コロナ禍で広がる温泉地の「格差」 宿の経営を支えるのは[ファンビジネス]
日本で初めて新型コロナへの感染が確認されてから、もう2年以上が経過した。
先週6月10日には外国人観光客の受け入れが再開され、コロナ禍で大ダメージを受けた観光業界にとって嬉しいニュースだ。
この2年間、「宿泊業は深刻」と宿泊施設の経営難が度々ニュースで流れたが、業績の面でさほど落ち込んでいない宿もある。
その差はどうして生じたのか?
現場では何が起こっていたのだろうか?
コロナ禍で、旅館の実力差が顕著に現れた― 旅館は「ファンビジネス」
コロナ禍においては、「大型旅館より小規模旅館」「食事処で大勢と食事を摂るより、個室で」と、お客のニーズが大幅に変わった。
そのため、コロナ禍で厳しい経営を強いられてきたのは、団体を受け入れ、宴会で稼いでいた大型旅館だ。
宿によって差がついたのは、もうひとつ大きな理由がある。
とある有名観光地の観光案内所の所長はこっそり教えてくれた。
「これまでお客様と宿が築いてきた信頼関係ですね。
お客様は『○○さん(オーナーや女将)の宿なら、何かと安心だ』と考え、宿側も『○○さんが来てくださるのなら』と、リピーターさんなら安心という空気がありました。またそのような信頼関係がある宿には『コロナで大変でしょう、応援に来ました』というお客さんが後を絶たなかったと聞いています」
そう言われると、温泉専門家として、コロナ禍での温泉旅館の様子を多数取材してきた私も、心の底にいつも「信頼できる宿に泊まりたい」という気持ちがあったことに気づいた。
「『オーナーの顔が見えて、お客様の顔も見える』という宿の稼働率は7~8割を保ち、『オーナーの顔もお客の顔も見えにくい宿』の稼働率は実質2~3割だったのではないでしょうか」とは、前出の観光案内所の所長。
今後、温泉旅館はどのようにコアなファンを増やしていくか、ファンビジネスを展開していくかにかかっている。
文化財の宿は稼働率8割ほど!?
昨年11月に、福島県会津東山温泉「向瀧」を訪問した時に、6代目社長の平田裕一さんからこんなことを聞いた。
「うちは、食事は部屋出しをしています。温泉は源泉かけ流しです。そして木造建築は、気密性の高い鉄筋の建物とは違い、自然と換気ができるように作られています。そもそも日本の気候にあわせているのが日本の住宅で、旅館もそうなんですよね。日本旅館を守ろうと地味にコツコツとやってきたことが、コロナ禍のいま、新たに評価されたような気がしますし、日本旅館を守り続けることの大切さを感じています」
さらに「向瀧」では、最も宿泊価格が高い「はなれ」が特に人気で、「『はなれ』から予約が入ります」と平田社長は語る。
「宿泊単価が高い宿が好調」ということも、よく言われている。
それは外国に旅行に行けなかったこの2年、海外旅行に使おうとしたお金で国内の高級旅館に泊まるというニーズがあったからだ。
コロナ禍の2年で温泉旅館ホテルに大きな変化が
私は、観光庁の様々な会議に有識者として参画し、観光事業の動向を見てきている。
2021年「既存観光拠点再生・高付加価値化推進事業」などの大型事業により、温泉を有する旅館やホテルは改修が随分と進んだ。
まず露天風呂付客室が増えた。また超高齢化社会に向け、三世代旅行のニーズに応えるべくユニバーサルデザインを取り入れた部屋や、ペットと泊まれる部屋なども増える傾向にある。
このところ温泉地に取材に行くと、こうした補助金を活用して改修した部屋を見る機会が多くなった。例えば、群馬県伊香保温泉「ホテル松本楼」はどんなお客さんにも使いやすいユニバーサルデザインに改修し、榛名山の風景を独り占めできる窓の前にベットが置かれ、その部屋にいるだけで心身ともに満たされる空間になっていた。
旅行需要が確実に戻ってきている。コロナ禍から脱しようと懸命に取り組む旅館やホテルを応援するのはいかがだろうか。