Yahoo!ニュース

米1‐3月期成長率、予想下回る―減税終了と予算強制削減で回復遅れ

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
米国の四半期GDP伸び率推移=Briefing.comより
米国の四半期GDP伸び率推移=Briefing.comより

米商務省が4月26日に発表した1‐3月期実質GDP伸び率の速報値(季節調整済み、前期比年率換算)は+2.5%と、前期(昨年10‐12月期)の+0.4%(改定前+0.1%)を上回った。しかし、市場予想のコンセンサス+2.8%を下回ったほか、2012年1‐3月期の+2%以来の1年ぶりの低い伸びに変わりはない。

この弱い結果を受けて、26日のニューヨーク株式市場では、ダウ工業株30種平均は伸び悩み、前日比わずか0.1%高の1万4712.55ドルにとどまっている。

過去2年間の四半期成長率を見ると、いわゆる健全な経済の伸び率とされる+3%超を上回ったのは、2011年10‐12月期の+4.1%と昨年7‐9月期の+3.1%にすぎない。大半の四半期は+0.1~+2.5%の低調な動きとなっている。

低成長では失業率の急低下望めず

特に、雇用との関係では、GDP伸び率が+3%程度では人口の自然増を吸収して失業率の上昇を食い止めるのが精一杯といわれ、失業率を1%ポイント引き下げるためには+5%の成長率が必要といわれる。しかし、まだ、米経済はそこまでには至っていないのが実情だ。

3月の雇用統計で失業率は7.6%に低下したが、依然、高水準で、FRB(米連邦準備制度理事会)が今の金融政策を超低金利政策から利上げに転換し、量的金融緩和からも脱却する、いわゆる“出口戦略”に方向転換するほど改善しているわけではない。

FRBは出口戦略への転換を決める判断基準として、(1)失業率が6.5%を下回ること(2)1-2年先のインフレ率がFRBの長期達成目標(2%上昇)を0.5%ポイント超えない見通しであること(3)インフレ期待が抑制されていること―の3点を挙げている。3月の失業率はこの6.5%の基準を依然として大幅に上回っている。

失業率が2013年末までに、リセッション(景気失速)前の2007年12月の5%の水準に戻るには新規雇用者数は月平均40万人増が必要といわれる。しかし、3月は前月比わずか8万8000人増と、昨年6月以来9カ月ぶりの低い伸びが続いており、40万人増には程遠いのだ。

今後、景気が相当強まり、新規雇用者数が急増しない限り、失業率がこのまま低下し続けるのは難しい。ベン・バーナンキFRB議長も3月20日のFOMC(公開市場委員会)会合後の記者会見で、「我々は経済状況の先行き見通しの変化に応じて我々の金融政策手段(QE3)を調節することを考えている。景気が弱くなれば買い取りペースを高め、そうでなければ絞り込むかのいずれかの方向に向かう」とし、経済データを見ながら資産買い取り規模を調節するとしている。特に、春の時期は過去3年間、景気が再び低調になる傾向があるため、同議長は、今年もそうした“春のスランプ”が見られるのか注視していく、と懸念している。

企業在庫、今後は減少へ

今回のGDP統計の中身を見ると、GDPの押し上げ要因となる企業在庫の増加額が前期を大幅に上回り、また、個人消費も+3.2%と、前期の+1.8%を上回った。この2つの要因が成長率を押し上げた。しかし、その一方で、政府支出は今年から始まった予算の強制削減を反映して、-4.1%(前期は-7.1%)、また、企業の設備投資も+2.1%(同13.1%)と低迷している点が懸念材料だ。

1‐3月期の企業在庫の変動額は前期の133億ドル増から一気に約4倍の503億ドル増となっている。これはGDPを1%ポイント押し上げた。しかし、企業在庫は四半期ごとに乱高下を繰り返す傾向があるため、また、景気回復が遅れている現状を考えると、次の4‐6月期の企業在庫の増加幅は縮小するか、減少に転じる可能性が高い。

減税終了で個人消費は伸び鈍化へ

エコノミストの多くは、今回GDP押し上げ要因となった企業在庫と個人消費は、今後、伸びが鈍化していくと見ており、4‐6月期GDP伸び率の見通しも従来予想の+2.2%から+1.8%に下方修正している。また、米マクロエコノミクス・アドバイザーズのエコノミスト、ベン・ハーゾン氏は、今後は減税の期限満了に伴う増税によって、今年の経済成長率は1%ポイント、また、予算の強制削減によって、さらに0.6%ポイント押し下げられると予想しており、米国の景気回復は遅れる見通しだ。

減税が終了したのは、オバマ大統領が3月1日に、ブッシュ前大統領が2001年と2003年に実施した1兆3500億ドル(約133兆円)もの大規模減税を打ち切り、強制的な歳出削減に踏み切る大統領令に署名したためだ。このため、今後、歳出削減に代わる財政刺激策について、議会と合意できない限り、今年の経済成長は伸びが鈍化する恐れが出てきた。

強制的な歳出削減では、2013年会計年度(2012年10月‐2013年9月)の場合、年度末までの残りの7カ月間に8500億ドル(約84兆円)、その後も2021年度までの9年間にわたって計1兆ドル(約98兆円)を強制的に削減しなければならない。

そうなると、ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)の試算では、軍関係で約9万人の削減を含め、数十万人もの政府雇用が失われるという。IMF(国際通貨基金)では今年の米国のGDP伸び率は0.5%ポイント押し下げられると試算しているほど悪影響が及ぶ見通しだ。

政府セクター、低迷続く

経済成長率が今一つ強さに欠けるもう一つの理由は、政府セクターの低迷だ。これは短期間で景気回復するために必要な財政刺激策を取れないことを意味する。今回発表された1‐3月期の連邦政府(国)の消費支出と固定資本形成は、国防費の大幅減少で-8.4%、また、州政府・地方自治体も-1.2%となり、政府セクター全体の伸びは-4.1%と、前期の-7.1%に続いてマイナスとなっている。

政府セクターのGDP伸び率に対する寄与度も-0.8%ポイントと、2四半期連続で成長率の足を引っ張っている。

FRBが3月のFOMC会合後に最新の景気見通し(中央値)を発表しているが、それによると、長期見通し(5‐6年先)のGDP潜在成長率は昨年12月の前回予想時の+2.3~+2.5%(中心値2.4%)のまま維持された。しかし、2013年のGDP伸び率見通しは+2.3~+2.8%(+2.55%)へ、また、2014年も+2.9~+3.4%(+3.15%)へ、2015年も+2.9~+3.7%(+3.3%)へ、いずれも下方修正されている。

個人消費、+3.2%=貯蓄率、2.6%に低下

GDPの約7割を占める個人消費は+3.2%と、前期の+1.8%を上回り、2010年10-12月期の+4.1%以来、約2年ぶりの高い伸びに加速した。この結果、個人消費のGDP寄与度は前期の+1.28%ポイントから+2.24%ポイントに上昇している。

個人消費は2010年の+1.8%から2011年は+2.5%、2012年は+1.9%と、3年連続でプラス成長を示し、今年最初の四半期は2年ぶりの高い伸びとなったものの、今後は個人所得の伸びが鈍化し、貯蓄率も上昇して2012年水準に逆戻りする可能性が高いため、今後もこの+3%台の高い伸びが続くのは困難と見られている。

実際、1‐3月期の実質可処分所得は、前期の+6.2%から-5.3%と、2011年10‐12月期の-0.2%以来、1年以上ぶりにマイナスに転じている。これは今年1月から社会保障税の2%減税措置が打ち切りとなったためだ。また、貯蓄率も前期の4.7%から2.6%と、大幅に低下した。貯蓄率の低下は、つまり、貯蓄があまり進んでいないことを意味するので、今後、緊急時に備えて余裕資金を消費よりも貯蓄を優先することが予想される。従って、個人消費は、今後数カ月間は伸び悩み、今回のような強い伸びが持続するのは難しい。

ちなみに、社会保障税の減税終了による今年1年間の消費減少額は年収5万ドル(約490万円)の単身世帯で約1000ドル(約9万8000円)、共働きの夫婦世帯は最大4500ドル(約44万円)という試算があるほど、消費に与える影響は大きい。

個人消費を財とサービスに分けると、財支出は+3.3%(前期+4.3%)と、7四半期連続の増加となったが、GDPの47%を占めるサービス支出は+3.1%(同+0.6%)となった。また、財支出のうち、自動車などの耐久財支出は+8.1%(同+13.6%)と、前期に比べ伸びが鈍化した。対照的に、非耐久財支出も+1%(同+0.1%)と、6四半期連続の増加となり、伸びも加速している。

企業設備投資、+2.1%に鈍化=前期は+13.1%

1‐3月期の企業の設備投資は前期比年率+2.1%と、前期の+13.1%から伸びが急激に鈍化した。この結果、GDP寄与度も前期の+1.28%ポイントから+0.22%ポイントに急低下し、成長の足を引っ張ったことが分かる。

設備投資の内訳は、機械装置やソフトウエアに対する投資は2四半期連続の増加となったが、前期の+11.8%から+3%に減速した。一方、工場やオフィスなどの非居住用建物などに対する投資額は-0.3%と、前期の+16.7%から減少に転じ、企業の設備拡大意欲が弱いことを示している。

住宅投資、+12.6%=GDPを押し上げ

一方、住宅投資は+12.6%と、前期の+17.5%から伸びが鈍化。2012年4‐6月期の+8.5%以来、約1年ぶりの低い伸びとなったが、2012年全体の住宅投資の伸び率+12.1%を上回り、比較的高い伸びが続いている。しかし、GDP寄与度は前期の+0.41%ポイントから+0.31%に低下した。

政府投資、-4.1%=軍事費は-11.5%

他方、公共投資である政府消費支出・固定資本形成(州・地方自治体支出も含む)は-4.1%と、前期の-7%に続いて2四半期連続で減少した。予算の強制削減の開始で、政府投資は今後6四半期(1年半)、低迷が続く見通しだ。

連邦政府支出は主に軍事費の減少で-8.4%(前期-14.8%)と、2四半期連続で減少したが、州・地方自治体も-1.2%(同-1.5%)と、2四半期連続の減少となった。財政赤字による歳出削減が影響している。

国の内訳は、軍事費が-11.5%(前期-22.1%)と、2四半期連続で減少。一方、軍事費以外の支出も-2%(同+1.7%)と、再び減少に転じた。

この結果、政府投資のGDP寄与度は-0.8%ポイント(前期-1.41%ポイント)となった。

外需、GDP押し下げ

また、外需は、GDPの押し上げ要因である輸出(サービス含む)が前期の-2.8%から+2.9%と、増加に転じた一方で、反対にGDP押し下げ要因である輸入も原油価格の上昇で前期の-4.2%から+5.4%と、増加に転じた。しかし、輸入の伸びが輸出の伸びを上回った結果、純輸出(輸出額-輸入額)は-4008億ドルと、前期の-3847億ドルからやや赤字幅が拡大した。このため、今回の1‐3月期の純輸出のGDP寄与度は-0.5%ポイント(前期+0.33%ポイント)となり、足を引っ張った。

コアPCEインフレ率、前年比+0.9%

インフレの度合いを示すPCE(個人消費支出)物価指数は、前期比年率換算+1.2%(前期+1.7%)と、伸びが減速した。また、コアPCEも同+0.9%(同+1.6%)と、伸びが減速し、FRBが望ましいとするレンジ+1.5~+2%を下回っている。金融緩和策を続けているFRBにとっては、インフレ懸念はないといえる。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

増谷栄一の最近の記事