セックスでの痛み、改善方法は?受診の目安は? 産婦人科医による解説
実は多くの女性が悩んでいる性交痛
性交痛(セックスの際に生じる痛み)は、様々な年代の女性が実は悩んでいるもので、
・4人に3人が悩んだことがあるほどありふれた症状
・原因は身体的な特性、何かしらの疾患(病気)の存在、性的反応の問題など
・早めの受診やパートナーとの対話が大切
といったことを、前回の記事(「実は女性の4人に3人が悩む性交痛、どんな原因があるの? 産婦人科医による解説」)で説明しました。
今回は、「病院を受診すべきサイン」や「セルフケアの方法」などについて解説をしていきます。
早めに病院を受診すべきサインとは?
それでは、まず皆さんに知っておいてほしい「早めに病院を受診すべきサイン」をご紹介します。
もしセックスをする際や行為が終わった後に、
・頻繁に痛みを感じる
・激しい痛みがある
・何日も痛みが残る
のいずれかに該当する場合は、早めに産婦人科を受診していただくことをお勧めします。理由は、「痛みの原因となっている可能性のある婦人科疾患を検索すること」です。
前回の記事にも書いた通り、性交痛の原因となる疾患には婦人科疾患(子宮内膜症や卵巣嚢腫、性感染症、腟炎など)が多く含まれ、これ以外にも女性ホルモンの変化に伴うものや外陰部の皮膚疾患も原因となり得ます。
頻繁に痛む、痛みが強い、痛みが持続するというのは、何かしらの原因疾患が隠れている可能性を示すサインであり、様子を見たりセルフケアを試すよりも、まずは受診して原因検索をしてみましょう。
また、産婦人科受診は、性的反応の問題に対処するのに役立ちますが、これは対応可能な医師や医療機関が限られてしまうため、できれば受診する前に、このような相談が可能か病院へ問い合わせてみると良いでしょう。
なお、日本では、産婦人科医の中でも性的反応の問題について体系的に学ぶ機会がなく、対応可能な医師が非常に少ないというのが実際のところです。つまり、これは医療者側の課題とも言えるでしょう。
病院ではどのような診察や検査、治療が行われるの?
それでは、受診した場合に想定される診察の流れや内容をご紹介します。あくまでも一般的に考えられる内容ですので必ず全ての方に当てはまるわけではありませんが、ご参考になさってください。
(1)問診
まず、あなたの既往歴や服薬歴、性生活、症状やその特徴について、問診がなされます。大切な情報となるので、恥ずかしくても隠したりはせず、なるべく正確に回答しましょう。
(2)診察
産婦人科では主に内診によって外陰部や腟、子宮周囲の身体診察をします。具体的には、内診台に乗っていただき、以下のような診察を実施します。
・外陰部の皮膚に異常がないか視診する
・腟内に腟鏡(クスコとも呼ばれます)を挿入し、腟の壁やおりものを観察する
・腟の中とお腹とを同時に触診し、子宮の動きや子宮周囲の異常、痛みを確認する
(3)検査
以上の問診や診察を踏まえ、追加検査が必要になる場合もあります。
・超音波検査(主に腟内から、超音波で骨盤内の異常をチェックする)
・おりものの検査(感染症の原因微生物の有無をチェックする)
・CTやMRI検査(より詳細かつ広範囲に骨盤内やお腹の中をチェックする場合)
・がん検査(子宮頸がんや子宮体がんなど。特に不正出血のある場合)
また、場合によっては性に対する考え方やトラウマとなるような過去があったかどうかなども確認されます。
さらなる評価や治療のために、皮膚科医や精神科医、理学療法士など、他の専門家に相談する場合もあります。
(4)治療
もし原因疾患が特定されれば、それに対する治療が開始されるでしょう。
治療内容は疾患によって個別に異なります。
外陰部の皮膚疾患や性感染症、骨盤内感染であれば、一般的に軟膏や内服薬などの薬物治療で改善が期待できます。
閉経前後や閉経後のホルモン変化による腟内の炎症が起きている場合には、保湿剤や潤滑剤、ホルモン補充療法などが症状改善に役立ちます。
子宮内膜症が原因であれば、低用量ピルやミレーナなどのホルモン治療が有効な場合が多いです。
自分でできるセルフケア、どんなことがあるの?
医学的な原因疾患が見つかれば、基本的には上記のように専用の治療が必要となります。
しかし、もし明らかな原因疾患が見つからなかったり、疾患が治った後も痛みを感じるようであれば、ご自身で可能なセルフケアによって症状が改善できる可能性もあります。
(1)パートナーと対話する
いつ、どんな時に痛みを感じるのか、逆にどのような行為は痛みがなく楽しめるのかを、素直にパートナーに伝えてみましょう。パートナーがこれを理解することによって、二人で一緒に痛みのない行為を工夫できるかもしれません。
(2)セックスの時間やタイミングを工夫する
自分もパートナーも疲れていない、そして他のストレスや不安がないときに、セックスの時間を取るようにしてみましょう。
(3)セックスの前に痛みを和らげる工夫をする
事前にトイレを済まして膀胱を空にする、温かい風呂に入っておく、市販の鎮痛剤を服用しておく、なども対処法の一例です。
セックス後の外陰部のヒリヒリ感を和らげるには、氷や凍らせたジェルパックを小さなタオルで包んで(冷たくなりすぎないように)、外陰部に当てておくのも有効です。
(4)潤滑剤の使用
腟の摩擦感やヒリヒリ感が強い場合は、潤滑剤が有効な場合があります。水溶性とシリコン系があり、シリコン系の潤滑剤は、水溶性の潤滑剤よりも効果が長持ちし、滑りが良い傾向にあります。市販のものでも良いでしょう。
ただし、コンドームと一緒にワセリン、ベビーオイル、ミネラルオイルなどは使用しないでください。ラテックス成分を溶かし、コンドームを破損させてしまう恐れがあります。
(5)痛みを感じない性行為を試してみる
例えば、挿入行為が苦痛な場合には、オーラルセックスなど痛みを感じないもので二人の時間を楽しむことも大切です。
他にも、オイルマッサージのような、性行為ではないですが二人ともが快楽を感じるような行為を試してみるのも良いでしょう。
(6)物理的な腟の狭さに対する拡張(腟ダイレーター)
体質により、腟が非常に狭く痛みを感じるような場合には、腟を内側から徐々に広げる器具(腟ダイレーター)を利用することもあります。海外では「vaginal trainers」や「vaginal dilators」と呼ばれているもので、時間をかけて少しずつ広げることで痛みの改善が期待できるとされています。
ただし、安全のため医療者の指導のもと使用する必要があり、事前に産婦人科医等に相談しましょう。
(7)カウンセリングや認知行動療法
セックスへの恐怖心や過去のトラウマが原因になっていると考えられた場合には、カウンセリングや認知行動療法などが必要なこともあります。
精神科医をはじめとする専門家のサポートが重要となるため、適切な受診を通じて改善を試みてみましょう。
なお、日本性科学会がセックスカウンセラー・セラピストの認定制度を設けており、有資格者一覧を掲載していますが、全国に50名程度しかおらず、米国や英国に比べると圧倒的に専門家が少ないことも日本の大きな課題だと言えるでしょう。
痛いのは自分のカラダのせい、と決めつけずにぜひ早めの受診を
本記事では、性交痛に対する受診の目安や、セルフケアについて解説しました。
手術やセクシャルセラピーなどは専門性が高くここでは詳しく述べられていませんが、まずは「セックスで痛みを感じるのは何か原因があるのかもしれない」、「その原因はもしかしたら解決できるものかもしれない」と考え、一度は早めに産婦人科受診をしていただきたいと思います。
その上で、適切なセルフケアや、パートナーとの対話・相談の時間を持つことが重要でしょう。性交痛は自分一人の問題ではないことも少なくありません。
自分自身の満足感や幸福のため、そして不妊症のリスクを少しでも減らしたり隠れた婦人科疾患を早期発見したりすることにもつながるため、ぜひご自身のカラダとココロに向き合ってみてくださいね。
参考文献: