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氷川きよし復活「ご無沙汰してすみません」――稀代のシンガーがその表現の振り幅の大きさを示した3時間

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/高田真希子

1年8か月ぶりのステージにファン6500人が駆け付ける。前日は台風の影響で延期に

氷川きよし復帰後初コンサート『KIYOSHI HIKAWA+KIINA. 25th Anniversary Concert Tour ―KIIZNA―』が8月17日、東京・有明ガーデンシアターで開催され、復帰を待ちわび駆け付けたファン6500人を前に32曲を披露した。

復活コンサートは16、17日の2日間開催予定だったが、16日は台風7号接近の影響で残念ながら延期に。そして17日はまさに台風一過、澄んだ青空が“復活祭”の開催を祝福しているようだった。2022年12月14日東京国際フォーラムホールAでのコンサートを最後に無期限の歌手活動休養に入り、この日が1年8か月振りのステージだったが、まさに稀代のボーカリストとしてのその歌の力と表現の振り幅の大きさを提示した3時間だった――。

氷川が黒のラメ入りのスーツで登場すると客席から大きな拍手が贈られる。オープニングナンバーに選んだのは自身が作詞を手がけ、木根尚登が楽曲提供した「WALK」だ。<どれほどたくさんの人に励まされて ここまで来たんだろう 優しい人たちが みんな微笑んで 見守ってくれた>とファンとスタッフへの感謝を込めた歌詞を、ひと言ひと言丁寧に届ける。ブランクなど感じさせない伸びやかな声が、広い会場の隅々にまで響き渡っていた。「今日はみなさんお忙しい中ありがとうございます。楽しんでいってください」と客席に語りかけ、歌い終わった後は満面の笑みを浮かべていた。

このコンサートから一新したバンドのアンサンブルが楽しめる「僕と私の1ページ」、手拍子と客席とのコールアンドレスポンスを楽しむ「Happy!」などを披露。そして白の燕尾服に着替え登場すると「歌は我が命」で、改めて歌い続けることの決意を力強い歌で表現。故郷からの旅立ちを描いた「出発」では感極まっていた。「星空の秋子」「甲斐路」「大丈夫」そして「きよしのズンドコ節」など人気曲を次々と披露していくと、客席のペンライトが激しく揺れる。

白紋付紫袴に着替えると「大井追っかけ音次郎」「箱根八里の半次郎」「男の絶唱」「白雲の城」など、演歌の名曲を圧巻の表現力で歌い、まさに“氷川劇場”に客席が引き込まれる。

スペシャルゲスト木根尚登(TM NETWORK)とセッション。「木根さんに励まされて歌い続けようと思った」

木根尚登
木根尚登

うしろにKIINA.とプリントされたダメージデニムのセットアップに着替えた氷川が、サプライズゲストTM NETWORK木根尚登と共に登場すると、大きな歓声があがる。そしてTM NETWORKの「SEVEN DAYS WAR」を、アコースティックギターを弾く“心友”と共に披露。<ただ素直に生きるために>という歌詞が深く伝わってくる。

ここで「KIINA.です、ご無沙汰していてすみません」と客席に挨拶。「おかえり」「待ってたよ」と書かれた団扇をみつけ、感激していた。そしてこのコンサートのツアーTシャツを着た木根は「こんなにポップスから演歌まで歌える人はいない」と改めて氷川の歌を賞賛。氷川は「色々あったけど木根さんに励まされて歌い続けようと思った」と語り、二人の絆の深さが伝わってきた。そして木根が「キーちゃんの歌詞導かれるように曲を書いた」と語った「You are you」を披露。氷川の歌と木根のコーラスが重なると、歌詞に込められた情感と温もりが際立ってくる。

「これからも応援をよろしくお願いします。頑張ります!」

氷川が父のことを描いた「FATHER」では涙を浮かべながら歌い、木根の温かなブルースハープの音色がさらに切なさを増幅させる。大切なパートナー(愛犬)のことを歌った「きみとぼく」、そして漫画家・ヤマザキマリが作詞、木根が作曲を手がけた、慈愛に満ちた温かいナンバー「生まれてきたら愛すればいい」まで、木根とのセッションを楽しんでいた。

「これからも応援をよろしくお願いします。頑張ります!」と深々と頭を下げ「だからあなたも生き抜いて」を披露し、本編ラストの「あなたがいるから」では「撮影OKです」と客席に伝え、ファンを喜ばせた。

クイーン「ボヘミアン・ラプソディ」を圧巻カバー

アンコールはドレス&パンツスタイルで登場し、一曲目はクイーン『ボヘミアン・ラプソディ」の日本語詞カバー(訳詞:湯川れい子)だ。氷川の圧倒的な表現力とパワフルな歌をバンド、ストリングス、コーラスがドラマティックな演奏で盛り上げるとグラマラスなロックが完成。そして「雷鳴」とロックナンバーを立て続けて歌った。「キニシナイ」ではバズーカで客席にカラーボールを届け、客席に降り、歌いながらファンと触れあう。

ファン投票で収録曲を決める『氷川きよしリクエストベスト』発売(9月4日)

さらに活動のターニングポイントに歌い、9月4日に発売される、ファン投票で収録曲を決める『氷川きよしリクエストベスト』の投票結果で1位に輝いた「限界突破×サバイバー」を投下すると、客席の盛り上がりはクライマックスだ。そして最後に選んだのは、歌詞の冒頭が氷川のデビュー記念日<2月2日>から始まる「碧し」だ。<今日は ただ 本当にありがとう>と、集まったファンに歌で感謝を伝え、大団円。

「過去の曲も大切にしていきながら、新たな世界を作っていきたい。色々なジャンルのとにかく“いい歌”を丁寧に選んで歌っていきたい」

4月に新会社「KIIZNA(キズナ)」を設立し新たなスタートを切った氷川。ファンに感謝を伝えるこのツアーは9月に大阪、10月に大宮で行ない、10月下旬から「氷川きよし 25周年記念劇場コンサートツアー」を行なう。インタビューで「過去の曲も大切にしていきながら、新たな世界を作っていきたい。色々なジャンルのとにかく“いい歌”を丁寧に選んで歌っていきたい」と語っていた氷川。このコンサートがまさにその理想形への第一歩だった。

なおこの日の模様がWOWOWで11月に放送・配信されることが決定している。詳細は後日発表される。

また本日17日、氷川きよしの最新情報が届くファン待望の無料メール配信サービス「キイナメール」が新たに開設された。

氷川きよしオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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