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反省→成功体験へ。日本代表、勝負の3連戦へ乗組員が献身。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
チームを率いるリーチ。(写真:アフロ)

 2015年のワールドカップイングランド大会で南アフリカ代表を破るなどして話題を集めたラグビー日本代表はいま、2019年の同日本大会へ向けた旅をしている。

 2016年からは国際リーグのスーパーラグビーへ日本のサンウルブズというチームが参画。代表チームで採用する戦術を試行錯誤したり、代表候補生たちに国際経験を積ませたりするためだ。2016年秋に就任した日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチは、今年からサンウルブズの指揮を兼ねている。

 現在、日本代表は世界ランク11位。ワールドカップ本番では同2位のアイルランド代表、同5位のスコットランド代表と予選同組となるなか、同予選上位2傑が出られる決勝トーナメント行きを至上命題としている。

 そして、その試金石となりうる3連戦が6月にある。9日、16日には同14位で欧州6か国対抗戦に参加するイタリア代表と大分、兵庫で、23日には愛知で同12位のジョージア代表とぶつかる。チームは好結果を残すべく、5月27日から宮崎で、6月3日からは東京で合宿を実施してきた。

乗組員の献身

 ジョセフは今回、選手の体調管理を前年以上に重視してきた。というのも、サンウルブズの指揮をフィロ・ティアティアに委ねていた前年6月の日本代表ツアーでは、ピーキングに泣いた。特に日本大会でぶつかるアイルランド代表との2連戦では、タックルを外され続けて序盤に連続失点。2連敗を喫した。以後はキック主体の戦術などに批判の矛先が向くなど、外部が混乱した。

 同じ轍は踏みたくなかった。開幕9連敗と苦しんだサンウルブズが2連勝を決めた5月中旬、ジョセフは日本代表に招集する選手の多くをサンウルブズから離脱させる。約1週間の休暇を与え、万全の状態で宮崎合宿を始めようとした。いざキャンプインすれば、現地では実戦練習と走り込みを交互におこなうセッションを続けた。疲れた状況での戦術遂行力を鍛えた。

「フィジカル、コンディションを整えないといけない。十分にフィットしていないと自分たちのラグビーもできませんから。戦術的にも精度を高く保ち、メンタル面も強く持ち、チーム一丸となって戦わねばならない。フィジカル的には、いい準備ができています。戦術面も、週末になれば問題ないでしょう。チームカルチャーも力強いものができています。一番のチャレンジは、強い相手と戦う時の精神的なチャレンジです。接戦を白星へ手繰り寄せるか」

 スタッフの証言によると、ジョセフは選手への意思伝達にも腐心していた。代表の理念が書かれているであろうノートを個別に配ると同時に、ミーティングで伝えたい真意などについて佐藤秀典通訳へ念押ししているようだ。

 今度の日本代表は33人中23人が日本語を母国語とするグループだ。46名中26名が海外出身者というサンウルブズの時以上に、日本語の重要性が増す。ジョセフは両軍の違いを鑑み、英語を日本語に変える際のプロセスに心を砕いたと見られる。

 もっとも「チームカルチャー」の形成においては、むしろ選手たちの自主的な態度が目立っていた。

 リーダーズグループの流大は、合計9か国から選手が集うサンウルブズではキャプテンとしてジョセフに控え選手との対話を増やすよう要求していた。

 代表活動が始まると、リーチ マイケルキャプテンが「人を巻き込もう」と言っているのだと30歳の浅原拓真は言う。試合の映像を観る時、整理体操をする時などは、必ず近くの味方に声をかけて一緒におこなうようにする。他にも日本人と海外勢が行動を共にする機会を増やすなど、意識ひとつでできる絆作りに注力する。乗組員の献身が、船頭の潜在的なニーズにリンクしつつある。

 2019年を見据えた施策もある。ワールドカップに出たことのある選手がそうでない選手に経験を伝える夕食会は、宮崎、東京でそれぞれ1回ずつは実施された。

 東京でのそれはポジションに分かれて異なる場所へ繰り出す少人数制だった。ウイング、フルバックの集まる会では、32歳の山田章仁がスマートフォンに保存する動画を再生。画面にはイングランド大会中に撮影した、試合を控えて緊張する福岡堅樹の様子が映っていたようだ。

 爆笑の渦が巻いたその場には、福岡も居合わせていた。当の本人は苦笑しながら「もう、消してもらってもよかったのですが…」と振り返ったものだ。

注目のセットプレーは…

 さて今度の相手は、いずれもスクラムやラインアウトといったセットプレーで持ち前の体格を活かす。アイルランド代表、スコッドランド代表も同種の強みを持っているとあって、スピーディーな展開に持ち込みたい日本代表とて、セットプレーでの抵抗力を示したいところだ。

 8対8で組み合うスクラムでは、長谷川慎スクラムコーチが低い姿勢での8人一体型のシステムを涵養。サンウルブズでも共有してきた独自言語を用いつつ、チェック項目を洗い出す。各地合宿で国際レフリーに練習帯同を頼み、当日に反則を取られるリスクを減らす。

 イタリア代表のスクラムについては、「少しストーマーズに似ているか…という感じ。ただ、ストーマーズほど強力ではないかなと見ています」とある選手。スーパーラグビーで戦ったクラブの名を出してテストマッチを展望するようになったあたりに、国際経験を積んできたメリットがにじむ。浅原は言う。

「イタリア代表は個々のパワーで来る。自分たちの間合い、テクニックで、自分たちのいいスクラムが組めるように仕向けます」

 空中戦のラインアウトでは、スーパーラグビー経験のないアニセ サムエラがサインコールを出す。

 サンウルブズのラインアウトは、南アフリカ出身のグラント・ハッティングの出場可否で成功率が変わっていたが、ハッティングはまだ代表資格を持たず今回も帯同せず。日本代表は空中戦の核を失ったように映るが、宮崎合宿中だった徳永祥尭は強調する。

「個人スキルにフォーカスした練習もやっています。最高到達点を上げるために(支柱役がジャンプ役の)モモ裏を持ったり、ジャンパーの着地の仕方にこだわったり…」

 ラインアウトの直後に組まれそうなモール(立ったボール保持者を軸とした塊)には、スクラムが専門の長谷川コーチも対策の糸口を見出している。

「色々な試合を観て『あ、彼らは強いな』と思っても、案外、自分たちのことを苦手としているかもしれない。モールをめちゃくちゃ押していたとしても、僕らはああいう(その映像で押されているチームのような)ディフェンスをしない。ただ××(強豪国)を押しているから強い、と言うのではなく、どうやって押しているのかまで見ないといけません」

 その他、攻防システムの遂行においても、細部へのこだわりが鍵を握りそうだ。

勝つことの意味

 今度のツアーおよびそれ以降の活動を、日本協会がどう評価、支援してゆくかにも注目が集まる。

 2016年にジョセフの招へいを決めた薫田真広強化委員長は、今季のサンウルブズのツアーへあまり出向く姿が見られなかった。もっとも今度の宮崎合宿では、薫田強化委員長に加えて中山光行技術委員長も視察に訪れていた。

 1999年のワールドカップウェールズ大会では故・平尾誠二元監督率いる日本代表を支えた中山技術委員長は、「勝負は大事。試合に向け、どれだけの準備ができているかも観ていかないといけない」。宮崎合宿などでの練習状況には、好感触を得ている。

 ジョセフ体制下では、ティア1と呼ばれる強豪国との対戦成績はここまで0勝1分5敗。スーパーラグビー参戦前だった前体制とて、ワールドカップ2年前の6月に当時欧州王者のウェールズ代表を下している。当時のメンバーが若手主体だったとはいえ話題を集めるには十分で、この折の成功体験が各選手の自己肯定感を高めたのも確かだった。

 イングランド大会までの過程への分別を欠く称賛は、思考停止を招きうる。とはいえ今度の3連戦の結果が現体制の価値を変え、本番への機運醸成を左右しそうなのは確かだ。選手たちも内容と同時に結果を求めていて、例えば2017年に代表デビューの徳永はこう発する。

「勝たないとファンが離れたり、叩かれたりすることが多くなる。ワールドカップにも繋がる内容で勝ちたいと思います」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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