なぜヴラホビッチは“91億円”でユヴェントスに移籍したのか?大型FWの存在感とハーランドとの類似点。
今冬の移籍市場で、ビッグディールが成立した。
「主役」になったのはユヴェントスだ。フィオレンティーナから、ドゥシャン・ヴラホビッチを獲得。大型FWを確保するため、移籍金7000万ユーロ(約91億円)+ボーナス1000万ユーロ(約13億円)を支払った。
ヴラホビッチに関しては、複数クラブが関心を寄せていた。過去にはバルセロナやアトレティコ・マドリー、今冬のマーケットではアーセナルが彼の獲得を検討していた。
ビッグクラブが興味を抱くのには、理由がある。ヴラホビッチは今季、24試合で20得点をマークしている。その決定力に疑いの余地はない。
「ヴラホビッチは順調に成長している。私は彼のような選手の強い意志を評価したい。信じられないハードワーカーだ。彼のような選手の存在感をピッチ上で消すのは難しい。素晴らしいポテンシャルを備えている」と語るのはミランのステファノ・ピオリ監督だ。
「エクセレントなFWだ。ヴラホビッチは、ヴラホビッチ。ほかの選手との比較は好ましくないだろう。ミラン戦を除く試合での活躍と、今後の成功を祈っているよ」
■獲得競争の行方
選手の獲得競争において、資金力のあるクラブが強いのは自明である。
近年、パリ・サンジェルマンやマンチェスター・シティが欧州で台頭してきた。彼らはオイルマネーをベースに資金を調達できる、いわゆる“国家クラブ”だ。
そういったクラブの動きと、敏腕代理人の働きが、この数年の市場を賑わせてきた。
ミーノ・ライオラ、ジョルジュ・メンデスといった代理人が、多くのオペレーションを成立させてきた。その中で、彼らのような代理人と、また選手の家族に、少なくない手数料が発生していた。現在、FIFAがそれを取り締まろうとしているものの、この流れは簡単に切れそうにない。
また、パンデミックの襲来で、状況は難しくなった。新型コロナウィルスの影響で各クラブの財政は悪化した。フリートランスファーによる移籍金ゼロの移籍と、レンタル移籍が増えていった。リオネル・メッシ(パリSG)、セルヒオ・ラモス(パリSG)、ダビド・アラバ(レアル・マドリー)、メンフィス・デパイ(バルセロナ)がこの夏にフリーで新天地に向かった。
現在の問題点を挙げるとすれば、選手の契約延長が困難になったことだろう。
バルセロナでは、ウスマン・デンベレの契約更新問題が話題を呼んだ。2022年夏までの契約を、デンベレ側が延長したがらなかった。より高額なサラリーを要求して、実質上交渉が破断した。
ヴラホビッチの場合、フィオレンティーナとの契約は2023年夏までだった。しかしながら、移籍の憶測が加速して、一部サポーターから批判がわき起こった。「リスペクトはゴールで勝ち取れない」「お前は終わっている」といった横断幕がスタジアム周辺に掲げられていた。
■厳しい道のりとプロキャリア
今冬のマーケットで“人気銘柄”となっていたヴラホビッチだが、ビッグクラブに辿り着くまでの道のりは平坦ではなかった。
ヴラホビッチは2000年に母国セルビアのゼムンで生まれた。首都ベオグラードから12キロほど離れた場所である。
レッドスターとパルチザン・ベオグラードが彼に関心を寄せ、2014年にパルチザンのカンテラに入団した。2015−16シーズンには、16歳22日の若さでプロ初ゴールを決めている。
しかし、彼はプロに拘っていたわけではなかった。大学への進学を考慮して、薬科を専攻しようとしていた。当時、「フットボールで何も達成できなかったらと思うと、大学に行く必要がある」と語っていたように、“プランB”を用意して自身のキャリアを真剣に考えていた。
左利きの大型ストライカーであるヴラホビッチは、時にアーリング・ハーランド(ボルシア・ドルトムント)と比較される。
「ハーランドをよく観ている。彼のフィニッシュやオフ・ザ・ボールの動きを観察している。それから、自分のストロングポイントとウィークポイントに集中している」とはヴラホビッチの言葉だ。
「すごく自信を持っているように聞こえるかもしれない。だけど、フットボールにコミットしていけば、ハーランドのレベルに達することができると思う」
ユヴェントスは今夏、クリスティアーノ・ロナウドがマンチェスター・ユナイテッドに移籍した。
2018−19シーズン(28得点)、19−20シーズン(37得点)、20−21シーズン(36得点)とゴールを量産していた選手が去り、加えて今季途中にはフェデリコ・キエーザが負傷離脱を強いられた。
そういった状況で、ヴラホビッチへの期待は大きい。フィオレンティーナでは、ガブリエウ・バティストゥータの再来と謳われた。21歳の若者が、ビッグクラブでの新たな挑戦に向かう。