北欧の先住民 植民地と迫害の歴史を「針と糸」で表現
北欧の先住民が受けてきた迫害と土地の侵略。その歴史を象徴する歴史的な展覧会が、ノルウェーの国立美術館で開催されている。
ブリッタ・マラカット=ラッバ(Britta Marakatt-Labba)は、北欧で最も重要なサーミ人アーティストのひとりだ。
針と糸を使い、先住民の視点で、環境闘争と気候問題の問題を社会に問い続けてきた。
空からやってきた「黒いカラス」たちが、「植民者」という人間の姿に変化していく表現方法は作品をより際立たせており、見ていて心が痛む。
国立博物館の展覧会『Sylkvasse sting』は、サーミ人アーティストの作品を企画する過去最大級のものとして、現地で大きな話題を集めている。
1970年代の初期作品から現在に至るまで、刺繍やその他のテキスタイル作品、グラフィック、インスタレーション、彫刻などを展示している。
これまでの植民地の歴史、今も続く差別の現状などを、音楽や絵画など、サーミの人々はさまざまな文化的手法で表現してきた。そのなかでもマラカット=ラッバは、1970年代から際立った存在であり続けた。特に全長24メートルの刺繍作品は見ごたえがある。
不吉なものを想像させる黒色のカラスやネズミたちは、入植者がいかにサーミの人々のアイデンティティや生活、そして自然と環境を破壊してきたかを物語る。同時に、空、トナカイ、森など、自然とサーミ人がいかに共存してきたかも伝わる。夢や神話の視覚世界に、見る者は心を奪われるだろう。
自然界における社会の工業化に対して警告を発するマラカット=ラッバの作品は、声にすることができないサーミの人々の苦しみの叫びを表したものだ。
昨年は、若いサーミとノルウェーの若者がノルウェー政府に対して大規模な抗議活動を行ってきた。政府が建設許可を出した風力発電所は、サーミの生業であるトナカイ放牧地でもあるからだ。
ブリッタ・マラカット=ラッバの作品は。この抗議活動を行った若い世代の間でインスピレーションとなっている。マラカット=ラッバ自身も、過去にノルウェー政府によるグリーン・コロニアリズムに対する抗議活動に参加したアクティビストでもある。作品はサーミの権利を改めて問い直すものでもある。
先住民の視点でみる環境闘争や環境問題を、「刺繍」で考えるめったにない機会だ。「針と糸」という民主的な方法で、この問題を問い続けている。
展覧会は8月25日まで首都オスロにある国立美術館で開催されている。夏に北欧旅行をする予定があれば、ぜひ足を運んでみるのもいいだろう。