広範囲で梅雨末期のような大雨 雨量200ミリは「20センチの深さ」ではなく「2000トンの水の塊」
線状降水帯
令和3年(2021年)8月12日の日本列島は、東日本から対馬海峡にのびる停滞前線に向かって2つの方向から暖湿空気が流入してきました。
南シナ海から南西風にのって流入してくる暖湿空気と、太平洋高気圧の縁辺部をまわるように南から流入してくる暖湿空気です。
このため、西日本北部を中心に大雨が降りました(図1)。
福岡県と熊本県には線状降水帯が発生し、気象庁は8月12日13時59分に「福岡県、熊本県では、線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続いています。命に危険が及ぶ土砂災害や洪水による災害発生の危険度が急激に高まっています」という「顕著な大雨に関する全般気象情報」を発表しました(図2)。
また、12日13時40分に、熊本県和水(なごみ)町では、町内を流れる十町川が氾濫する恐れが高まっているとして、町内全域の9835人に危険度が最も高い警戒レベル5の「緊急安全確保」を発令しました。
このほか、熊本県菊池市や大分県九重町の一部地域でも警戒レベル5の「緊急安全確保」を発令となりました。
警戒レベルは、台風や豪雨などに際して、その地域の住民が取るべき避難行動を直感的に理解できるよう、気象庁や自治体が災害の危険度を5段階で伝えるものです。
導入のきっかけは、平成30年(2018年)7月豪雨、通称「西日本豪雨」の時に、災害についての情報が分かりにくかったという指摘を受けて国が導入したもので、最も高いのは警戒レベル5の「緊急安全確保」です。
防災気象情報で言えば、大雨特別警報か高潮氾濫発生情報に対応します。
すでに災害が発生しているか、あるいは近くで災害が発生していて危険が迫っているという切迫している段階です。
危険な区域からまだ避難していない場合は、命を守るための最善の行動が必要であり、すでに避難している人も最大限の警戒が必要となります。
8月11日~12日の48時間降水量は、九州では多くの地点で200ミリを超え、長崎県の雲仙岳では552ミリを観測しています(図3)。
200ミリ、センチに直すと20センチです。
20センチなら、地表から足のくるぶしの少し上くらいと考えるのは大間違いで、とんでもない量の水です。
雨量の単位
雨量の観測は、水平な面に溜まった雨水の深さをミリメートル単位で測ります。
一般的には、「1ミリメートルの雨」といわずに、「1ミリの雨」といいます。
1ミリの雨というと、少ないような印象を受けますが、1ミリの雨に相当する水は、かなりの量で、地面がしっかり濡れます。
1坪(3.3平方メートル、たたみ2枚)の面積に1ミリの雨量に相当する水は、ビール瓶5本分にもなります(タイトル画像参照)。
例えば、10坪の庭に1ミリの雨に相当する水を撒くには、ビール瓶で50本分が必要です。
これが、グラウンドくらいの面積(100メートル×100メートル)なら、1ミリの雨に相当する水の量は10トンです。
200ミリの雨は、センチに直すと20センチですが、グラウンド1つで2000トンの水の塊と考えたほうが、そのすごさがわかるでしょう。
低地ではあっという間に多量の水が集まり、大きな災害につながります。
雨量200ミリは「20センチの深さ」という認識ではなく、集めればグラウンド1つあたりで「2000トンの水の塊」という認識で受け取り、警戒する必要があります。
雨量計
雨量の観測には、長いこと直径20センチの円筒形の筒を地面に鉛直に置いて、降った雨をなかにある貯水びんに溜め、その雨量を、雨量升で測って雨量を求めていました(図4)。
この方法では人手がかかり、短い時間間隔での観測はできませんでした。
現在では、転倒升を使った雨量計を用いて、自動的に10分間隔で雨量を観測しています。
転倒升型雨量計というのは、日本庭園にある「ししおどし」と同じ原理で、0.5ミリに相当する雨が溜まったら、バランスが崩れて升が傾き、雨水をこぼします。
この雨水をこぼすごとに、傾いた升がスイッチを押し、その数が記録されます。
例えば、5回スイッチが入ると2.5ミリの雨になります。
アメダスに用いられている雨量計も転倒升型雨量計です。
梅雨末期のような大雨
華中から西日本日本海側を通って東日本へのびている前線は、向こう1週間程度は本州付近に停滞する見込みです。
前線に向かって南から暖かく湿った空気が流れ込み大気の状態が非常に不安定となって、前線の活動が活発な状態が続くでしょう。
このため、14日にかけて、西日本を中心に非常に激しい雨が降り、西日本から北日本の広い範囲で大雨となり、15日以降も雨が降り続き、総雨量がさらに増えるおそれがあります。
13日~15日の72時間では、東日本から西日本の広い範囲で200ミリ以上の大雨となり、所によっては800ミリを超えるというコンピュータの計算もあります(図5)。
気象庁は、早期注意情報を発表し、5日先までの警報級の可能性を「高」「中」の2段階で予測しています。
これによると、8月13日から15日は、九州から東北まで「高」の県があるほか、多くの府県で「中」となっています(図6)。
また、16日も17日も北陸から西日本で「中」となっています。
これからしばらくは、広い範囲で長期間にわたる雨に対する警戒が必要となっています。
土砂災害に厳重に警戒し、河川の増水や氾濫、低い土地の浸水に警戒してください。
ウェザーマップの10日間天気予報をみると、札幌と那覇を除いて、17日(火)までは連日にわたって傘マーク(雨)が」ついています(図7)。
これは、少なくとも、17日(火)までは、前線が停滞するということを示しています。
東京は、18日(水)以降はお日様マーク(晴れ)と白雲マーク(雨の可能性が少ない曇り)となりますが、名古屋から西日本各地でお日様マーク(晴れ)が登場するのは、20日(金)以降となります。
新潟と仙台は、傘マーク(雨)がなくなっても、黒雲マーク(雨の可能性がある曇り)の日が続きますので、20日(金)前後までは雨に警戒が必要です。
立秋(8月7日)が過ぎていますが、記録的な梅雨末期豪雨が発生中という感覚で、厳重な警戒が必要です。
タイトル画像、図4の出典:饒村曜(平成10年(1998年))、イラストでわかる天気のしくみ、新星出版社。
図1の出典:気象庁ホームページ。
図2、図3、図5、図6、図7の出典:ウェザーマップ提供。