きょうから検察官の判断で盗撮画像の消去が可能に 導入の理由と捜査への影響
きょうから検察官の判断で盗撮画像の強制的な消去や廃棄が可能となる。昨年6月に成立した性的姿態撮影等処罰法のうち、関連する規定の施行に基づく措置だ。不起訴になったり事件化が見送られたりした盗撮事件の画像ですらも消去や廃棄できるという画期的な制度にほかならない。
なぜ導入された?
盗撮事件が立件された場合、盗撮された画像が記録されているスマホやSDカードなどは証拠物として警察に押収され、検察に送られる。起訴されて有罪判決が下されたら、刑法の規定に基づいて没収できる。しかし、没収するか否かは裁判所の判断に委ねられており、必ず没収されるとは限らないし、没収されるのはスマホなどの現物であり、個別の盗撮画像データではない。
また、不起訴になったり余罪として事件化が見送られたりした盗撮事件だと、こうした強制的な手段すら存在しなかった。所有権は盗撮犯の側にあるから、これまではこの権利を任意に放棄するように検察官が粘り強く説得してきたものの、スマホなどには適法なデータも保存されており、頑として応じない者もいた。
そうなると、盗撮画像を消去しないまま還付しなければならず、被害者の不安は払拭されない。データは簡単にコピーできるので、盗撮犯や第三者によってネット上で拡散されるおそれがあるからだ。
そこで、盗撮など意に反した性的画像の撮影や記録、提供、送信、保管などを全国一律で広く処罰の対象にした性的姿態撮影等処罰法の制定に伴い、これまで漏れていたケースについても強制的な消去や廃棄を可能とする制度が導入された。
どのような制度か?
具体的には、刑事裁判を経ず、また、事件の起訴・不起訴を問わず、検察官の判断に基づく行政手続として、検察官が盗撮画像のデータを消去したり、データが保存されているSDカードなどを廃棄したりできるというものだ。コピーも含まれるし、クラウド上の保存データの消去を命じることも可能となった。被害者からの申立てなども一切不要だ。
基本的にはSDカードなどに保存されている個別の盗撮画像を1つ1つ消去することになるが、保存データが大量で盗撮画像か否かを個別に確認できないほどであれば、全てのデータを丸ごと消去することも可能となっている。また、技術的な理由などで消去自体が不可能なら、SDカードごと廃棄できる。
ただし、こうした措置をとるためには、盗撮犯らSDカードなどの所有者に対する聴聞の手続のほか、彼らの求めがあれば、盗撮画像とは無関係の適法なデータのコピーをUSBメモリなどに保存し、交付する手続をとる必要がある。また、検察官による消去の決定に不服があれば、その取り消しを求めるといった不服申立ての手続も用意されている。
捜査への影響は?
こうした制度の導入により、これまでさまざまな盗撮事件の捜査の中で盗撮犯に対して任意の所有権放棄に応じるように説得してきた時間と労力を全てカットできることになった。これをほかの事件に費やせることになるわけだから、捜査全体に与える影響は大きい。
一方で、ハードディスクなどの保存容量が巨大化する昨今、盗撮画像とそれとは無関係のデータとを区別し、問題のないデータのコピーだけをUSBメモリなどに保存して盗撮犯らに交付するといった作業には、間違いなく相当の時間と労力を要するはずだ。また、盗撮画像の消去を済ませたら、ハードディスクなどの現物は還付しなければならないから、還付後に消去データを復元されないように、特別なツールを使い、時間をかけ、絶対に復元できない方法で消去しなければならない。
保存データが大量で、あまりにも手間と時間がかかるということになれば、全てのデータを丸ごと消去するとか、ハードディスクそのものを廃棄するといったイレギュラーなやり方が常態化するかもしれない。
こうした消去や廃棄の制度は、盗撮画像だけでなく、児童ポルノの画像やリベンジポルノ法が規定する性的な画像も含まれる。被害者の保護のためにも、効果的で適正な運用が求められる。(了)