香川ゲーム規制条例案 パブコメの件数が語る“真意”
ゲームの利用を原則1日1時間に制限する香川県のゲーム依存症規制条例案ですが、パブリックコメント(パブコメ)が公開されました。ゲーム規制の賛成派が圧倒的多数を占める結果ですが、そこから漏れる“真意”を読み取りたいと思います。
まず、ゲーム依存症規制条例案の問題については、簡単に言えば、以下の通りになります。
(疑問1)1日1時間制限の根拠が明確でありません
(疑問2)スマホのガチャ問題に触れていません
(疑問3)WHOのゲーム障害の適用は2022年なのなぜ先走るのでしょう
一言でまとめると、この条例案は、各専門家が疑似科学として否定したはずの「ゲーム脳」の理論を持つ議員が推し進めていることです。条例には罰則規定はないのですが、成立すれば影響はあるわけで、さらに他県の条例にも波及する可能性があることです。一見すると、昨年に発表されたWHOのゲーム依存症を先取りしている先進的な施策のように思えますが、ゲーム依存症の調査は現在進行中で、適用は2022年からです。
にもかかわらず今回の条例案は、18日に可決されることが有力となりました。12日に開かれた会見では、パブコメは2600件以上が寄せられ、賛成は2200件以上の8割超え、反対は300件以上だったことが明かされました。各メディアでは「8割超が規制に賛成」として大きなニュースになりましたが、このパブコメの件数は不自然かつ不可解な点が目立つのです。
第一に、パブコメの件数が不自然なほど多すぎることです。通常のパブコメの件数について、以下記事を引用します。
第二に、パブコメは通常であれば期間は1カ月で、しかも全国から意見できるはずですが、今回のゲーム規制条例案では香川県内限定で期間も約2週間しかなかったことです。短期間で限定的だったのに数が集まっているのですね。
第三に、普段は選挙にすら足を運ばない多くの有権者が、ゲーム規制に賛成しているとしても、手間のかかるパブコメをわざわざしていることです。条例はパブコメの中身に関係なく成立し、普通の賛成派から見ればパブコメをする必要性はありません。積極的にしたいのは条例の反対派か、提言のある識者だけでしょう。だから香川県内の個人だけで300件の反対が集まることが相当の異質といえますが、大手メディアのニュースでは2000人の賛成ばかりに注目が集まっています。
ネットでも多くの人がこの不自然さを指摘している通りで、今回のパブコメの件数は、常識で考えれば変なことばかりなのです。すると、この異質さを納得させる記事が出てきました。ゲーム規制を支持する香川県観音寺市議会の合田隆胤議員(自民)が、パブコメを集める“工作”を認めており、その中から気になる一文を引用します。
繰り返しますが、パブコメ自体には、条例の可否に影響はありません。それにもかかわらず、多忙な議員が貴重な時間を使い、ひな形まで作って50件以上のパブコメを積極的に集めたわけです。50件のパブコメを集めることを想像してもらえたら分かる通り、大変な手間でして、そこには、明確な狙いがあると考えるのが妥当です。
明確な証拠が現段階でない以上、パブコメ賛成の政治工作があったのかは判断できませんし、していたところで法律違反ではありません。そして結果論として、パブコメを圧倒的なゲーム規制賛成の意見で埋め尽くすことで、ゲーム規制の正当性が強調できたことは疑いようもありません。
パブコメで重要なのは、反対派の意見をくみ取り、今回の条例案の懸念を払しょくすることで、数の多寡ではありません。ですが検討委員会は、わざわざ賛成と反対の数字を並べたわけです。常識であれば、普段のパブコメの件数とはケタが違うことに疑念を持ち、理由を調べて再考したり、問題点を洗い出すよう努めるはずです。そして300件の反対意見が来ることが普通ではありえないことなので、むしろそこに注目すべきはずなのです。ですが検討委員会にとって、賛成の多さが事前に分かっていて、賛成多数をアピールするシナリオが用意されていたとしたら、賛否の数字を並べて発表したことに得心が行くのです。そしてパブコメを県内限定にした狙いも、このシナリオを狂わせることになりうるので、少しでもしぼりたかったと考えれば……。
さらに「ねとらぼ」から以下のようなツイートもありました。
パブコメの“多数派工作”の真偽はわかりません。ですが、J-CASTニュースが配信した記事とも重なる部分がありますし、理論としてはつじつまがあうのが不気味です。「パブコメは注目度が高い場合でも百数十件程度」と考えると、300件超の反対意見は実にリアルで、切実な数字に思えます。そして皮肉にも、パブコメの不自然な件数こそ“真意”を語っているように見えるのですが、皆様の見立てはどうでしょうか。
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とはいえ、香川県がゲーム規制を推し進める考えは、2か月前から明言されていました。1月14日に開催された浜田恵造知事の会見で「来年度予算の中で、より効果的なネット・ゲーム依存対策を検討するほか、国に対して対策の強化を求めるなど、子供・若者のネット・ゲーム依存対策に積極的に取り組んでまいりたいと考えております」と触れています。予算ありきであり、条例も成立させるのは当然といえるのでしょう。
3月12日の会見で、香川県議会・条例検討委員会の大山一郎委員長は、条例案について「規制では無く、家族の中でルールを作る上での目安にしてほしい」と語りましたが、ゲームもネットも一緒にして一律禁止をしようとした素案が本音なのでしょう。また「ゲーム脳」の考え、会議の議事録・情報の非開示の方向性を考えると、言葉を額面通りに受け取れません。そして、次の狙いは条例の他県への波及、そして国へゲーム規制の対策を働きかけるつもりなのでしょう。
eスポーツに力を入れる隣県の徳島県や、ゲーム会社との異色コラボを展開する佐賀県とは、逆の道ですね。新型コロナウイルスのために外出自粛に苦しむ子供たちのことを考えれば、ゲームは利用すべきものではないのでしょうか。少なくとも条例を延期するなどいろいろ手はあるとは思うのですが……。
条例でゲームを規制してゲームの時間が減っても、子供は代わりに勉強をしないのは、少し考えるとわかるはずです。禁止するのは下策で、ゲームを教育に活用することこそ上策と思うのですが、そういう意見は出なかったのでしょうか。残念でなりません。