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8回KO勝ちでタイトルを防衛したチャンピオン

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
撮影:山口裕朗

 2023年6月13日に日本スーパーフライ級王座を獲得した高山涼深が、9月22日に村地翼との防衛戦を行い、8回2分44秒KOで勝利した。

 この試合のリングに上がった高山の表情は硬かった。日本チャンプは振り返る。

 「フワフワしていました。目に見えないプレッシャーを感じていたのかもしれません。地に足が着いていないという感じでしたね。『タイトルは獲るよりも、守る方が難しい』ということを実感しました」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 序盤の動きにも鋭さが無く、挑戦者の右を何度も喰う。

 「そういうのが出てしまったのか、僕の立ち上がりは滅茶苦茶悪かったですね。初っ端から行く作戦だったんですよ。空回りしちゃったのかなと。一発目の村地の右を喰った時に、反応出来なかったんです。思ったよりも速かったですね。その後も何度も右を貰ってしまいました。

 相手の右ストレートに合わせ、左ボディーを当てていこうと考えていました。下から削って行こうと。『こうしよう』『こうしよう』という思いが強過ぎて、ぎこちなくなってしまったのかもしれません。

 顔面が空いているから狙えばいいのに、的とした腹への攻撃に拘り過ぎました。2ラウンド目も、初回からの流れで相手の方が見栄えが良かったんじゃないかと思います。ただ、1~5ラウンドまで、焦りは無かったんです。いつかは自分のペースになるだろうという確信がありました。やはり、そのカギとなるのも、ボディーブローだと信じていました」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 高山を救ったのは、ジムの先輩であり、この日セコンドに加わっていた元WBOミニマム級チャンピオンの谷口将隆の言葉だった。

 「3回に気持ち、体が解れたのと、インターバル中に谷口さんから、『左から攻めろ』『左ストレートからだ!』と繰り返し言われたんですよ。僕のジャブに左フックを合わされていたんですね。流石は谷口さんです。的を得たアドバイスでした。それでダウンも奪えたのかな…」

 ワンツーを効かせた後の右フックで、挑戦者を沈めた。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 「ただ、4ラウンドにも村地の右を喰ったんです。5ラウンドもポイントを失いました。相手もペースを崩さずに頑張っていましたよね。ダウンしたことによる精神的な不安定さは、ちょっと感じました。でも、しっかり自分の距離で対応していましたね」

 5ラウンド終了時、そこまでのスコアが読み上げられ、ジャッジの2名が2ポイント差で村地優勢としていた。残る一人の採点はドローだった。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 「自分自身は、採点を聞く余裕が無かったんです。小口忠寬さん(トレーナー)に『俺の目を見ろ。お前、負けてるぞ。ここで行かないと、マジで敗者になるぞ。ペースを上げて前に出ろ!』『スタミナが切れてもお前の方が練習しているから、自信を持て!!』ってカツを入れてもらったんです。取りあえず、それだけをやろうと、コーナーを出ました」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 6回は高山の左ストレートが冴えた。クリーンヒットする度に、挑戦者は激しく消耗した。そこで村地が取った策はホールドだった。

 「あれは鬱陶しかったですね。向こうの作戦だったと思うんです。離れて、くっついて、当てて逃げて、また離れて、くっついてみたいな。イライラしてしまって、大振りになってしまったところもあります。そこは反省です」

 8回、村地はホールドで減点される。

 「精神的に落ち始めているのかな、と感じましたから、行くなら今だ! と仕留めにかかりました。コンビネーションの返しの右フックが決まって良かったです」

 同ラウンド2分44秒、高山はKO勝ちで初防衛をクリアした。

 「村地は思ったよりも強くて上手くて、ずる賢い選手でしたが、防衛出来てホッとしています。

 試合中、もうし少し余裕を持って周囲の声を聞けるようにする点と、僕は食べることが好きなので、普段からもっと節制することが次へのテーマですね」

日本ボクシングコミッションがメディアに公開したオフィシャル・スコアシート 撮影:筆者
日本ボクシングコミッションがメディアに公開したオフィシャル・スコアシート 撮影:筆者

 渡辺均・ワタナベジム会長は言う。

 「高山は前半、無造作に淡々とやる傾向があります。そこでパンチを貰ってしまう。でも、序盤を凌いで後半巻き返せるというのは、実力がある証拠です。2~3回防衛戦をやらせて、上を狙わせたいですね」

 立ち止まれない高山涼深。ここからボクサー人生のギアが上がりそうだ。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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