Yahoo!ニュース

渡會将士 20周年記念ライヴで見せた常に“明日の音”を響かせ進化し続ける男の生き様――次のフェーズへ

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/Daisuke Honda(全て)

20周年を締めくくる『渡會将士20周年音楽會』開催

渡會将士が20周年を締めくくるワンマンライヴ『渡會将士20周年音楽會』を、デビュー記念日の11月3日にVeats Shibuyaで行なった。2001年バンドFoZZtoneを結成し、2004年11月3日にインディーズ盤 1stミニアルバム『boat4』をリリースし、本格的な音楽活動をスタートさせてから20年だ。FoZZtoneは2007年にメジャーデビューし、2015年活動休止。その渡會はソロ活動をスタートさせ、並行してTHE YELLOW MONKEYのギタリスト・菊地“EMMA”英昭のプロジェクト・brainchild’sのフロントマンとしても活躍している。

若山雅弘(Dr) 渡會将士  中村昌史(B)
若山雅弘(Dr) 渡會将士 中村昌史(B)

2024年、渡會はとにかく動いた。この日のライヴ中のMCで「3日に一回ライヴをやっていた」と語っていたが、決して大げさではなく、3月にツアーを行ないその後フェスに出演。そしてイベント、インストアイベントも精力的に出演。9月4日にソロとして4枚目、約3年ぶりとなるフルアルバム『MorroW SoundS』を発売。8日からはアルバムを携えた全国ツアー『渡會将士 翌日tour 2024』を対バンスタイル(ソロ、トリオ)で開催し、ツアーの合間にインストアイベントを行なった。ライヴ三昧の一年で、年末にかけてそれはまだまだ続くが、20周年を締めくくるという意味でのこの日のワンマンライヴは、特別な思いでステージに立った。それは駆け付けたファンも同じだ。

開演前から渡會のこれまでの作品が会場BGMとして流れ、観客は口ずさみながら開演を待っていた。オープニングナンバーはニューアルバムのタイトル曲「MorroW SoundS」だ。<光が射す音>という歌詞があるが、まさに渡會の歌が光が射すように客席に降り注ぎ、“希望”を感じさせてくれる。ちなみに“MorroW SoundS”は最初にソロ作品をリリースした時の主宰レーベル名でもあり、FoZZtoneとしてリリースした最初のミニアルバム『boat 4』の1曲目のタイトルが『MorroW』だった。新作『MorroW SoundS』が原点回帰の意味を多分に含み、次へ進むためのアルバムだということが伝わってくる。

続く「Wake me up」も背中を押してくれるような爽やかなポップスで、中村昌史(B)と若山雅弘(Dr)のリズム隊の太いリズムと渡會のボーカルが交差し、強烈なグルーヴが生まれる。「渋谷!」と叫ぶと客席から大歓声が上がる。イントロから歓声が上がり手拍子が起こったのは「Daybreaker」だ。夏を感じさせてくれるキャッチ―なナンバーで、渡會のギターソロが炸裂。この日は全曲、歌だけではなくそのギターの音色も聴きどころのひとつだった。歌に寄り添いながら感情を掻き立てるギターにも、渡會節を強く感じることができた。

「夏から駆け抜けたツアーが終了してこの日を迎えました。20周年の締めくくりの日、心ゆくまで楽しんで」とメッセージを贈り「蝶結び」へ。歌詞もリズムを生み、独特のビブラートが効いた奥行きを感じさせてくれるその声が、叙情的なサビを歌うと心にジンジン伝わってくる。2018年のアルバム『PEOPLE』に収録されている「Night Surf」は、メロウな空気を連れてくるが、途中からリズムが速くなる起伏の激しい曲で、客席は気持ち良さそうに体を揺らしていた。「Strawberry」はバンドアンサブルが素晴らしいソウルフルなナンバーで、さらに気持ちよくさせてくれる。リズム隊が太いビートを弾き出す「Bonfire」は、文学的な歌詞と高低差の激しい音域の歌が突き刺さってくる。渡會は激しく動きながら客席を煽るようにギターをかき鳴らす。

「3日に一回ライヴをやっていた」という今年の活動だが「どの会場にもたくさんのお客さんが来てくれたおかげ」と、改めてファンに感謝していた。そして全国ツアーでの愉快なローディーのエピソードを披露したほっこりタイムに続いては「今年一番歌った曲」と「写真はイメージです」を披露。現代社会のおかしさを端的に表す言葉とシニカルな歌詞が話題になり、大きな反響があって今年の活動の中では欠かせない一曲になった。そして「フォズヘッズに捧げます」(FoZZtoneのファン)と叫び、FoZZtoneの人気曲「Fish,Chips,Cigarettes」が投下されると大きな歓声があがり、客席の温度が一段階上がる。会場全体がノリノリだ。

「20年やっていてやっぱり音楽が面白いし、救いかもしれないと思える。救われたくて歌っているのかもしれない。その音楽に共鳴してくれる人がいるのが嬉しい」

『翌日tour』を振り返り「20年やっていてやっぱり音楽が面白いし、救いかもしれないと思える。救われたくて歌っているのかもしれない。その音楽に共鳴してくれる人がいるのが嬉しい」と、様々な場所、環境で様々な曲を歌い、20周年を締めくくる場所に辿り着いたひとりのシンガー・ソングライターの、心からの言葉だ。そして「自分を救いたくて作った曲です」と「万葉の花」を披露。言葉が突き刺さってくる。照明と相まってドラマティックな世界ができあがり、客席に感動が広がる。ミディアムロックの「in the mood」をギターをかき鳴らしながら歌い、そして「鶴のベース・神田(雄一朗)君に向けて歌います」と「Weather Report」を披露。brainchild’sのベースでもある神田がこよなく愛するこの曲は、爽やかな中にどこか憂いを湛えるミディアムバラードで、客席も前のめりで聴いているのがわかる。

そして20周年を経て次なるステージ=フェーズ3に向かうと宣言し、来年2月8日に弾き語りONEMAN LIVE “Phase 3”を行なう(SHIBUYA PLEASURE PLEASURE)ことを発表すると拍手が起こり、自身に向かって歌っているようなシリアスなポップス「雨に還れ」を披露。豊潤な歌が歌詞の情景を映し出す。グルーヴが気持ちいい「新千歳空想」は<だから今を大事に生きよう だなんてまるで脅迫みたいな説法だぜ>という言葉が突き刺さってくる。

20年を辿る旅。どの時代も全力を尽くし、音楽と真摯に向き合ってきたことが伝わってくるライヴだ。痛快なロックンロール「Good Routine」は、歌もギターも渡會節が炸裂し、心を躍らせてくれる。本編ラストの「Offshore」は、ギターが軽快にバッキングを刻み、タイトなビートが重なりいい薫りが漂ってくる。歌詞の中にアンドレ・ジッドの《海岸を見失う勇気がなくちゃ/新しい海には辿り着けない》という言葉が引用されているが、渡會の現在地をシンプルに映し出す言葉を最後に届ける。

アンコールは「タイガーリリー」から。アコギの弾き語りからルーパーで音を重ねていき、途中からバンドが入ってくる。どこかノスタルジーな空気を感じる曲を、突き抜けるようにどこまでも伸びる歌で届ける。まるで遠い過去まで届けるように歌っているようで、歌が心に響いてきた。2016年のアルバム『マスターオブライフ』に収録されている「風の歌を聴け」は、リズム隊とギターの音が重厚なサウンドを作り、歌を“太く”届けてくれる。オーディエンスは全身で歌を受け止め、感じている。しなやかでパワフルな歌が、一人ひとりの心の中に大きく広がっていく。そして「(FoZZtoneの)『Fish,Chips,Cigarettes』が最高の盛り上がりだったというのは悔しいから(笑)、この曲で最高に盛り上がって」と「コイコイ月見りゃSeptember」を披露。アシッドジャズを基点に生まれたラテンのビートを感じる、中毒性のあるナンバーだ。底抜けに明るい、熱量の高いフィナーレの曲に、客席はこの日一番の盛り上がりだ。

「21年目からもどうぞよろしく」とファンに伝え“Phase 3”、未来へと進み始めた渡會。インタビューで「20年間様々な音楽を転がしてきた」と語ってくれたが、この日のライヴはそれを強く感じることができた。まさに“A rolling stone gathers no moss”――進化を止めないシンガー・ソングライターの生き様を見せてくれた一夜だった。

【LIVE/EVENT情報】

■中田裕二×渡會将士 BOOKトーク&アコースティックLive「~枚方 蔦屋書店・文学サロンVOL.45~」

●2024年11月28日(木)

●枚方市総合文化芸術センター本館 関西医大 小ホール[OPEN 17:00 / START 18:00]

出演:渡會将士/中田裕二/聞き手:FM802 DJ・深町絵里

■「WATA LABO Presents 渡會将士クリスマスライブ 2024」

●2024年12月24日(火)、25日(水)

●東京・ROPPONGI C*LAPS[OPEN 18:00 / START 19:00]

※24日ソロ公演、25日バンドセット公演(SOLD OUT)※ファンクラブ会員限定LIVE

■「渡會将士 弾き語りONEMAN LIVE “Phase 3”」

●2025年2月8日(土)

●東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE[OPEN 17:30 / START 18:00]

渡會将士オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事