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遺体・遺骨はだれのもの?

竹内豊行政書士
遺体・遺骨をめぐって争いになることがあります。(ペイレスイメージズ/アフロ)

ここ連日、松本元死刑囚の遺体・遺骨の引き渡し先をめぐり遺族の間で意見が対立しているといった報道がされています(私も「遺体・遺骨をめぐる争い~被収容者が死亡したら」と題して記事をアップしました)。

遺体・遺骨をめぐる争いは、相続人や故人と深いつながりがあった方などの間で感情的な対立が激化すると起きることがあります。どの相続でも起きうる危険をはらんでいます。

そこで、今回は、民法と判例で「遺体・遺骨はだれに帰属するか」を見てみます。相続の争いは遺産だけではないのです。「争族」防止の参考にしてください。

民法は遺体・遺骨の帰属を定めていない

実は、民法では、遺体・遺骨をだれに引き継がせるかを規定していません。そのため、遺体・遺骨をめぐって争いが起きることがあります。

遺体・遺骨はだれに帰属するのかという問題は、民法学者の間でも見解が分かれています。主な見解をご紹介しましょう。

相続人に帰属する

遺体・遺骨も相続財産を構成するものとみて、相続により相続人に帰属するという説です。

大正時代ですが、「遺体・遺骨も有体物として所有権の対象となる」とした判例があります。

しかし、これでは、遺体・遺骨が相続開始と同時に相続人全員の共有になってしまいます(民法898条)。

(共同相続の効力)

898条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

遺体・遺骨が相続開始と同時に相続人全員の共有となってしまうと、場合によっては、遺体・遺骨の取り扱いを決めるのに、相続人全員の同意が必要になってしまいます。実質的に妥当とは言えません。

祭祀主宰者に帰属する

遺体・遺骨は埋葬と供養を目的とすること、人の身体は、生前においても死後においても(遺骨に形を変えても)、人格の反映したものであり、所有権の客体として他者に帰属するという考え方になじまない。したがって、死者の祭祀供養をつかさどる者、すなわち祭祀主宰者に帰属すべきとする説です。

この説に基づいた次のような判決があります。

【判決1】

宗教家である被相続人(亡くなった人)の信者団体が遺骨を守っているのに対して、祭祀主宰者(祖先の祭祀を主宰すべき者)である相続人が菩提寺に遺骨を埋葬するために、信者団体に遺骨の引き渡しを求めた裁判。

最高裁は、「遺骨は祭祀主宰者に帰属する」とした原審を正当としました(平成元年)。

【判決2】

遺骨について、祭祀財産に準じて取り扱うのが相当として、民法897条2項を準用して、「遺骨の取得者を指定することができる」とした(平成21年)。

897条(祭祀に関する権利の承継)

1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

遺体・遺骨の帰属をめぐる争いは、相続人の間のみならず、相続人と故人とゆかりがあった、たとえば内縁関係の人などとの間でも起きることがあります。

その根底には、当事者間以外の者には計り知れない感情的な問題があります。

残念ながら、遺体・遺骨をめぐる争いになってしまったら、当事者間では感情が先走って合理的な解決はほとんど望めないでしょう。

そうなってしまったら早めに家庭裁判所に申し立てるなど司法の力を借りることも検討した方がよいでしょう。

争っている人たちでも、「故人の供養をしてあげたい」という気持ちは同じはずです。早めに解決して故人がゆっくりと休むことができる場を決めるのが、故人のなによりの供養になるのではないでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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