北陸新幹線のルート選定、重視されるべき点は?
北陸新幹線を巡る動きが、にわかに騒がしくなってきた。国土交通省は11月11日に投資効果などの試算をまとめ、検討されている3ルートのうち「舞鶴ルート」が投資に見合わないとの見通しを示した。一方、JR西日本の来島社長は11月16日の定例記者会見で「小浜・京都ルート」が最適との考えを改めて表明。年内には与党の検討チームがルートを選定する方針で、駆け引きが激しさを増している。
そもそも、北陸新幹線構想は1965年にさかのぼる。金沢市で行なわれた公聴会で、砺波商工会議所の岩川会頭が佐藤総理大臣(いずれも当時)に対し、東京から富山・金沢を経て大阪を結ぶ新幹線の実現を求めた。1967年に基本計画が決定されたものの、国鉄の財政破綻などで工事は中断。分割民営化後に再開され、1997年にまず長野までが開通し、2015年には金沢まで延伸された。現在は引き続き、2022年度の開業を目指して敦賀までの工事が行なわれている。
今回話題となっているのは、この敦賀から先、大阪までのルートだ。現在は、福井県が推す「小浜・京都ルート」、京都府が推す「小浜・舞鶴ルート」、滋賀県が推す「米原ルート」の、3案が検討されている。
それぞれのルートについて見てみよう。建設費が一番安いとされているのが「米原ルート」。路線距離が約50キロと短く、建設費も国土交通省の試算では約5,900億円と他のルートの半分以下になる。だが、米原駅で東海道新幹線と接続するものの、同線の運行本数は現状でもかなり飽和状態で、北陸新幹線の列車が乗り入れる余裕はない。同線がJR東海の営業区間であることを考えても乗り入れは非現実的で、米原駅での乗り換えが必須になるだろう。これでは、利便性に疑問符がつく。
所要時間が一番短くなるのが「小浜・京都ルート」だ。小浜市付近から南下し、京都市を経て大阪市へ至るルートで、所要時間は43分を予定している。京都~大阪間についても新規に建設するため、東海道新幹線の運行に影響されることはないが、建設費は約2兆700億円と3倍以上に膨れ上がる。
そして、最近にわかに浮上してきたのが「小浜・舞鶴ルート」である。小浜市からさらに西へ進み、舞鶴市付近を経由してから少し戻る形で京都市へ南下。そこからは「小浜・京都ルート」と同様、新規路線で大阪へ向かう。所要時間は1時間0分、建設費も約2兆5千億円かかり、いずれも他ルートに比べて劣る。投資に対してどれだけの効果があるかを示す、費用便益比という数値も、「米原ルート」の2.2、「小浜・京都ルート」の1.1に対し、「小浜・舞鶴ルート」は0.7と算定された。この数値が1以上であれば、投資以上の効果があるということになるので、0.7という数字は”投資に見合う効果が得られない”ことを示しており、通常であればルート選定から脱落してもおかしくない。
それでもなお「小浜・舞鶴ルート」が注目されているのは、このルートを活用して山陰新幹線の建設へとつなげたいという思惑が一部にあるからだ。舞鶴市がある京都府だけではなく、鳥取県などとも連携して運動を強化。「山陰新幹線を実現する国会議員の会」会長でもある、前地方創生担当大臣の石破茂氏を筆頭に、地元議員が活発にアピールを繰り広げている。
新幹線の建設は政治的な意味合いも大きい。短期的な費用や効果を見るだけではいけない部分もあるだろう。だが、延伸区間が持つ本来の役割を考えるならば、結論は明確な気がする。それは「北陸と関西を速く・便利に結ぶ」という点と、「東海道新幹線のバックアップ機能を構築する」という点だ。そしてその原点に立ち返ると、現在検討されている3ルートの中では「小浜・京都ルート」以外にはあり得ないと考える。山陰地方の発展に山陰新幹線が必要だとしても、そのために本来の役割がおざなりになるようなことはあってはならないし、本当に必要ならば、まずはそのコンセンサスを得るべきだろう。そして同時に、これらが足かせとなって北陸新幹線の建設が遅れることもあってはならない。地方経済の衰退がじわじわと進むこの情勢で、北陸新幹線の建設が遅れれば、そのスピードがさらに加速してしまうことは間違いないのだから。
昔も今も、鉄道の建設には「我田引水」ならぬ「我田引鉄」という言葉がつきまとう。地元の発展を考えて政治を動かすことはもちろん大切だが、そのために他の地域が”とばっちり”を食わないよう、ひいては日本全体でプラスになるよう、議論が深まることを期待したい。