ってきた」と評価した。

 ただ、この日市内で営業再開が認められたのは、4段階に分けられた業種のうち、第1段階の建設業や製造業、一部の小売業などにとどまる。

 通常通りに店内で買い物をしたり、飲食店の屋外スペースを利用したりできるようになるのは第2段階で、様子を見ながら段階的に規制が緩和されていく。

市内の建設の多くはストップしていた=4月、マンハッタン
市内の建設の多くはストップしていた=4月、マンハッタン

 そうしたことから、8日月曜にマンハッタンの中心部を歩いても、前週と比べて人が目に見えて増えたということはなかったように感じる。昨年の今ごろなら街中の路上でここかしこにいたダンサーや大道芸人、演奏をする人はほとんど見掛けない。

 再開された建設業の作業員らが額に汗して工事に精を出し、街には人声よりも工事の音が大きく響き渡っていた。

中華街、人影少なく

 多少の変化があるだろうかとマンハッタンの南方にある中華街(チャイナタウン)へと向かった。中華系の移民が多く暮らし、中国語表記の店が並ぶ賑やかな場所で知られていた。

市の経済再開を伝える中国語のローカル紙=8日、マンハッタン
市の経済再開を伝える中国語のローカル紙=8日、マンハッタン

 しかしと言うか、やはりと言うか、依然としてシャッターが降りたままの店が多く、買い物客は多くなかった。かつては大勢とすれ違っていた路地も、写真の通り閑散としている。

中華街=8日、マンハッタン
中華街=8日、マンハッタン

 局所的に賑わいを見せていたのは、「エッセンシャル」(必要不可欠)な業種として8日より前から営業が認められていた食料品店などに限られていた。

他の移民街も閑古鳥

 中華街の北には、「リトルイタリー」と呼ばれるイタリア系移民が形成したコミュニティーが隣接している。イタリア料理のお店やバーが軒を連ねるが、やはりシャッターを閉ざした光景が続く。アイスクリーム店など一部開いている店も閑古鳥が鳴いていた。

リトルイタリー=8日、マンハッタン
リトルイタリー=8日、マンハッタン

 そこから3キロ余り北の、エンパイアステートビルにほど近い韓国人の街、コリアタウンもやはり人通りは少なかった。

コリアタウン=8日、マンハッタン
コリアタウン=8日、マンハッタン

 以前は大勢が出歩いてごった返していた移民の街、今はどこもシャッターが目立つ。

ベニヤ板で対策

 シャッターの降りた店に加え、最近目立つようになったのがベニヤ板などを施した外観の店だ。

米中西部ミネソタ州で警官に暴行されて亡くなった黒人男性、ジョージ・フロイドさんの事件に抗議するデモが市内でも連日相次ぎ、便乗した破壊・略奪行為への対策のためだ。

略奪被害に遭ったメイシーズ=8日、マンハッタン
略奪被害に遭ったメイシーズ=8日、マンハッタン

 実際に襲撃された百貨店大手のメイシーズは、全ての面を板張りにし、痛ましい外観を呈していた。

 メイシーズだけではない。アマゾンのストア、ディズニーストア、紀伊国屋、ロクシタン、アディダスなど多くの店がガラスのショーウインドウを、急ごしらえのベニヤ板で養生していた。

板張りを施した店=8日、マンハッタン
板張りを施した店=8日、マンハッタン

続く黒人差別へのデモ

 デモは5月下旬以降、毎日市内各所で続いている。

 8日はニューヨーク大学にほど近いワシントンスクエアパークに学生ら数百人が集まり、声高に批判を繰り広げていた。「ノージャスティス、ノーピース」(正義がなければ平和もない)とシュプレヒコールを上げるたびに参加者らが唱和して感情を高ぶらせ、会場が沸き立っていた。

集まった参加者ら=8日、マンハッタン
集まった参加者ら=8日、マンハッタン

 ただ、集まった参加者らは「平和的にやろう」とも話し、破壊や略奪の行為とは一線を画す姿勢を誓い合っていた。

フロイドさんを悼む壁画=8日、マンハッタン
フロイドさんを悼む壁画=8日、マンハッタン

 市内にはフロイドさんを悼む壁画が描かれるようになっている。

 マンハッタンからは離れた、筆者の住む近所でも先週末にデモは行われた。黒人は2%余り(2014~18年の統計)の地域だが、域外からも多数参加したとみられ、数百人規模が大行進を行った。

警官だらけのタイムズスクエア

 市内最大の観光名所の1つ、タイムズスクエアもコロナウイルスに伴う外出規制以降、人通りが少なくなって久しい。ただ、最近は近くでフロイドさんのデモが行われるなど騒然としたこともあった。

 8日はタイムズスクエアから1本離れた通りにバリケードと警察官らが随所に配備され、近寄りがたい感じを醸し出していた。当のタイムズスクエアまで足を運べば、通行人は少なく、配置された警察官の方が多数を占める有り様だった。

BLACK LIVES MATTERと表示したタイムズスクエアの電子看板=8日、マンハッタン
BLACK LIVES MATTERと表示したタイムズスクエアの電子看板=8日、マンハッタン

 以前ならにぎやかな電子看板も下から上まで、黒い背景に「Black Lives Matter」と白字で書かれ、追悼の意を示していた。

 物寂しさと緊張感とが入り混じる観光名所のタイムズスクエア。バリケードが多数設置されて警官が目を光らせる中、「WELCOME BACK NYC」と経済再開を祝した電子看板を見て晴れやかな気持ちになった人はどれだけいるだろうか。

WELCOME BACK NYCと表示した電子看板=8日、マンハッタン
WELCOME BACK NYCと表示した電子看板=8日、マンハッタン

* * * * *

 経済は少しずつ再開していくと期待されるが、多くの親が頭を抱える問題に、子どもたちの夏の過ごし方がある。目下、学校は閉鎖され、公園の遊具で遊ぶことも禁じられ、行き場に困っている。数少ない憩いの場の1つがビーチで、砂遊びをしたり、波打ち際でたわむれたりすることは認められている。気温が上がるにつれ、海を目指す人は日増しに多くなるだろう。

 ただ、ここでも他人との社会的距離(ソーシャルディスタンス)約2メートルが保たれているか、監視員が目を光らせている。保たれていないと見るや、ピピピッと笛が鳴り、距離を開けるよう指示が入る。大体20分おきに――。

マスク姿で泳ぐ人=9日、ニューヨーク・ロングアイランド
マスク姿で泳ぐ人=9日、ニューヨーク・ロングアイランド

 海にはマスク姿で泳ぐ人もいた。「そこまでしなくとも…」と思いつつ、以前マスクをしている人などとんと見掛けなかったニューヨークとあって、人々の意識が変わってきたのを実感する。

(※ 特に注記のない写真は筆者撮影)

記者

執筆テーマはAIやBMIのICT、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、今年度刊行予定『未来学の世界(仮)』、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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