阪神タイガース・坂本誠志郎選手、故郷に「正捕手獲り」を誓う
■故郷の盛り上がりを目の当たりに・・・
一年ぶりに帰った故郷の風景は、少し面映かった。町のいたるところで目にする、自身の名前の入った横断幕やのぼり。話には聞いていたが、ここまで応援してくれているのかと坂本誠志郎選手は感謝するとともに、もっともっと活躍して応えなければと気持ちが引き締まった。
坂本選手の出身は兵庫県の北部に位置する養父市だ。この時期は雪も積もり、鹿や熊も出没するという。初めてのプロ野球選手誕生に町は沸き、市を挙げて応援してくれている。広瀬 栄市長を名誉会長に、有志が集まり後援会も設立してくれた。
■恩返しの野球教室
プロ入りして初めてのこのオフ、応援してくれている人たちに何か恩返しがしたかった坂本選手は、後援会のバックアップで子供たちの野球教室を行った。地元の野球チーム7チームと出身の養父中学野球部の後輩たち、総勢60人を招き、熱心に指導した。開催した施設は「養父市立全天候型野球場」。屋根のついたグラウンドで、坂本選手もかつてはここでボールを追いかけていた。懐かしい思い出のつまった場所だ。
キャッチボールに始まりゴロ捕、キャッチング、バッティングなど丁寧に基本を教えた。一生懸命なのだが、ただ一つ、消極的だったのが「マイク」だ。冒頭の挨拶でもマイクの前に立ったが話す内容は控えめで、野球教室中も中学時代の恩師がマイクを使うよう促しても「生声でいきます!」と、頑として受け入れなかった。どうやら子供の頃からの知り合いも多く見ていたからか、照れくささが先に立ってしまったようだ。そのあたりはまだまだ初々しい。
■子供たちからの鋭い質問
しかし段々とノってきて、指導のあとの質問コーナーでは“らしさ”も出てきた。1問目、「金本監督のノックは下手クソなんですか?」といういきなりの“先制パンチ”には少々面食らった坂本選手だが、「ノックをしているのを見たことないですね」とうまく切り抜け、自ら「監督が素振りしたりティー打ったりしているのを見ていても迫力があって、ボクらも勉強になることがたくさんあります」と監督を讃えるコメントを付け加えるという技も見せた。
「タイガースの中でカッコイイと思う選手は誰ですか?」との問いには北條選手の名前を挙げ、「一生懸命、練習をする」と持ち上げたあと、「後輩なのに友達みたいに呼び捨てで呼ばれる(笑)」と落とした。
「矢野コーチの練習は厳しいですか?」という質問には「厳しいですけど、ただ怒るとかじゃなくて、自分で考えるようにしてくれる。難しいけど、やり甲斐のある教え方で勉強になっている」と返した。
最後の「勝ちたいピッチャーはいますか?」には、かなり頭を悩ませた。「誰やろ…」と呟きながら、答え方を逡巡した。しばらくの沈黙のあと、口から出たのは「各球団のエースといわれるピッチャー」だった。「ジャイアンツだったら菅野さん、ヤクルトだったら小川さんとか。そういう人から打てないと試合には出ていけないし、チャンスはもらえないから。みんなが知っているようなエースといわれるピッチャーを打っていかないと」。本音だった。またそれこそが、自身の課題でもあった。これには子供たちも真剣に聞き入っていた。
■「勝てるキャッチャー」を目指して
2年目のシーズンを迎える。ルーキーイヤーを振り返った坂本選手は、「使っていただいたという感じだった。それは自分でもわかっていたし、その中でチャンスをつかめたらと思っていたけど、決め手がなかった」と語る。反省点として挙げたのが「勝てなかった」ということだ。「スタメンで出た試合の勝率がよくなかったんです。自分のイメージなんですけど…」と話すように、坂本選手がスタメンマスクをかぶった試合のチームの勝敗は5勝13敗。勝率にすると・278だった。
「数字に見えないポジションではあるけど、数字に見えた方が認めてもらえる。求め過ぎたらダメだけど、数字は一つの評価になるから」と話し、わかりやすく「坂本がマスクをかぶれば勝てる」というのを目指していくという。
「勝てるキャッチャー」になるためには、「点を取られないこと。点を取られなかったら負けない」と持論を展開する。
坂本選手には、昨季から考えていたことがある。アマチュア時代はトーナメント形式で戦うことが多かった。つまり一発勝負だ。しかしプロは違う。何度も同じチーム、同じ打者と当たる。昨年はまだプロの戦い方に馴染めていないところがあったと省みる。
「すべての場面で勝負にいってしまって、本当に大事な勝負どころで手詰まりになってしまっていた。もっとリードにも強弱をつけないと」。そこに自らの“敗因”を見出した坂本選手は、その教訓を昨年末の台湾でのウィンターリーグで生かしたという。「台湾でも強弱というのを意識してやりました」と、今季に向けての手応えは掴んで帰ってきたようだ。
またピッチャーとより理解し合うために、普段からコミュニケーションを深めていくことも口にする。「気づいたことは遠慮せず、どんどん言っていこうと思います。もっとピッチャーのことをわかりたいし、自分のこともわかってもらうために」。話すことでお互いの考えを知り、信頼関係を気づいていくつもりだ。
キャッチャーは守りが重視されるとはいえ、出場機会を得るためには打力も必要だ。子供の質問にも答えたように、各チームのエース級を打つことは大きな課題だ。そして「キャッチャーで(打率)・250はなかなかいない。そこは一つの目標です。そのために四球をしっかり取っていければ率にも影響するから。無駄な打席がないようにしたい」と、具体的な数字も掲げた。
■名前の横に並ぶ文字ははたして・・・
「ポジションは一つしかないんで、勝負して獲らないと。まだまだ若いんで積極的に貪欲に掴みたい」とレギュラー獲りを誓う坂本選手。
市内のあちこちで目にする横断幕やのぼりには「坂本誠志郎」の横に「阪神タイガース入団」や「プロ野球選手誕生」などの文字が添えられている。「ありがたいけど…(プロに)入っただけじゃなくて、もっといい“題名”を付けてもらえるようにしたい」。
その“題名”は「正捕手」なのか、いずれかのタイトルなのか、はたまた「優勝おめでとう」なのか…。来年、帰省したときには違う文言が入るよう、坂本選手は今季の飛躍を故郷の人々の前で誓っていた。
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