Jリーグ育成マッチデー:白熱の"準"公式戦。リーグ戦に向け若手などアピール
J2レノファ山口FCとJ3ガイナーレ鳥取とのJリーグ育成マッチデーが8月19日、山口県下関市で開催された。レノファサポーターがリーグ戦さながらの応援をする中で試合が行われ、3ゴールのレノファが快勝した。
メンバーでみれば「練習試合」と大きくは違わないが、育成マッチデーとしては最多の約600人が訪れ、ゲームは熱気に包まれた。育成マッチデーの位置付けを含めて、試合を簡単にレビューする。
育成マッチデーとは?
育成マッチデーは若手選手などの育成機会創出を目的とした試合カテゴリー。創設年の今年はJリーグ6チームが参加している。
多くの場合においてリーグ戦翌日の開催となるため、現実的にはメンバーは練習試合とあまり変わらない。若手のみならず、スタメンから漏れたベテランやケガ明け直後の主力級選手も出場する。ただこれまで開催されてきたJサテライトリーグからレギュレーションを大きく見直し、試合環境や『雰囲気』の面で練習試合とは異なる「実戦」に近い緊張感が出るようになった。
Jサテライトリーグは順位を競わず、レギュレーションも練習試合の枠を抜け出すための動機付けに乏しかった。今年は育成マッチデー独自の「ポイント」制度を導入。年間順位を決める方向に転換し、順位に応じた育成奨励金を支払うことにした。
ポイントは「勝ち点」とは異なる。付与基準は熟慮されており、1試合戦うと勝敗に関係なく1ポイントが与えられるほか、スタジアムを使用するなど公式戦に近い環境で開催した場合、ホストクラブに3ポイントを付与。遠征距離が長くなるチームにもポイントを与えて、参加を促す。
試合に勝てばさらにポイントが加算されるが、リーグ戦の勝ち点とは異なり、育成マッチデーは1ポイントのみ。ここもよく考えられていると言えそうだ。
もし3ポイントを与えると、総ポイントに占める勝利ポイントの割合が増え、順位アップのために勝利だけを追いかけるチームが出てしまうかもしれない。そうなると経験あるベテランをつぎ込んだほうが有利なため、若手を使おうという目的から外れてしまう。とはいえ、勝っても負けてもポイントがゼロではモチベーションに影響する--。ジレンマの落としどころとして、絶妙な設計となっている。
また、23歳以下の選手の出場時間を計算し、年間最大で5ポイントを加算する。最終的にポイントの最も多いチームに育成奨励金として4百万円が贈られる。
ポイント設計は上の順位表が分かりやすい。ガイナーレ鳥取は勝利こそないが、若手を積極的に起用したり、チュウブYAJINスタジアム(チュスタ)を使うなど実戦に近い環境で試合を行い、計15ポイントでトップに立っている。他方、2位レノファ山口FCと3位ファジアーノ岡山のポイント差は「1」で、岡山にとっては3戦して1勝にとどまっている点が響いている。もちろん1位鳥取を追いかけるには若手の起用や試合環境にも工夫が必要だ。
若手を使う。公式戦同等の環境を用意する。試合に勝利する。それらの複合が育成マッチデーを戦うカギであり、趣旨にも合致する。
育成マッチデー構想そのものは、2016年のJリーグの事業計画に盛り込まれていた。Jリーグ理事(当時)を務め、サッカー選手の育成にも注力しているレノファ山口FCの霜田正浩監督は、「プロに入って1年目、2年目の試合になかなか出られない選手たちをどう鍛えるか。制度上、日本のサッカー界で(実戦環境が)足りない。トップチームの試合に出すというのも育てることになるし、出られない選手もそういう試合をたくさん経験しないといけない。実戦が選手を育てる」と狙いを説明する。
参加チームは、J1=北海道コンサドーレ札幌、サンフレッチェ広島▽J2=横浜FC、ファジアーノ岡山、レノファ山口FC▽J3=ガイナーレ鳥取。試合時間はリーグ戦と同じで前後半45分ずつの90分。ベンチ入りは7人までで、交代は7人まで可能となっている。
レノファは鳥取に快勝
J2レノファ山口FCは8月19日、リーグ戦再開を翌週に控えるJ3ガイナーレ鳥取との「Jリーグ育成マッチデー」に臨んだ。試合会場として、明治安田J2リーグ戦を年間2試合開催している下関市営下関陸上競技場(山口県下関市)を使用した。
2018Jリーグ育成マッチデー第6日◇山口3-1鳥取【得点者】山口=高木大輔(前半10分)、大崎淳矢(後半15分)、大石治寿(同23分) 鳥取=林誠道(前半44分)【入場者数】600人【会場】下関市営下関陸上競技場
実戦に近い環境を作り、選手に高い経験値を積ませることも育成マッチデーの目的のひとつ。レノファは今回、リーグ戦で使用するスタジアムを使用しただけでなく、スタジアムDJの吉永達哉さんがリーグ戦と全く同じアナウンスを行い、サポーターも大旗を振ったり、チャントを歌ったりして盛り上げた。
レノファは大卒1年目の山下敬大、20歳の高橋壱晟などが先発。鳥取も若手中心に起用し、リーグ戦で2ゴールを挙げているヴィートル・ガブリエル、鳥取ユースからプロ入りした1年目の世瀬啓人などがスタメンに名を連ねた。出場機会を求める選手たちにとっては格好のアピールの場。試合は午後2時開始で飲水タイムが入る暑さとなったが、球際の厳しさが見られる熱戦となった。
序盤から主導権を握ったのはレノファ。前半10分にカウンターで左サイドを突き、瀬川和樹のクロスに高木大輔がダイビングヘッドで合わせて先制する。しかし同24分に入った飲水タイム以降はレノファが自陣からボールを出せなくなり、鳥取がセットプレーやロングボールなどからシュートチャンスをつかむ。前半終了間際に林誠道が左サイドから入り込んでゴールを決め、1-1の同点。22歳の林はリーグ戦は交代出場が続いているが、試合を通して5本のシュートを放つなど見せ場を作った。
後半に入ると個の力に勝るレノファがボールを保持。山下が右サイドを深くえぐり、大石治寿や大崎淳矢も連動。後半15分、高木が左サイドの角度の浅いところからシュートを放つと、GKの跳ね返したボールに大崎が飛び込んで勝ち越しに成功する。さらに同23分にも大崎、高木の連係からチャンスを作り、最後はクロスに大石が合わせて突き放した。
大石のゴールが決勝点となり、レノファが3-1で勝利。育成マッチデーは2戦2勝となった。3得点に絡んだ高木は「昨日のリーグ戦に出られなかった悔しさを、得点とかでアピールしなければいけないと思って試合に入った。(1点目は)セグくん(瀬川)が本当にいいボールを入れてくれたので、絶対に決めてやろうと飛び込んだ。試合に出たいと思う選手は多いし、強い気持ちで臨んだ」と話す。
この試合でレノファは試合参加1ポイント、勝利1ポイント、試合環境3ポイントの計5ポイントを加算。鳥取は試合参加1ポイントを積み上げた。
前日のリーグ戦で敗戦を喫したレノファにとって(レビュー記事)、この試合での勝利はトップチームを十分に刺激するものとなった。育成マッチデーに先発し、若手選手にパスを供給した高柳一誠は「勝てたのはすごくポジティブなこと。チームがこういう状況(※9戦無勝利)ではあるが、練習試合や育成マッチであっても、勝つこと、ワンプレーワンプレーに対して責任を持つことは要求されている。名塚コーチも言っていたが、ここからどれだけクオリティーを高められるかで変わってくる」と力を込めた。
練習試合などで監督に代わって指揮を執る名塚善寛コーチは、テクニカルエリアまで出て何度も指示を送った。「まだまだ甘い部分があるし、暑さもあるかもしれないが、細かいところのポジション取りを早くしないといけない」と強調。「スタメンに出られない選手が頑張って突き上げないとチーム力はアップしない。出ている選手以上に高い意識を持ってトレーニングからやっていかないといけない」と話し、霜田監督とともにチームのボトムアップを目指す。
次週は両チームともにリーグ戦が開催され、レノファは8月26日午後7時からNACK5スタジアム大宮で大宮アルディージャと対戦。鳥取は同25日午後7時からとりぎんバードスタジアムでアスルクラロ沼津と対戦する。J3は一部のカードを除いて25日と26日が中断明けの再開試合となる。
※高柳と高橋の「高」、大崎の「崎」は旧字・異体字が登録名