「私は米国よりも日本」なぜ女子ゴルフ賞金女王・稲見萌寧は一貫して目標がブレないのか?
稲見萌寧は何度同じことを聞かれても、答えは一貫していた。
「主戦場は日本です」
今季、国内女子ゴルフツアー最終戦のJLPGAチャンピオンシップリコーカップ終了後の会見でも海外挑戦について聞かれ、年間表彰式の「JLPGAアワード」の会見でも改めて米女子ツアー参戦の意思があるのか問われたが「これからも日本ツアーで戦う」と答えは同じだった。
2020-21年シーズンに9勝し、初の賞金女王となった稲見。年間表彰式の「JLPGAアワード」でも賞金女王、平均ストローク1位など4冠に輝いた。今夏の東京五輪でも銀メダルを獲得し、順風満帆の一年とあり、次は海外挑戦と思われてもおかしくはない。
それに稲見自身、ゴルフのことを毎日考え、修正する部分があればとことん練習を繰り返すストイックさは女子ツアー屈指。向上心の塊のような選手だ。
常にレベルアップを目指すには、やはり日本ツアーは狭いと考えるはず。世界ランク上位の実力者がひしめき、難易度の高いコースも多い米女子ツアーに目を向けた渋野日向子や古江彩佳とは対照的だ。
「永久シード獲得」という明確な目標
ただ、完全に米ツアー参戦を頭の中から消し去ったわけではない。海外メジャー出場に関しては「(コロナ禍による)隔離の状況が厳しいと思うので、その辺がなくなってどうするかを考える感じです」とスポットでの参戦も視野に入れている。
それでもこれからも日本ツアーをメインに戦っていくのは間違いない。そこにはツアー通算30勝で与えられる「永久シード獲得」という確固たる目標があるからだ。
若くして永久シード獲得を口にする選手は皆無だ。というのもその目標があまりに高く、未知の領域だからだ。ただ、稲見はそれを公言するところ、本気で狙っているのだろう。
そこに突き進むためには、国内で一つでも多く勝たなければならない。年齢を重ねるごとにスイングの微妙な変化や体力の衰えが出やすいと言われるため、勢いがあるうちになるべく優勝回数を増やしておきたいという思いもあるに違いない。
そもそも米ツアー参戦は、日本人選手にとってかなりハードルが高い。
Qシリーズ(最終予選会)を突破することもそうだが、仮に米国に行くとなれば、これまで稲見を支えてきたキャディーやコーチなど、チームで動いていたスタッフも覚悟を決めて帯同しなくてはならない。
加えて練習環境、時差、食事、移動などすべて一からリズムを作り直す労力も相当なものだ。
それらを天秤にかけた場合、“永久シード”という目標から遠ざかりそうな米ツアー参戦は現実的ではないと判断してもおかしくはない。
不動裕理の通算50勝を目標にする日が来る?
世界ランク6位の畑岡奈紗も米ツアー通算5勝と、今では貫録さえ漂うが、彼女も米ツアー1年目(2017年)は環境への適応にかなり苦労していたと聞く。
海外での成功は簡単な事ではない。最終的には目標をどこに置くかによって、プレーする場所が決まる。選手個人の判断に良し悪しはないだろう。
もちろん現時点で日本では敵なしとも言える稲見が、米ツアーでどんな結果を残せるのかを見てみたいと思う一方、2003年に年間10勝、ツアー通算50勝している不動裕理のような圧倒的な強さを日本で見てみたいとも思っている。
当面は目標とする永久シード獲得のため30勝を目指す稲見。その先にある不動の通算50勝超えをいつか目標にする時が来るだろうか。