絶対達成する「面談」のやり方
私は企業の現場に入って、目標予算を絶対達成させるコンサルティングをしています。目標を「絶対達成」というわけですから、クライアント企業のスタッフらが「最低でも目標は達成する」「目標達成するのは当たり前」という意識を持つことが必要です。
今回はそのような意識レベルに達するための「面談」の方法について解説します。企業における面談のパターンは大きく分けて3つあります。
1) 経営者 → 上級管理者(部長など)
2) 上級管理者 → 中級管理者(課長・主任など)
3) 中級管理者 → 担当者
今回紹介する面談の方法は、どのパターンにも当てはまりますが、特に管理者(上級・中級ともに)に対する面談には有効です。管理者の意識レベルにより、組織のパフォーマンスは決まるといっても過言ではないからです。有効な面談をするときに重要なことは「質問」です。アドバイスする場でもないし、説教する場でもありません。面談者はできる限り質問のみに徹底し、相手の意識レベルを確認していきましょう。そして質問による気付きを誘発するのです。
それでは、面談によって意識レベルを推し量る「3種類の質問」を紹介します。質問に対する正しい答えが、どこの記憶装置の中に格納されているか、それがわかれば相手の「意識レベル」を推測することができます。
その記憶装置とは、「短期記憶」「長期記憶」「外部記憶」の3つです。「短期記憶」とは、いわゆる「ワーキングメモリ」のことです。情報を処理するために常に格納しておく作業記憶装置。「長期記憶」は、長い歳月をかけて蓄積してきた知識の図書館のようなもの。「外部記憶」とは、何らかのヒントを言われても思い出せず、人間の脳の外にある記憶装置。資料やシステムのデータベース上に存在します。
上司が、「目標達成に向けて、常に意識してやってるか?」と問い掛けられて、「はい、いつも意識しています」と応じる部下がいます。しかし、その「意識しているもの」がどのようなものであり、どの記憶装置に格納されているかによって結果はまるで異なってきます。
相手の「意識レベル」を調べる質問とは、以下の3つです。
● 漠然とした質問
● 具体的な指標を用いた質問
● 正しい答えを使った質問
まず最初に、面談者は「漠然とした質問」をしましょう。簡単です。
「今年の目標達成のために、いま意識していることは何だ?」
これでいいのです。このような漠然とした質問は多義的ですので、質問されたほうは何を答えたらいいか迷うことでしょう。しかし、漠然とした質問にもかかわらず、具体的な行動指標まで答えることができたら、部下の「意識レベル」はかなり高いと言えます。
「今年の目標は売上2億4000万円です。この数字を達成させるためには、現在保有している見込み客7社を、最低でも20社にまで引き上げなければなりません。そのために私が常に意識していることは、月間新規のお客様に50社訪問し、最低でも10人のキーパーソンと接触を続けることです」
このような具体的な行動指標が、スムーズに出てくるということは、常に部下の「短期記憶」の中に格納されている証拠です。「ワーキングメモリ」に記憶されているため、日々、常に焦点を合わせて仕事をしていることになります。すぐに脳が処理できる場所にこれらの指標が入っているため、自発的に行動改善を繰り返し、目標を達成させる可能性は高まることでしょう。
漠然とした質問に対し、具体的な返答がスムーズに返ってきたら、長々と面談する必要はありません。「それじゃあ、今年も頼むぞ」などと言って面談は終了です。
しかしながら、
「常に意識していること……と言われましても、いろいろありますが」
と相手が答えるようなら、上司の質問に何を答えていいのか理解できないレベルです。また、
「意識していることは、新規のお客様に対し、積極的にアプローチすることです」
……と、漠然とした答えをする部下も、面談者が期待する「意識レベル」に達していないと言えるでしょう。「短期記憶」に具体的な行動指標が格納されていないため、面談者の質問の意図を正しく脳が処理できないのです。このような部下には2つ目の「具体的な指標を使った質問」をすることになります。つまり正しい答えに導くためのヒントとなる「切り口」や「指標」を渡すのです。
「今年の売上目標を達成させるうえで、日々心掛けている行動指標を具体的に答えてほしいんだ」
この場合、面談者は「売上」と「行動」という「切り口」を部下に渡しています。ここまで聞いて「ああ、そういうことですか」と部下が合点したら、脳の「長期記憶」の中にある証拠です。「短期記憶」の中にはまだ入っていないため、このような切り口を渡すと正確に答えられるでしょう。
それでも具体的に答えられない場合は、つまり、
「売上と、行動ですか……。売上目標は昨年の数字よりも10%ほど上がっていたと思いますが、申し訳ありません。資料を確認しないとすぐにわかりません。行動指標についても、以前、目標管理シートに書いたきりで、これもシートを見ないことには……」
といった曖昧で抽象的な返答をするケースは、常に目標達成を意識した行動をしていない、とわかります。さらにヒドい場合は、
「売上目標と言われましても……。私は今期言い渡されている目標に対して、いまだに納得できない側面がございまして、何と言うかその……。せっかくのこのような面談の場ですから言わせていただきますが、そもそも、逆立ちしてもできない目標を設定する社長にこそ問題があると常々私は思っておりまして……」
などと、面談者の質問を捻じ曲げて返答をする部下がいたら、かなり要注意です。意識レベルが低いどころか、「話にならない」「話が噛み合わない」というレベルですから、相手の思考がゆがんでいる可能性があります。たとえ愚痴や不満を言いたくても、まずは面談者の質問に正しく答えてからするべきです。もしこの部下が管理者であれば、正しく組織をマネジメントできているのだろうかと経営者は疑わざるを得ません。
ここまでくると、3つ目の「正しい答えを使った質問」をします。
「売上目標がいくらで、その売上を達成させるためには見込み客をどれぐらい常時保有していなければならないか、そして新規のお客様への月間の接触回数などを答えてほしかったんだ。君の場合は、売上目標が2億4000万で、常に保有すべき見込み客の数は20社だったはず――」
このように具体的な「答え」を明示します。ここまでくれば普通は、
「ああ、そうでした。申し訳ありません。言われてみれば、確かに……」
という返答が戻ってくるはずです。ところが、具体的な答えを渡してもピンとこない部下がいたらどうでしょうか。答えを渡しても意味がわからないというのであれば、部下の脳の「長期記憶」にさえ入っていなかったということになります。したがって、このような返答になることでしょう。
「そうでしたっけ? ちょっと目標管理シートを見てきていいでしょうか? そもそも見込み客を常時どれぐらい保有していないといけないかなんて……。それは何のために必要なんですか?」
「おいおい。これは4ヶ月も前の会議で決めたことじゃないか」
「会議で決めましたっけ?」
「何を言ってるんだ。君の同僚はみんな意識して行動してるぞ」
「4ヶ月前の会議で、ですか……。ちょっと議事録を確認してみたいですね」
ここまで意識の低い部下は、なかなかいないと思いますが、いずれにしても部下の「意識レベル」を引き上げるのは上司の責任です。
前述した3種類の質問を使い分け、部下の「意識レベル」の現状を正しく認識した後は、期待する「意識レベル」にアップするまで、繰り返し【意識させる】ことが重要です。「意識させる」ためには、定期的に面談をし、何度も同じ質問をすることです。質問をしながらシートなどの「外部記憶」から、部下の脳の「長期記憶」へ転送させます。そしてさらに面談を繰り返すことによって「長期記憶」から「短期記憶」へと転送させていきます。とにかく、短い面談を繰り返し実施することが重要です。評価するときだけに面談して部下の意識レベルを変えることなどできません。
■「短期記憶に格納されている」 → 言われなくてもわかっている
■「長期記憶に格納されている」 → 言われたらわかる
■「外部記憶に格納されている」 → 言われてもわからない
と、覚えておきましょう。部下が口だけでなく、本当に「言われなくてもわかっている」状態になっていれば、上司はラクにマネジメントができるはずです。