鈴鹿8耐に10年ぶりに参戦するホンダワークス!テストの遅れをレースで巻き返せるか?
伝統の「コカ・コーラ鈴鹿8時間耐久ロードレース」(以下、鈴鹿8耐)にホンダワークスチーム(Team HRC)が「Red Bull Honda with 日本郵便」として10年ぶりに帰ってきた。鈴鹿8耐で過去40回の内、27回の最多優勝回数を誇るメーカー、ホンダ。大本命であるワークスチームの復帰ということで期待が大きいはずなのだが、事前の公開合同テストでは安定した速さのヤマハ、そしてジョナサン・レイを起用するカワサキの影に隠れてしまった。
10年ぶりに復帰のワークス
ホンダにとって「鈴鹿8耐」は二輪の「MotoGP(グランプリ)」、四輪の「F1世界選手権」と並んでトッププライオリティに位置付けられる重要なレース。創業者の本田宗一郎が在命の時代には表彰台を獲得したライダーには直筆の色紙が送られていたほどだ。
そんな一大イベントでホンダはここ3年間、ヤマハワークス(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)に負け続けている。80年代には3連勝、90年代のワークス対決全盛期には複数回の連勝、1997年から2006年まで10連勝、2010年代にもプライベーターにワークス仕様のマシンを託して5連勝を飾るなど、ホンダは鈴鹿8耐のICONと言える存在であるはずなのにここ数年は頂点から遠ざかっている。
ホンダのバイクが3年連続で他メーカーの勝利を許すのは鈴鹿8耐の歴史上、初めてのこと。さすがにこれ以上の負けは許されない事態に陥ってしまっていた。
CBR1000RRに変わる次期フラッグシップモデル登場までワークスの復活は無いと噂されていたが、昨年末にホンダは突如、「Team HRC」として全日本ロードレース選手権・JSB1000、鈴鹿8耐へのワークス活動再開を宣言。今季はJSB1000王者の高橋巧をライダーに、そして監督に宇川徹を起用して戦っている。
そして、いよいよ始まる鈴鹿8耐にはビッグスポンサーが就くことになった。F1でも今季からパートナーとなっているエナジードリンクメーカーの「レッドブル」、そして配達にホンダのバイクを使用する「日本郵便」だ。ホンダワークスは「#33 Red Bull Honda with 日本郵便」として鈴鹿8耐の王座奪還を狙う。
ライダー選びに難航、キャミア欠場
6月末にようやく、高橋巧(全日本JSB1000)、中上貴晶(Moto GP)、レオン・キャミア(スーパーバイク世界選手権)のライダー編成を発表した「#33 Red Bull Honda with 日本郵便」だが、カワサキがジョナサン・レイの起用を発表したのは3月だったことを考えるとライダー選びはかなり慎重かつ、難航していたと考えられる。これまでケーシー・ストーナーを電撃復帰させたり(2015年)、ニッキー・ヘイデンを起用する(2016年)など大物ライダーの起用で話題を呼び寄せてきたホンダ陣営。昨年のジャック・ミラーに続き、大物MotoGPライダーの起用も噂されていたが、MotoGP優勝経験があるライダーの起用は実現できなかった。
そもそも今年はMotoGPが7月中旬までレース日程が組まれるスケジュールになっていたため、現役MotoGPライダーの招聘は容易では無いと考えられていた。MotoGPのヨーロッパでのレースと鈴鹿でのテスト走行が連続するため、充分な準備ができないためだ。MotoGPからは中上貴晶が起用されることになったが、今季は彼はまだ同クラスのルーキーであり、本来であればMotoGPに専念したいところ。しかし、彼は忙しいスケジュールをぬってヨーロッパと日本を往復し、鈴鹿8耐のプライベートテストに参加した。
3人目のライダーは鈴鹿8耐出場経験があるレオン・キャミア。今季スーパーバイク世界選手権でホンダに移籍したが、シーズン途中の転倒で肋骨を折るなどの大怪我を負い、実質3ラウンドを欠場。まだ怪我の状態が万全では無い中での起用に今季のホンダワークスのライダー選定の苦悩をうかがい知ることができる。
そして、レオン・キャミアは鈴鹿の公開合同テストに参加したが、ヘアピンで大転倒を喫してしまう。残りのテスト走行は大事をとって走行を見合わせ、会見では「ドクターと話し合って出場するかどうかを判断する」と力無い表情で語っていた。その後、脊椎に小さなクラックが見つかったため、キャミアは欠場と発表された。
結局、3人目のライダーとして代役出場が決まったのが、当初は「#634 MuSASHi RT HARC PRO」からの参戦が発表されていたパトリック・ジェイコブセン(スーパーバイク世界選手権)。テストでハルクプロのマシンに乗り3日間走り込んでいたジェイコブセンだが、本番では急遽、ワークスチーム入りすることになった。ライダーの怪我による欠場というアンラッキーがあったとは言え、直前でのライダー編成変更はチームにとって厳しさを増幅させる事態。当然、ジェイコブセンが乗るはずだったハルクプロにも影響が出る。
パトリック・ジェイコブセンは今季スーパーバイク世界選手権でホンダCBR1000RRを駆るものの、ベストリザルトは10位と苦戦している。上位争いにはほとんど顔を出していない。ただ、ジェイコブセンは2016年にTSRから鈴鹿8耐に出場し、トップ10トライアル予選や決勝レースの猛烈な追い上げなど素晴らしいパフォーマンスを披露した実績がある。
厳しい中で魅せてこそワークスだ
とにかく慌ただしすぎる船出になってしまっているホンダワークス「#33 Red Bull Honda with 日本郵便」。公開合同テストはすでに終了したが、1日だけプライベートテストをするチャンスがあるという。元々スケジュールが合わないライダー達が最終調整するために用意されていたテストだろう。ここで、高橋、中上、ジェイコブセンがどこまでお互いのライディングを合わせられるか注目される。
キャミアの転倒によって3日間の公開合同テストをほとんど一人で走行することになった高橋巧は「休憩も無しに走り続けることになって大変でした。他のライダーと走ることができれば、違う意見も聞くことができるのですが」と公開合同テストでの現状を語った。また、3度の鈴鹿8耐ウイナーである高橋は「8耐ではまず転んではいけない。予選の順位はあまり関係がない。とにかく一発の速さよりアベレージが大事」と語る。バイクのセッティングを煮詰め、アベレージ(決勝レースでの3人のライダーの平均ペース)を上げていきたいところだが、ここに来てのラインナップ変更がどう影響するか。残された時間は限られている。
厳しい状況ではあるが、ホンダワークスがヤマハワークスに対して牙を剥いてこそ、久々の「フルワークス対決」となる今年の鈴鹿8耐の魅力が増す。だからこそレースウィークでのホンダワークスの底力に注目したい。予選の順位よりも決勝と語る高橋巧だが、ポイントとなるのは「トップ10トライアル」だろう。選抜された1チーム2名のライダーが一人ずつ走る土曜日の最終予選だ。
この1発アタック予選で攻めの姿勢で高いパフォーマンスを見せ、ウィークの流れを変えることもワークスとしての使命ではないだろうか。ちなみに鈴鹿8耐でのポールポジションは3年連続でヤマハワークスが獲得している。ホンダのポールポジションは2009年の秋吉耕佑(当時TSR)が最後になっていることも、ワークス参戦するからには無視できない事実である。
勝利することを義務付けられたホンダワークス。これまでにないプレッシャーと苦境を彼らは乗り越えることができるだろうか。